話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5月のパ・リーグ月間MVPにも輝いた埼玉西武ライオンズ・山川穂高選手にまつわるエピソードを紹介する。
「どすこい」の勢いが止まりません。両リーグ20号一番乗り、5月のパ・リーグ打者部門で月間MVPも受賞した西武・山川穂高です。
2018、2019年と2年連続で本塁打王に輝いた男も、2020年は右足首の捻挫、2021年は左太腿裏の肉離れとケガにも悩まされ、不本意なシーズンに。それが今季(2022年)は一転、5月の月間MVP受賞の勢いそのままに、ホームランは2位に9本差をつけて20本と独走状態(交流戦終了時・6月12日現在)。打点は楽天・浅村と激しい1位争いを演じ、ついに規定打席に到達した打率でもリーグ3位(.305)。三冠王も射程圏、と言っておかしくない成績です。
もっとも、打率に関して山川本人は「3割を打てるわけがない」「どうせ2割6分くらいに落ちますから」と気にもとめない様子。あくまでも自分の仕事はホームランと、こんな言葉を残しています。
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『うれしいです。ホームランは減らないですから』
『僕は5打数5安打より、5打数1安打1ホーマーの方が絶対いい』
~『日刊スポーツ』2022年6月12日配信記事 より
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この「打率よりもホームラン」という姿勢にこそ、稀代のホームランアーティスト・山川穂高復活のカギが隠されています。
実は、はじめて本塁打王に輝いた2018年当時、山川は理想の打者として“三冠王”落合博満氏を挙げ、打率も欲しい、という願望を隠そうとはしていませんでした。
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『落合さんは先に首位打者をとってから三冠王になっていますよね(※1981年に首位打者、翌1982年に三冠王)。僕も本当は打率も残したい。今は2割8分くらいですけど、それでは全然物足りない』
~『web Sportiva』2022年3月15日配信記事 より(※2018年の山川の言葉)
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この打率アップを図るため、それまでの「前でさばく」スタイルではなく、体の近くにミートポイントを寄せて、確実性を高めようと試みた時期もありました。しかし、このチャレンジはケガの影響もあって結果的に上手くいかず。それどころか、一昨年(2020年)は打率.205、去年は打率.232と、むしろ打率を落としてしまったのです。
こうした迷いを経て、たどり着いたのが「打率よりもホームラン」という原点回帰。そして捲土重来を期した2022年、山川がキャンプ前から意識し、継続しているのは「前で」「お尻」「準備」の3つです。
1つ目のキーワード「前で」。前述したように、打率を上げようとミートポイントを体に近い位置にするなど試行錯誤を続けていた山川。ただ、昨季(2021年)終盤からはミートポイントを投手寄りに戻し、「打率よりもホームラン」と割り切ることで、かつての打棒が戻ってきたのです。
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『2年間僕がちょっと間違った解釈をして(球を体に)引きつけすぎていた。今は左足の前で打つイメージ』
~『スポニチアネックス』2022年4月28日配信記事 より(山川のコメント)
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この「前で打つ」打撃を支えるのが、意外にも「お尻」への意識。今季はキャンプから軸となる右側のお尻にしっかり体重を乗せるべく、打席で「お尻がはまる」ことを意識しているのです。
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『お尻を決まれば足首も強く使える。軸足が決まる。足を上げた時にぶれない、頭が突っ込まない』
~『日刊スポーツ』2022年2月6日配信記事 より(山川のコメント)
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そしてもう1つ、今季何度となく口にしているのが「準備」の大切さです。
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『好調の土台は「打席の中で最大集中」。それを生み出す過程がある。1つは試合前練習の後。ノートにペンを走らせる。今日できること、タイミング、呼吸など。それらを記し「頭の準備」として1度整理する』
~『日刊スポーツ』2022年6月1日配信記事 より
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また、精神的にも充実した状態で打席に臨めるよう、今季からメンタルアドバイザーとして精神科医と個別契約。こうした最高の準備を徹底するからこそ、凡打してもしょうがない、というブレないメンタルも手にしたのです。
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『昨年まではアウトになった時、なぜなのかと毎回すごく突き詰めていました。今年は、最高の準備をしてアウトになったのなら、しようがないと考えています。ホームランを打てたら打てたで、うれしい、はい次、という感じ。無死満塁でも2死走者なしでも、最高の準備をして打席に入って、タイミングを合わせるだけです。結果にはこだわっていない』
~『Full-Count』2022年6月9日配信記事 より
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山川の好成績もあり、昨季最下位だった西武は、交流戦を終えて現在パ・リーグ3位。「山川がホームランを打てば負けない」という不敗神話こそ、先週のヤクルト戦でついにストップしてしまいましたが、それでも高い勝率を誇っていることは変わりありません。
そして、山川本人が「打率よりもホームラン」と言いつつ、いま、最も三冠王に近い位置にいるのも紛れもない事実。令和初の三冠王誕生も期待しつつ、再開する通常ペナントレースでどんな打棒を見せてくれるのか、大いに楽しみです。