話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5月24日に開幕したセ・パ交流戦、ヤクルト・巨人との6連戦で「ビッグボス」こと日本ハム・新庄剛志監督が見せた采配とコメントにまつわるエピソードを紹介する。
5月24日から開幕した、毎年恒例のセ・パ交流戦。29日で各チームとも2カード6試合を終え、対戦成績はセが17勝、パが19勝。交流戦順位は、4勝2敗の3チーム(ヤクルト・西武・ソフトバンク)を、3勝3敗の7チームが1ゲーム差で追う混戦模様の展開になりました。
なかでもこの6試合、交流戦を大いに盛り上げたのが、ビッグボス・新庄監督率いる日本ハムです。まずはセ・リーグ首位のヤクルトと神宮球場で対戦。●●○と負け越しましたが、すべて最後まで手に汗握るゲームで、日本ハムは終盤まで試合を優位に運び、3連勝していてもおかしくない内容でした。
24日の初戦は、先発・加藤貴之が7回無失点と好投。7回まで1-0と日本ハムがリードし、そのまま逃げ切りそうな雰囲気でしたが、ヤクルトは8回、2番手の堀瑞輝から代打・内山壮真がバックスクリーンへ同点本塁打(しかもプロ初アーチ)を放ち同点に。
延長10回、日本ハムは無死満塁のチャンスをつくりますが、田口麗斗の前に、清宮幸太郎・万波中正・宇佐見真吾が凡退。11回、ヤクルトは主砲・村上宗隆が、北山亘基から、打った瞬間行ったとわかるサヨナラ2ラン! 日本ハムは惜敗しましたが、ビッグボスは試合終了後のインタビューでこうコメントしました。
『いまヒーローインタビューしている内山君。あそこでバックスクリーン、放り込むんだからね。最後の村上君も、北山君との力の勝負で。あそこで打つんだから素晴らしいですよ』
~『道新スポーツ』2022年5月24日配信記事 より
負けて悔しくないはずがありませんが、力の入った好勝負を見せてくれた選手たちを敵味方関係なく讃えたところは、実にビッグボスらしいところです。
ところでこの試合、新庄監督は交流戦初戦にどんなオーダーを組むのか注目していたところ、4番に抜擢したのが清宮でした。その理由について、新庄監督は、以下のように述べています。
『なんか神宮、慣れているらしいじゃない。打席での感覚がこう昔を思い出して。左中間あたりに放り込んでくれるイメージ。放り込まなくても、左中間にツーベースとか。そういうイメージが湧いて』
~『道新スポーツ』2022年5月25日配信記事 より
早稲田実業高出身の清宮にとって、神宮は高校時代に何度も戦った球場。本塁打を量産していた高校時代を思い出してくれるんじゃないか、という期待に加え、新庄監督にはもう1つ、別の狙いがあったと推察します。
それは「清宮を“4番”として、村上と対峙させること」。2人はともに2017年のドラフト1位ですが、当時注目を浴びたのは、高校生最多タイの7球団から指名された清宮でした。ヤクルトも清宮を1位指名。抽選に外れ、代わりに指名したのが村上なのです。
その後の2人の成績はご存じのとおり。プロ4年目の昨季(2021年)、村上は主砲としてチームを日本一に導き、セ・リーグMVPに輝きました。一方、清宮はプロ入り後初めて1軍出場がゼロ……清宮には酷な言い方ですが「ヤクルトはクジを外してラッキーだった」という状況になっています。
清宮を村上と“4番”として対峙させ、彼我の差を肌で感じさせる機会は交流戦しかありません。この試合、延長戦で無死満塁の絶好機に三振した清宮と、一発で試合を決めた村上。まさに“4番の差”で勝敗が決しました。その悔しさを清宮がどう成長への糧にするか? 新庄監督はそこに期待しているのです。
しかし……翌25日の第2戦、3番で先発した清宮は、タイムリーを含む2安打1打点と活躍しましたが、守備と走塁でミスを犯します。
日本ハムが1点を勝ち越した直後の8回裏、ヤクルトの攻撃。1死二塁の場面で、日本ハム・堀はオスナを内野ゴロに仕留めますが、折れたバットを避けたため、一塁へのベースカバーに入れませんでした。ゴロを捕球した一塁手の清宮はそのことに気付かず、内野安打に。堀は次打者の青木に同点タイムリーを打たれ、守備のミスが痛い失点につながってしまいました。
しかし9回、日本ハムは清宮と野村佑希の連続タイムリーで2点を勝ち越し、なおも1死一・三塁のチャンス。ダメを押したい新庄監督は、ここでダブルスチールのサインを出します。捕手が二塁に送球する間に、三塁走者の清宮がホームを突く、という作戦でしたが、清宮のスタートが遅れ本塁で憤死。追加点を奪えませんでした。
