かつてない「強い言葉」でアメリカを牽制する「中国の事情」
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青山学院大学客員教授でジャーナリストの峯村健司が6月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ルクセンブルクで行われたサリバン大統領補佐官と楊潔篪共産党政治局員による米中高官会談について解説した。
米中高官会談 台湾めぐり、中国がアメリカを牽制
アメリカのホワイトハウスで、安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官と、中国で外交を統括する楊潔篪(よう・けつち)政治局委員は6月13日、ヨーロッパのルクセンブルクで会談した。アメリカ側が台湾をめぐって中国の攻撃的な行動などへの懸念を伝えたのに対し、中国側は「台湾問題は両国関係の政治的な基礎に関わり、うまく処理できなければ破壊的な影響を与える」と強く牽制した。
これまでよりもテンションが上がっている中国 ~強い言葉でアメリカを牽制
飯田)対話を通じた関与に関しては一致したということですが、会談は4時間半にも及んだようです。
峯村)長い時間ですし、本来、外交に携わる楊潔篪氏にしては「強い言葉だな」という印象です。先日のシャングリラ・ダイアローグでも、国防大臣の魏鳳和氏が「台湾を中国から分裂させようとするものがあれば、中国軍は一戦も辞さない」と発言しました。私も十数年、中国を取材していますが、これまでにあまり聞いたことがない強い言葉です。「如何なる代償も惜しまない」と言っているので、これまでよりも明らかにテンションが上がっているということの証左です。
飯田)中国国内の話などもあり、ここで宥和的にはなれないということでしょうか?
峯村)なれないですね。米中両方の関係者に話を聞くと、発表はされていないけれども、東アジア周辺で戦闘機同士や艦艇同士のニアミスが起きているようです。私が聞いているだけでも4~5回あり、かなり際どいケースがあったと言われています。
米豪政権交代時に起きた中国戦闘機のニアミス
飯田)記憶に新しいところだと、オーストラリアの哨戒機に対して中国の戦闘機がチャフを放出しました。
峯村)しかも南シナ海で起きています。あれを見たときに、2001年の海南島での米中両軍機の衝突事件を思い出しましたアメリカの偵察機に中国の戦闘機が急接近して衝突しました。さらにあのときは、アメリカ大統領選挙の政権交代の時期でした。今回もオーストラリアの政権交代の時期でした。中国軍はまさに政権交代という「権力の空白」を突いたわけです。新政権に1発ジャブ……ジャブではないですよね、あそこまでいくと。パンチを食らわせて牽制したわけです。
パイロットの操縦も飛行機の性能も日米を抜きつつある中国
飯田)かつて2001年、当時は中国軍のパイロットが「技量を見せつけるのだ」という「跳ね上がり」がいて、そのようなパイロットの個人的な問題だという話もありました。しかし、あれから20年経っているので、「技量も上がっているのではないか」という指摘もありますが。
峯村)私も当時の海南島事件の処理にかかわった中国政府当局者に取材したことがあるのですが、やはり「跳ね上がり」でした。22~23歳の若いパイロットが、愛国心から「ふざけるな」と、アメリカの偵察機に対して自分の技量を見せつけようとしたら、衝突してしまったというのが実態だったようです。
飯田)当時は。
峯村)しかし、いまは自衛隊幹部の話を聞いても、パイロットの操縦練度は上がっている。さらに飛行機の性能自体もよくなっているわけです。こちらがF15を何度も改良して使い回しているのに対し、向こうは新型の戦闘機が次々に出てきているという状況です。数、質ともに、日本側やアメリカ側に追い付き、追い抜かれている分野も出てきているのが現状です。
2014~2015年以降のニアミス等は中国共産党の総意として指示されて行われている
飯田)威嚇については、ある程度オペレーションのなかで、上から命令されてやっている可能性もあるのですか?
