神奈川大学法学部・法学研究科教授でアジアの国際政治専門の大庭三枝氏が6月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理がアジア安全保障会議で行う基調講演について語った。
岸田総理、「アジア安全保障会議」で20ヵ国に海上保安協力を進める方針表明へ
6月10日からシンガポールで開かれるアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で岸田総理が行う基調講演の概要が判明した。インド太平洋地域の海洋秩序維持に向け、20ヵ国以上で海上保安能力向上のための技術協力を進める方針を表明。2023年の春までに「自由で開かれたインド太平洋」を推進する計画案を策定する考えも示す見込みだ。
インド太平洋地域の安定に日本が積極的に取り組むための具体案
飯田)海上保安能力向上のための技術協力を進める方針という、基調講演の概要が出てきましたが、日本としてどのようなメッセージを発信するべきだと考えますか?
大庭)具体的な案としていま注目を浴びていますが、もちろん、ある種の国への牽制だとは思いますけれど、より広くインド太平洋の海洋秩序、あるいは国際秩序、地域秩序の安定のための取り組みに対し、日本も積極的に行動するという姿勢を具体的に示したものだろうと思います。
法や人権などの価値や批判に基づいた秩序に日本が積極的に取り組む
大庭)海洋安全保障についての協力は、岸田首相が5月末に出席した「アジアの未来」という国際的に大きな会議でも同じ姿勢を示していました。また、海洋安全保障については、これも5月に開かれた「クアッド」の声明のなかで、新しい海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップというもので合意しています。この地域の安定に関し、日本がより積極的に取り組むというときの具体案として、このようなものを持ってきたのだろうということです。
飯田)より積極的に取り組むと。
大庭)「特定の国への牽制」なのかどうかを議論することは大事ですが、それよりも国際秩序や地域秩序、国際法やルールなど、いわゆる法や人権などの価値や批判に基づいた秩序に、日本が積極的に取り組んでいくということです。それを今回のシャングリラ・ダイアローグでも言うのだと思いますし、期待しています。
広くこの地域に望ましい国際秩序を築くことが大事
飯田)特定の国、中国などが念頭だとは思いますが、その部分にフォーカスするよりも、いろいろな国が賛同できるテーマで進めた方が、より射程が広くなるということでしょうか?
大庭)射程が広くなりますし、実際にそのようなことを言うのではないかと思います。「アジアの未来」でもそのようなアプローチでした。「広くこの地域に望ましい国際秩序を築くことが大事だ」というメッセージです。
飯田)望ましい国際秩序を築くことが大事。
大庭)先日の日本の「骨太の方針」とも絡めて、さまざまな具体的な取り組みについて言われるのではないかと思います。イノベーションやスタートアップのための投資、サプライチェーンの強靭化などは、「アジアの未来」でも言及されていました。骨太の方針でも、国際環境の変化への対応や、「新しい資本主義」を打ち立てるなど、いろいろな具体案を盛り込んでいます。そのようなものを外に打ち出しつつ、日本のためだけではなく、国際秩序や地域秩序の安定や、より一層の価値、批判に基づいた地域秩序づくりに資するものだというメッセージを、シャングリラ・ダイアローグでも発するのではないかと考えています。
これまでも東南アジア諸国の海上保安能力の向上に努めてきた日本
飯田)安全保障と捉えると、軍の動きのようなところに特化してしまいますが、「海上保安能力」と言っています。つまり、それだけではなく海上保安庁的な警察権の行使など、より広い概念で秩序をつくっていくという方向で、そこに経済も絡むということでしょうか?
大庭)そうだと思います。なぜかと言うと、いま日本は東南アジア諸国との安全保障協力のなかの柱として、海上保安能力の向上に資することを行ってきているわけです。巡視艇の供与もそうですし、長年、日本は人的な協力もしていて、能力向上支援として各国の海上保安能力の向上に努めてきました。その延長線上に、このような取り組みを改めて位置付けるということだと思います。
飯田)海保の国際協力として、実は地道なことをずっとやってきているのですよね。
大庭)どこか特定の国ということよりも、この地域の安定に資するものであるという位置付けをして、メッセージを発するのだろうと思います。
飯田)逆に言うと、その趣旨をわかってくれれば、中国でさえも受け入れるということでしょうか?
大庭)論理的にはそうなります。でも、それが極度に排他的にならず、地域全体に資するメッセージとして発するときの肝ではないかと思います。どこか特定の国を追い詰めるようなメッセージよりも、むしろいまの方がいろいろな国の賛同や納得を得ることができると思います。
日本は中国とどう向き合うべきか ~対話のチャンネルは開け、協力もし、言うべきことは言う
ジャーナリスト・鈴木哲夫)シンガポールではシャングリラ・ダイアローグに合わせて、日中防衛相会談が予定されています。安全保障ではある程度中国を想定していても、一方では中国との対話などという点で、一応は抗議をするのだと言っていますが、岸田政権は中国とどのように向き合うべきだとお考えでしょうか?
大庭)おっしゃる通り、中国との関係は難しい部分があります。しかしながら、心理的にも歴史的にも経済的にも、完全に関係を切ることはできません。
鈴木)そうですね。
大庭)中国の影響力が拡大することは、日本も含めてアジア全体がわかっていることです。それと向き合いながら、いかに中国の影響力拡大や国際関係を、日本にとっても地域にとっても望ましい方向に持っていくかということを、常に考えるべきだと思います。中国はいなくならないので。
飯田)いなくならない。
大庭)その意味では、対話のチャンネルを開けておく。多国間の会議を活用しながら、重要な二国間対話を開くのは大事なことだと思います。今後も、場合によっては協力することもあるし、言わなければいけないところは言うという姿勢を取っていくことが望ましいと思います。
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