産経新聞ソウル支局長の桜井紀雄氏が5月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。韓国・ソウルで行われた尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏の大統領就任式について解説した。
韓国新大統領に尹錫悦氏が就任
5月10日、韓国・ソウルで尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏の大統領就任式が行われた。尹大統領は演説で、核・ミサイル開発を加速する北朝鮮にまず「実質的な非核化」を求め、進展があれば経済支援などを検討する考えを示した。融和的な政策だった前政権の方針から転換する姿勢だ。
飯田)韓国社会の格差問題については、「経済成長なくして解決は難しい」と強調しています。日本からは林外務大臣が就任式に参加しました。尹新大統領とも会談し、岸田総理の親書を手渡したということです。10日の就任式を取材されていて、印象的なことはありましたか?
桜井)5年前に文在寅大統領が就任した際は、突然、朴槿恵大統領が弾劾されて急な選挙だったこともあり、簡略化された大統領就任式でした。ですので、今回は約10年ぶりに大規模な大統領就任式が開かれたわけです。
自由民主主義をもう一度立て直す ~「自由」という言葉を35回繰り返す
飯田)前回の文さんのときには、外国から人は呼ばなかったという報道がされていますが、今回はその意味では、華やかになったということですか?
桜井)そうですね。通常、就任演説は側近たちからの意見を汲み取った上で原稿をつくるものですが、尹さんはご本人がかなり筆を入れたそうです。非常に短い就任演説で、1つのテーマに限ったことを強く打ち出した内容でした。
飯田)テーマはどういうものだったのですか?
桜井)自由民主主義をもう一度立て直すというもので、「自由」という言葉を35回も繰り返しました。
飯田)それだけ尹氏のなかに「自由が損なわれている」という危機感があったわけですか?
桜井)彼が昨年(2021年)6月に出馬を宣言したときも、「自由民主主義の立て直し」ということを訴えていました。彼は政治経験がまったくなく、ずっと検事の現場で検察官や検察幹部としてやってきたのですが、そのなかで「自由民主主義が脅かされるのではないか」という危機感から彼は出馬したのです。改めてそれを就任演説で訴えたという形です。
「文在寅政権とは逆の方向の国づくりをする」と宣言
飯田)もともと朴槿恵政権に対しての捜査等々で尹さんは目立ってきて、文在寅政権に対しても厳しい姿勢でした。その辺りの民主的なものが、権力によって壟断されるということに対しての危機感があったわけですか?
桜井)法治主義として、日本でもそうですが、法律を守ると。自由民主主義という規範を守るというところが脅かされているのではないか、という意識のもとで大統領選に出馬した経緯があっただけに、それを就任演説でも訴えたというところがありました。
飯田)前政権の退陣直前に検察の力を弱めようという法案が出ましたが、そういうことに対してのアンチテーゼがあったわけですか?
桜井)演説しているとき、すぐ後ろに文在寅さんがいらっしゃったので、文在寅さんに対して「これがダメだ」ということは出さなかったのですが、完全に「私は文在寅さんとは逆方向の国づくりをしますよ」と宣言するような形になりました。
国会では旧与党「共に民主党」が6割の議席を占める
飯田)大統領選ではかなり僅差だったわけですよね。
桜井)そうですね。
飯田)その後、韓国の社会全体として、新大統領に対する温度感はいかがですか?
桜井)こちらの世論調査会社が世論調査をしているのですが、「今後の尹錫悦さんに期待する」という支持は、50%を切ったり、少し超えたりするくらいです。半分程度の支持率しかないような、異例の低支持率でのスタートになっています。
飯田)そうすると、何かやろうと思っても約半分は反対であると。これはきついですね。
桜井)その上、国会では野党に転落しましたが、文在寅政権を支えてきた旧与党である「共に民主党」が、6割の議席を占めている状態です。
飯田)いきなりレームダックの可能性もあるわけですか?
桜井)そうですね。
「私を守ってくれますか」と支持者に訴えた文在寅前大統領
数量政策学者・高橋洋一)韓国の大統領というと、前任者がどうなるのか気になるのですが、文在寅前大統領はこれからどうなるのですか?
桜井)文在寅さんは9日に退陣するとき、「私は成功した大統領ですか? 今後も成功した大統領として、歴史に残るために支持してくれますか?」と支持者に訴えたわけです。これまでの韓国の歴代大統領は、不幸な歴史を辿った方々が多かったですよね。そのため、「傷つけられないように守ってくれますか?」ということを遠回しに訴えたわけです。
「日韓関係をよくしましょう」と盛り上がった外相候補・朴振氏と林外相との会談
飯田)日本との関係なのですが、今回、林外相がソウルに行きました。尹さんとも10日に会ったということですが、手応えはあったのでしょうか?
桜井)その前日には、こちらの外務大臣候補である朴振さんという方と会っているのですが、林さんは去年(2021年)のG7会合のときに、いきなりピアノを弾き出しましたよね。
飯田)「イマジン」を演奏しましたね。
桜井)朴振さんも学生時代にバンドをやっていたという方で、「日本と仲よくしたいのだ」と、日本と韓国の両国でヒットした「釜山港へ帰れ」という曲がありましたよね。
飯田)「釜山港へ帰れ」。
桜井)「『釜山港へ帰れ』のハーモニーを一緒に奏でていきましょう」ということを言ったところ、会われた際に林さんが「『釜山港へ帰れ』を練習してきたのです」と言っていました。双方ともに「待ったなしなので、日韓関係をよくしましょう」という会談で話が盛り上がったそうです。
野党が議席の6割を占めるなかで、対日問題についてどれだけ具体的な措置が取れるかは未知数
飯田)日本国内からすると、いわゆる徴用工問題もあり、棘が刺さっているのに「前のめりの姿勢でいいのか」という向きもありますが、その辺りはいかがですか?
桜井)結局、やる気があっても、先ほど申し上げた通り、裁判の問題があります。法的措置をしなければならないときに、野党が6割を占めているような国会のなかで、どれだけ具体的な措置が取れるのかというところが未知数です。
飯田)そうですね。
桜井)その上、旧与党であった文在寅さんを支えていた「共に民主党」が閣僚を認めるときに、「あなたは親日派ではないか」という攻撃を展開しているのです。
飯田)1つやろうとすると、うまくいかないことに。
桜井)足を引っ張ってしまう。
飯田)日本としても、少し引いた立場にならざるを得ないという感じになりますね。
桜井)そうですね。
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