峯村)そう断言できます。私が2014年にスクープしたのですが、実は中国共産党のなかで国家海洋権益指導小組というタスクフォースを、非公式ながらつくっているのです。
飯田)小組。
峯村)要は国の重要案件について、ミッションごとに省庁横断で取り組む専門組織です。トップには習近平国家主席が就いています。尖閣辺りに出している船なども、すべて現場をモニターで見ながら……まさにアメリカのホワイトハウスのシチュエーションルームと一緒です。習氏を始め、高官が直接現場に指示を出して運用しているのです。
飯田)モニターで見ながら。
峯村)「一部の軍の部隊が愛国心から暴走しているのだ」と言う人がいますが、私は違うと思います。党の指示なのです。もっと言うと、習近平氏の指示でやっているといってもいいでしょう。
飯田)習近平さんの指示で。
峯村)2014~2015年からそのように変わっています。逆に2001年のような「跳ね上がり」出てくる可能性は減っています。いま現場で起きている中国軍の軍事行動は、極めて政治的なメッセージもありますし、これは中国共産党の総意と考えていいでしょう。
中国の駆逐艦、ロシアの情報収集艦が続けて日本周辺の海域を抜ける ~中露連携か
飯田)14日に中国のミサイル駆逐艦などが対馬海峡を抜けて行きました。さらに13日にも、情報収集艦などが対馬を抜けて行った。これで思い出したのが、5月にロシアの情報収集艦が宗谷海峡を日本海側からオホーツク海側に抜けて行くということがありましたが、目的としては似たようなことですよね。
峯村)かなり被ります。2つの意味があって、1つは「中国とロシアの軍の連携ができている」ということ。「日米、お前たちより俺たちはきちんとやっているぞ」と見せたいということです。
日本海からも狙われる日本 ~自衛隊のリソースを2つに分ける必要が
峯村)もう1つ、私はこちらの方が深刻だと思いますが、「背中から日本を狙っている」ということです。いままでは中国、特に尖閣周辺や南西諸島だけを見ていればよかったのです。ある意味、冷戦後、日本海や北海道の脅威はほぼなかった状況だったのです。ところが、中露が連携して日本海の方まで進出してくると、日本の自衛隊のリソースが2つに分かれてしまうわけです。いまでさえカツカツの状況なのに、日本海の方にも振り分けるということになると、相当難しい防衛が求められるようになります。
飯田)いままで「南西シフト」ということを言われていて、実際にそれに沿った形で戦力の整備を進めてきたわけですよね。
峯村)そうなのです。せっかくいままで北にあったものを南西に移して「中国に対抗するぞ」と思っていたら、今度は後ろから狙われているという状況です。
「羅先」の港を借りる動きをする中露 ~日本海が中露の正面に
峯村)さらに言うと、北朝鮮とロシアと中国が3つ混じるところに「羅先」という場所があるのですが、ここに港があって、どうも中国とロシアが港を借り、港湾開発をしているようです。
飯田)港を。
峯村)朝鮮半島の北側にある羅先から、中国とロシアの船が出られるようになると、日本海が正面になるという、最悪のシナリオになりかねないのが現状です。
飯田)地図を見ると、朝鮮半島から北朝鮮の領域が日本海に沿って伸びています。直接ロシアと国境を接していますが、中国はそこに出口をつくっていないというのが、いままで言われていたことです。
峯村)なかったからよかったのです。だから出てこられなかったのですけれども、もし東側に港をつくったら、そこから出撃できるのです。
飯田)北にはウラジオストクがあり、そこにはロシアの太平洋艦隊があるわけです。
峯村)羅先の辺りは冬でも海が凍らない。冬でも頻繁に出撃できるとなると、どうやってこの国を守るのか、考えるだけでも頭が痛いですよね。
危機的な状況のなかで必要な防衛費は数字ではなく、現実的な装備内容から決めるべき
飯田)「GDP比2%」などという防衛費の議論が、果たして間に合うのかどうか。
峯村)本当にそうなのです。
飯田)金額の話をしている場合ではないですよね。
峯村)「2%なのか5%なのか、10%なのか1%なのか」という価格ありきは間違っています。「今後どのような安全保障上の脅威があるのか」ということをまず、分析、予測することが重要なのです。そのうえで、「自衛隊のいまの装備はここが足りないから、どれだけ増強しなければいけないか」と考える。または「ここをカットしなければいけない」と考えた結果、数字が出てくるべきなのです。いきなり「2%は多いから1.5%」というような話ではないのです。
飯田)下から積み上げるものではない。
「ゼロコロナ政策」による経済低下で危うい状況にある「習近平氏の3期目」
飯田)6月15日は、習近平氏の69歳の誕生日です。
峯村)69歳というのは、なかなか痺れる年齢です。中国共産党では「68歳以上の人は引退で、67歳以下の人は残れる」という規則が2000年台の初めからできているのです。そう考えると、習近平氏は引退しなければならない年齢になっている。
飯田)本来であれば。
峯村)今回、国家主席の任期を撤廃していることもあり、あくまでもこのルールは内部での規則です。いまの習近平さんの力であれば「そんなもの知るか」と一蹴する可能性もあるので、11月の党大会にどのような動きが出るのか。
飯田)いまゼロコロナ政策で経済が低下していて、国民からの不満が溜まっているという話も出てきています。
峯村)ロックダウンされている市民たちから怒りの声も出ています。そもそも「ゼロコロナ政策をいつまでやるのか」という不満が高まっています。あとは経済ですね。経済でも製造や物流といったサプライチェーンが止まっています。いまは指標が少し下がってはいるのですが、「まだ大したことはないではないか」と見る専門家もいます。しかし、サプライチェーンや物流の影響はジワジワと出てきます。いまから11月にかけて、景気がますます悪くなっていくと、「本当に習近平氏は3期目にいけるのか」という状況になりかねません。
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