ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが取る「3つの可能性」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月1日放送)に経済アナリストのジョセフ・クラフトが出演。イギリスのジョンソン首相が来日を取りやめたというニュースについて解説した。

ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが取る「3つの可能性」

2021年12月21日、ロシア国防省幹部の会合で話すプーチン大統領(タス=共同) 写真提供:共同通信社

イギリスのジョンソン首相、来日取りやめ

日本とイギリスの両政府は、2月中旬に向けて調整を進めていたジョンソン首相の来日を取りやめた。ウクライナ情勢の緊張状態が続いていることを受け、この時期の来日は難しいと判断した。

飯田)ジョンソン首相をめぐっては、新型コロナ感染防止の行動規制があるなかで、首相官邸でパーティーがあったという話も出ています。ウクライナ情勢もありますが、今回はどちらの影響が大きいのですか?

首相官邸でのパーティー問題が本当の理由 ~事実であれば国会での虚偽答弁に

クラフト)ウクライナ情勢ではなく、パーティー疑惑の方に尽きると思います。昨日(1月31日)、警察の捜査レポートが提出されて、少なくとも12件のパーティーがあり、うち2件はジョンソン首相自らが参加しているということです。いちばん問題視されているのが、自宅でのパーティーが1件あるということです。それを国会でジョンソンさんは否定しているので、これが事実だとすると……。

飯田)虚偽答弁になってしまう。

クラフト)もしも虚偽答弁だった場合、辞任ということになってしまいますので、日本に来ている場合ではないのです。

飯田)なるほど。いまはロンドンからも出られない。

クラフト)そうです。

飯田)それほど進退窮まっているのですか?

クラフト)相当厳しいですね。今週が山場だと思います。昨日の国会では、謝罪だけでは済まされないと。とにかく平謝りでした。

飯田)さすがにその話を日本の外務省が公にするわけにもいかないというところで、理由をウクライナ情勢にしたのですね。

クラフト)ウクライナも緊迫しています。そこも重要ですから、いま海外に出るべきではないということは当然なのですが。

ウクライナ情勢 ~NATOの足並みが揃っていない

飯田)イギリスはEUから離脱していますけれども、NATOの構成国でもあります。ウクライナ問題は直近の大きな課題ということになりますか?

クラフト)大きな問題です。イギリスとアメリカが制裁において波長を合わせていますけれども、EUの足並みが揃っていません。NATOも揃っていない。プーチンさんとしては、足元を見て揺さぶりをかけて来ている。NATOはより結束して強い姿勢を見せないと、このまま事態の収拾がつかなくなるのではないかと懸念しています。

欧州へ供給されているロシアのガスに替わる供給元を探すアメリカ

飯田)足並みの乱れで指摘されるのが、ドイツです。ヘルメットしか送らないではないかと。ウクライナ側は、「大河の一滴かよ」というようなことまで言っているらしいですが。

クラフト)がっかりですよね。メルケル首相はドイツの歴代首相のなかでも極めて優秀でしたが、1つ汚点があるとすれば、原発をやめてドイツのエネルギー政策をガスに依存してしまったということです。

飯田)原発をやめて。

クラフト)そのために、ロシアに依存してしまう。ですから、今回のようなウクライナ問題が起きても強気に出られないのです。ペンタゴンの元幹部が言っていましたが、アメリカはドイツをはじめ、欧州へエネルギー供給されているガスの代替供給元を必死に模索しているそうです。

ロシアと交渉する前に同盟各国をまとめなくてはならないアメリカの焦り

飯田)エネルギー事情を考えると、ウクライナ周辺をスルーして、バルト海からガスを直接運んで来る「ノルドストリーム2」というパイプラインを、ドイツとしては稼働させたい。

クラフト)稼働したい一方で、いまアメリカ議会は、ノルドストリーム2に対する制裁法案を審議している最中です。これが可決されると、バイデン政権も制裁を加えなければならなくなります。

飯田)ドイツに対して。

クラフト)ドイツだけではなく、パイプラインに携わっているロシアの企業にも。そこでますますこじれるでしょう。ドイツのショルツ首相が2月7日に訪米しますが、そこで両国の見解を合わせることが急務だと思います。

飯田)アメリカとしてもロシアと交渉する前に、まず同盟各国をまとめなくてはならない。

クラフト)そういう焦りはありますね。

ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが取る「3つの可能性」

16日、ジュネーブで握手するバイデン米大統領(右)とロシアのプーチン大統領(ロイター=共同)=2021年6月16日 写真提供:共同通信社

背に腹は代えられない状況のドイツ

飯田)ショルツ政権は発足したばかりです。人権問題を考えると、中国に対してはかなり厳しい姿勢を取るのではないかと言われていましたが、ロシアに対しては、メルケル政権とあまり変わらないということでしょうか?