その裏、ヤクルトは山崎晃大朗が逆転サヨナラ3ランを放ち、2夜連続で劇的勝利。新庄監督は試合後、前夜とはうって変わって厳しい表情で、清宮の走塁ミスを一刀両断しました。
『ダブルスチールで、あんなミスしていたら一生、上に上がっていけないよね』
~『道新スポーツ』2022年5月25日配信記事 より
実はこの日、清宮は23歳の誕生日でした。決勝打を放ってヒーローになるはずが一転、悪夢のバースデーに。翌26日の第3戦、清宮はスタメンを外されました。しかし8回、新庄監督は代打で清宮を起用、そのまま一塁守備に。愛のムチを振るいながら、こうして必ず挽回の機会を与えるのもビッグボス采配の特徴です。
日本ハムは2点ビハインドの9回、万波・アルカンタラの連続アーチで同点に追い付くと、延長10回、先頭の清宮が四球を選びチャンスメイク。これが万波のタイムリー、アルカンタラの2打席連続本塁打につながりました。
鮮やかな逆転勝ちで、ヤクルトに一矢報いたビッグボス。神宮でヒーローになれなかった清宮は、札幌ドームに帰って奮起します。28日の巨人戦で2打席連続アーチを放ち、試合には敗れましたが、ドームを埋めた2万7000人のファンを沸かせました。
清宮に限らず、新庄監督の選手起用は一貫しています。実力があると見込んだ選手は、過去の実績にかかわらず優先的に使い、結果が出なくても挽回の機会を与える。現有戦力が経験の少ない若手ばかり、というチーム事情があるにせよ、指揮官としては勇気が要ることです。
その代表例が、2戦連続サヨナラ本塁打を浴びた翌日、北山を3たび抑えとしてマウンドに送り出したことです。新庄監督は、北山にこう声を掛けました。
『ファンのみんなが遅くまで残ってくれて見ているから、超えて行け』
~『道新スポーツ』2022年5月27日配信記事 より
4点差の楽な場面でしたが、北山は塩見泰隆にタイムリーを打たれ、3試合連続で失点。さらにランナーを2人置き、打席には前夜逆転サヨナラ弾を放った山崎晃大朗。一発出れば同点のピンチを迎えます。しかし、新庄監督は動きませんでした。「自分で乗り越えろ」。
北山は山崎を中飛に打ち取り、ゲームセット。この日投げた23球はすべて直球。新庄監督の「超えて行け」という言葉を受けて「一歩も退かずに、打者に向かって行こう」という意思を持って投げた、気迫のピッチングでした。
そして、この「何とか自分で乗り越えよう」と奮闘する北山の姿は、チームメイトの闘志にも火をつけました。この日、バットで北山を援護した万波は、こう語っています。
『北山さんが(肩を)つくっていたのが見えていたので、3連投いくんだと思って、何とか1点でも多くと思った。その気持ちですね』
~『道新スポーツ』2022年5月27日配信記事 より
その万波が、27日の巨人戦で、2点リードの5回、ライト前の打球を後逸。打者走者の生還も許し、2点差を追い付かれたシーンがありました。二塁走者の生還を阻止しようと前に出たのが仇となりましたが、エース・上沢直之は後続を断ち、ベンチで落ち込む万波を励ましました。
『積極的なチャージはすごく大事なことだと思うし、あいつの肩に助けられたこともある。殺しにいく姿勢は大切だと思うし、ミスをなんとかカバーするのが僕の仕事。ああいう姿勢を忘れずにどんどん前に来てほしい』
~『道新スポーツ』2022年5月27日配信記事 より(上沢のコメント)
8回、横浜高の先輩・浅間大基が、後輩のミスを帳消しにする決勝アーチを放ち、日本ハムが勝利。試合終了後、万波は、チームメイトが自分のミスをフォローしてくれたことへの感謝の思いか、ミスしたことの悔しさか、ベンチで泣いていました。その姿を見た新庄監督は、試合後こう語りました。
『ね。きのうは北山君、きょうは万波君。あしたは誰かな。泣き虫集団、いいね、ね』
~『道新スポーツ』2022年5月27日配信記事 より
まだまだ未熟な点は多いものの、自分の至らなさを悔しいと感じ「チーム一丸となって戦う集団」へと成長を遂げつつある日本ハム。巨人戦は○●○と勝ち越し。セ上位との6連戦を終えて3勝3敗は大健闘と言えるでしょう。この交流戦、ビッグボス率いるファイターズ(=戦闘集団)は、セ・リーグにとって手強い相手になりそうです。