外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が6月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「OPECプラス」で合意された原油生産量の増産拡大について解説した。
OPECプラス、原油生産量の増産拡大で合意
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国で構成する「OPECプラス」が、閣僚級会合で7月と8月に原油生産量を増産することで合意した。
平時の値段はマーケットで決まり、有事には政治的に決まる石油の価格 ~平時であれば、上がりすぎた価格は下がる
飯田)これでエネルギー価格は下がるのですか?
宮家)エネルギー、特に石油の場合は、平時の値段はマーケットで決まり、有事には政治的に決まるものです。いまは一種の有事です。もし通常のようにマーケットが動いている平時であれば、経済合理性に基づいて、上がりすぎていれば下がっていくわけです。上がりすぎれば増産して下がりますから。
飯田)平時であれば。
宮家)サウジアラビアなどは、あれだけの埋蔵量があるわけですから、高くなればいいというものでは必ずしもないのです。原油埋蔵量の価値を最大化するには、高すぎない安定した価格ができるだけ長く続くことが大事です。値段が高くなって代替エネルギーが離陸したときには、原料以外で石油など誰も買わなくなるでしょう。
いまは政治的に動いている ~ロシアの影響が大きい
宮家)燃料として売る場合、値段はそこそこでなければならないというのが、サウジの本来あるべき姿なのです。ですが、いま値段は政治的に動いているので、それは通用しません。
飯田)政治的に動いているから。
宮家)なぜ政治的に動くかというと、いろいろな理由があります。コロナ禍もあるだろうけれど、いちばん大きいのはロシアの動きです。
アメリカとサウジアラビアの関係
宮家)もう1つ大事なのは、サウジアラビアとアメリカの関係がよくないということです。トランプさんのときは、異常なくらいよかったのですが・・・。
飯田)トランプ元大統領のときは。
宮家)そのあとサウジのジャーナリストが、イスタンブールのサウジ総領事館のなかで殺害される事件がありました。それでいまアメリカとの関係が、特に民主党バイデン政権との関係が悪い。「何とかしなければいけない」という動きは、アメリカのなかにもあります。
飯田)アメリカにも。
宮家)それが少しずつ動き出して、今回やっと説得に応じたということです。どこかで政治的な手打ちがあったかどうかは分からないけれど、米サウジの関係改善がなければ、こういう形にはならないだろうと思います。
OPECプラスの結束はない ~当分、石油の価格が大きく下がることは期待できない
宮家)逆に言うと、いまの状況では、産油国はまだ政治的に動くことがあるだろうと思います。私がもしOPECプラスの産油国であれば、結束などしませんよ。
飯田)しないですか?
宮家)しません。どこの国も、基本的には自分の国の収入を大きくする願いを持っているのです。経済合理性で考える限りは、ある程度みんな結束するだろうけれど、政治的に動く場合は決して結束しないと思います。
飯田)政治的に動く場合は。
宮家)その意味では当分、値段が簡単に大きく下がるような期待はしない方がいいと思います。私はエネルギーの専門家ではないけれども、何十年か中東を見ているとそんな気がします。
飯田)結束しないということは、抜け駆けする国がある。
宮家)それを含め、何があってもおかしくないと思います。
飯田)ロシアはウクライナ侵略の当事国でもあるなかで、日量平均1100万バレルから、4月は1000万バレルまで落ち込んでいると言われています。しかし、日量1000万バレルも出せてしまうのですね。
宮家)出せてしまうのです。サウジが1000万~1100万くらいですから、今は大体サウジと同じです。ただ、埋蔵量とコストの面では、サウジの方が圧倒的に安いと思います。だからこそサウジは高くなりすぎて売れなくなったら困るわけです。
ロシア産の石油はどこの国が買うのか
飯田)ロシア産はどこが買うのですか?
宮家)いまは世界的にダンピングしているはずです。
飯田)なるほど。
宮家)中国やインドなど、制裁に参加していない国は「こんなに安いのか」と大量購入しているでしょう。ただ、大量に買っても備蓄できるわけではないし、冷凍するわけにもいかないので、限界があるとは思います。
飯田)西側が結束して制裁しているのですが。
宮家)制裁は必ずしも効くわけではない。それは仕方がありません。
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