クラフト)基本的に緑の党など、人権問題に厳しい、あるいは反ロシアの議員がかなりいます。しかし、エネルギー価格が去年(2021年)から倍近くなっているのです。さらにここで供給が止まってしまうと世論が許さないでしょう。政権としても、中国、ロシアは支援したくないのですけれども、背に腹は代えられない部分があります。そこは悩んでいるのではないでしょうか。

飯田)その辺りを見ながら、プーチン氏はどう次の手を打って来るのか。ウクライナ国境ですが、ロシアとの国境だけではなく、ベラルーシとの国境にも兵力を入れています。そしてベラルーシからキエフまでというのは、ウクライナにかなり……。

クラフト)近いです。

飯田)ですから、危ないのではないかという話が出ていますが。

クラフト)南の方では、モルドバにも軍隊を置いて周りを固めています。ですので、緊張は相当高まっています。

ロシアが取る3つの可能性

クラフト)元ペンタゴン幹部は、ロシアが動くとすれば、3つの可能性があると言っています。

飯田)3つの可能性。

クラフト)1つ目はウクライナ東部、あるいはベラルーシの国境沿いを部分的に占領する。しかし、ここは既に親ロシア派が占領しているところですから、経済制裁を受けてまで占領するメリットがありません。もう1つは、ウクライナ全土を占領する。これに関しては、ロシア兵も犠牲を払うことになります。アメリカも既にいろいろな物資を送っていますし、ウクライナも体制を固めてしまっているので、これもリスクがある。

飯田)なるほど。

クラフト)3つ目としては、ベラルーシからロシアにミサイルを配備したり、国境付近に兵士を置いてウクライナのゼレンスキー政権を揺さぶり、転覆させ、数年かけて親ロシア政権を樹立し、やがてウクライナと連携を組むという長期戦に持って行く可能性がある。

飯田)新ロシアの政権を立てて。

クラフト)プーチン大統領なので、侵攻しても不思議ではありません。その準備はやっておかないといけない。しかし、プーチン大統領のことですから、とにかくNATOとして結束しないと、足元を見られるということです。

飯田)親ロシア派の大統領で、一時亡命していたポロシェンコ氏が戻ったというような報道もありました。いろいろな手を打っているということですか?

NATOそれぞれの国の思惑がある ~そこを突くプーチン大統領

クラフト)そうですね。揺れているのはドイツだけではありません。フランスも今年(2022年)選挙がありますから。

飯田)大統領選ですものね。

クラフト)マクロン大統領としても、アメリカ側につくだけではダメですから、何か打開策を見出したいと考えるでしょう。

飯田)独自性を出したい。

クラフト)そういうことです。NATOのなかでも、それぞれの国に思惑があるのです。そこをプーチン大統領がうまく突いて来ているのだと思います。

日本はどう動くべきか

飯田)日本が動ける余地はありますか?

クラフト)日本としては、ロシアとの関係を考えると当然、一定の経済制裁に賛同しなければいけません。しかし、欧米ほど厳しくする必要はないので、したたかに、ロシアとの関係を切らない程度に、欧米とも波長を合わせるということです。岸田政権にその微妙な立ち回りができるかどうかが見どころだと思います。

飯田)その点、バイデン政権としては、日本にも強い姿勢を見せて欲しいという意図はありますか?

クラフト)先日の日米オンライン会談で、ウクライナ問題についての話題は出ましたけれども、時間的にそれほど長く話していませんし、バイデン政権からの強い要望もなかった。ですので、岸田政権としては、ある程度動ける範囲、余裕はあるのではないかと思います。もちろん、まったく制裁なしというわけにはいかないので、それなりに波長を合わせて行くでしょうけれども、うまくやれるかどうかですね。

飯田)「力による現状変更は認めないぞ」というメッセージとしての制裁は必要だということですね。

クラフト)違法行為ですから。ただ、完全にバイデン政権が押されてしまっています。北朝鮮がミサイルを撃ちましたが、そこでバイデン政権が言ったのは、「話し合いをしましょう」ということです。それでは弱いですよね。足元を見られてしまいます。

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