防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が6月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。八丈島の北側を航行した中国海軍の情報収集艦について解説した。
中国海軍の情報収集艦が八丈島の北側を通過、2週間にわたり活動か
防衛省統合幕僚監部は6月26日、中国海軍の情報収集艦が伊豆諸島の八丈島の北側を航行したと発表した。12日に対馬海峡を通過したのと同じ艦艇で、太平洋などで約2週間にわたり活動を続けていたとみられる。
飯田)八丈島の北東90キロを航行し、さらに御蔵島との間を西に移動したということで、海自の艦艇などが監視にあたったそうです。日本の周りを1周するように動いています。どういう意図があると考えられますか?
高橋)1つ考えられるのは、日本周辺の電波を含むさまざまな情報を収集したということです。例えば北朝鮮に対する警戒監視も行っていますから、実際のオペレーションに関する情報を収集した。あとはウクライナ支援の関係で米軍の輸送機なども動いていますから、米軍関係の情報収集も可能性としてはあり得ます。
北京五輪の際に行われた中露首脳会談で決められていた中露の軍事連携
飯田)対馬海峡を12~13日に航行したときはミサイル駆逐艦などと一緒にいて、駆逐艦などは先を行き、情報収集艦が追いかける形でした。しかも全体の艦隊は、少し前に通っていたロシアの艦隊をトレースするような形でした。中露の連携はどうなのですか?
高橋)中露の連携は2月、北京五輪の際に行われた首脳会談で、何をやるかはある程度決めてあったのではないでしょうか。今年(2022年)最初の中露の軍事演習は、日米豪印4ヵ国(クアッド)の首脳会合をしたときだったと思いますが、それから1ヵ月に1回以上のペースでやっていますから、その流れなのではないかと思います。また、戦闘艦と一緒に情報収集艦が動くことで、戦闘艦をどのようにマークしてくるのか、また、それに伴う電波のパターンなどの情報を収集するねらいだと思います。
飯田)だからこそ情報収集艦だけが少し離れて、別行動を取っているように見えるのですね。
高橋)そうですね。
領海に含まれないところは通常の航行ができる
飯田)去年(2021)の10月に中露の艦隊が津軽海峡から太平洋に抜けたことが報道されましたけれど、最近やたらと通っていませんか?
高橋)津軽海峡自体は国際海峡になっている場所があるわけですから、日本の領海に含まれないところを通るのです。
飯田)公海が真ん中に1~2キロメートルほどあるのですよね。それは国際法上、何の問題もないと言えばないですね。
高橋)そこをうまく利用しているということです。
飯田)だから領海を通るときのように無害通航権で通るわけではなく、普通に通れてしまう。レーダーを使っていようが何をしていようが通れてしまう。潜水艦でもこの海域は潜航したまま通ることができます。
高橋)無害通航である必要はありません。
中露の行動に慣らされている日本
飯田)これまた選挙中にこういうことをやってくる。どこまで意図があるかわかりませんけれど、もう少し話題になってもいいのではないかと思いますが。
高橋)ある意味、慣らされているようなところはあります。
飯田)慣らされている。
高橋)去年行われたものや、今年のクアッドのときのような中露爆撃機の共同飛行に比べると、情報収集艦が時間をかけて活動していることは、レベルが落ちたような印象を受けるのはやむを得ないと思います。その辺りもすべて狙ってのことかも知れませんけれど。
中国の活動にきちんと対応するべき
飯田)本来は危機的な状況なのに慣らされているというのは、知らず知らずのうちに戦略的に押されていると考えてもおかしくないのでしょうか?
高橋)行動をルーティン化することで相手を慣らしていくのは、中国がよくやってきた手段ですし、北朝鮮にも我々は慣らされてしまっています。
飯田)ミサイルなどのことですね。
高橋)その辺りは気を付けた方がいいと思います。
飯田)本当は慣れてはいけないと思いながら、心のなかで「またか」と思ってしまっている。そういうところが中国は「うまいな」と感じますし、逆に我々はそういうことをあまり考えられていないと思います。
高橋)情報活動は、ありとあらゆる活動が材料になります。自衛隊がこういうときに「またか」という形でレベルを落とすと、利用されてしまうのです。その辺りがきちんと対応しているということであれば、世論工作のようなものは別にして、軍事的に隙を見せるということにはならないと思います。
相手の軍事活動はできるだけ情報公開する
飯田)今回の一連の行動に関しても、統合幕僚監部は逐一情報を出しています。逐一情報を出すことの積み重ねが大切なのですか?
高橋)そうですね。最近の西側の基本的な考え方として、相手の軍事行動はできるだけ情報公開する。こちらの手の内を明かさない状態で情報を公開する方が、結果的に国民の理解を深めることにもなるので、そういう考え方の基にやっているのだと思います。
お互いにシャドーボクシングを見せ合い、抑止につなげる
飯田)現場の人に聞いても、昔であれば演習は見せない、手の内をバラしてはいけないということが優先されてきましたけれど、最近はきちんとアナウンスするようになったそうです。情報を出すことで、相手にも「こちらが見ている」と意識させ、抑止にもなるというような効果があるのですか?
高橋)ある種のシャドーボクシングのようなものです。
飯田)シャドーボクシング。
高橋)お互いにシャドーボクシングしている姿を見せ合うということです。あるいはボディーランゲージというか。
飯田)なるほど。「きちんと準備しているぞ」と。
高橋)とりわけ中国やロシアという国は、ボディーランゲージを大事にしている国ではあります。
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