中国がロシアとウクライナの仲介役になる可能性はゼロではない
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月4日放送)に慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子が出演。中国政府がロシアへの制裁に反発し、「ロシアと正常な貿易協力を進める」と表明したというニュースについて解説した。
中国がロシアへの制裁に反発
ウクライナへの軍事侵攻を受けて各国がロシアへの経済制裁に乗り出すなか、中国政府は「ロシアと正常な貿易協力を進める」と制裁に反対する姿勢を表明した。また「中国とロシアは引き続き正常な貿易協力を進めたい」と述べ、天然ガスなどの購入を続ける考えも強調した。
飯田)北京オリンピックが始まる直前に、中露首脳会談がありました。そこでいろいろなディールをまとめたという話が出ていましたが。
廣瀬)ロシアが中国に対し、石油や天然ガスをさらに輸出するというようなディールが結ばれています。
飯田)さらに輸出すると。
廣瀬)2014年のクリミア併合直後、ロシアは大量の天然ガスを中国に輸出するというディールを結んでいます。それまで、その交渉は相当長く行われていましたが、価格で折り合いがつかずに長年、交渉のままで終わっていたのです。
飯田)交渉のままで。
廣瀬)しかし、クリミア併合の直後に、ロシアが価格で折れる形でディールが結実し、「シベリアの力」という新しいパイプラインをつくり、非常に多くの天然ガスが送られるようになりました。今回はそれ以来の大型ディールなのです。世界のなかでロシアが孤立する際に、中国がロシアを救済するというような構図が生まれています。
SWIFTから除外されたロシアが人民元のCIPSを抜け穴に、国際的な貿易を継続する可能性も
飯田)同じように世界中から制裁を受けたイランに関しても、輸出できなくなった石油について、中国がかなりの額を買ったという話もあります。今回も国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア除外など、強い制裁が起きていますが、中国が抜け穴になるという懸念はありますか?
廣瀬)中国が抜け穴になる可能性が高いですね。今回、かなりの部分でSWIFTからの排除が適用されてしまうわけですけれども、その抜け道として考えられているのが、人民元での「国際銀行間決済システム(CIPS)」という金融システムです。そこを抜け穴にロシアが今後、国際的な貿易を継続する可能性が考えられています。
中国がロシアとウクライナの仲介役になる可能性も
飯田)その中国に対して、「和平仲介を頼めないか」というオファーが、ウクライナから外相会談で出て来たという話ですが、中国が動くことはないのですか?
廣瀬)実は、中国はロシアに負けないくらいウクライナと緊密な関係を持っています。軍事的な協力関係も緊密ですし、中国が行っている「一帯一路」政策においても、ウクライナが占める地政学的な位置は非常に重要です。
飯田)一帯一路においても。
廣瀬)さらにウクライナは農業国で、特に小麦の産出が有名ですけれども、中国はウクライナからたくさん小麦を買っています。また農地をウクライナに借りて中国農民が農業をやり、中国に農産品を輸出しています。
飯田)そうなのですね。
廣瀬)そもそも中国にとって、ロシアとウクライナが戦うという状況は避けたかったことなのです。できれば両方との関係を維持しつつ、国際社会のなかで中国の立場を高めて行きたいという思いもあります。
飯田)中国の立場を高めたいと。
廣瀬)両方の間で中立の立場を維持できますし、国際的なプレステージも維持できるということで、仲介役の話に中国が乗って来る可能性はあると思います。
ウクライナ情勢を注視する中国 ~台湾侵攻での状況を想定できる
飯田)直前の中露首脳会談のなかで、ウクライナ情勢も含めてお互いの立場を尊重するというか、「口を出さない」というようなことを約束してしまったので、中国は手を出せないという報道もありますが、いかがですか?
廣瀬)それもありますね。中国にとって、「きょうのロシアは明日の中国」かも知れません。例えば今後、台湾侵攻などがあるとすれば、いまの国際社会のロシアに対する反応は、それを想定させるものです。中国はそのことも踏まえて、現状を注視している状況だと思います。
飯田)東アジアに波及して来るのではないかということは、西側の識者もみんな言っています。中国は「これがうまく行けば、うちもできる」と思っているのですか?
廣瀬)若干、思っている節はあるのですが、やはりいまのロシアが直面している状況は相当厳しいものです。逆に、台湾侵攻などを手控える方向へ向かってくれればいいなと、私自身は思っています。
飯田)力による現状変更をしようとすると、これだけ世界中からしっぺ返しが来てしまうということを。
制裁に対応する経験値を持っているロシア ~ダメージはあるが
飯田)逆に言うと、それだけ経済制裁がロシアに効いている可能性が高いということですか?
廣瀬)短期的には効かない可能性が高いのですが、これだけ最高レベルに至る経済制裁が続けば、今後は相当なダメージを受けると思います。ただ、ロシアは2014年以降、さまざまな制裁を受けていまして、制裁への耐性ができてしまっているのですね。
飯田)制裁慣れのようなものですか?
廣瀬)制裁慣れですね。国民も制裁慣れしていて、なるべくドメスティックなもので対応したり、輸出入を多角化して制裁のダメージを避けています。ロシア国内の産業構造も変えて、ソ連時代に廃れていた産業を復興させたり、汚職を廃絶したりして、実はロシア経済の効率化に制裁が役立っているような面もありました。ですから、制裁も少しずつ対応すれば何とかなるというような経験値を持ってしまっているところもあるのです。
ハイブリッド戦でも失敗したロシア
飯田)廣瀬さんはハイブリッド戦についても深く研究されています。今回、ロシアの情報の出し方や西側への情報工作などについて、これだけ評判が悪くなってしまうと「失敗しているのではないか」とも思えるのですが、ロシアは何か手を打っていたのですか?
廣瀬)ロシアはこれまで、いろいろな面でハイブリッド戦争を展開して来ました。かなり前から情報戦もやっていましたし、ウクライナ国内に工作員を送り込んで誘導政策等もやっていたわけですが、今回は完全に失敗したと言っていいと思います。
飯田)失敗した。
廣瀬)今回については、特にアメリカが展開したような「情報を積極的に出して行く」という戦略の方が、むしろ国際社会には訴えが通じたという分析ができると思います。そこでつまずいたことも、いまの戦略がうまく行かない1つの要因になっているのではないでしょうか。
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