数量政策学者の高橋洋一が7月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy up!」に出演。日銀が発表した6月の企業物価指数について解説した。
6月の企業物価指数、過去最高に
日本銀行が7月12日に発表した企業間で取引されるものの価格を示す企業物価指数は、6月の速報値が2020年の平均を100とした水準で113.8となり、5月に続いて過去最高を更新した。ロシアによるウクライナ侵略で、原油などのエネルギー価格が上昇していることを背景に、ガソリンなどの石油・石炭製品の他、電力・都市ガスの価格が上昇したことが主な要因。
飯田)前年同月比で9.2%の上昇率です。これを見て、「物価が上がっている」という声が聞かれます。
企業物価の内訳から予想できる
高橋)物価は2種類あります。これは企業物価で、他に消費者物価があります。インフレ率は消費者物価で見ます。企業物価は企業間取引のもので、9.2%上がったということですが、内訳をみれば予想できるのです。
飯田)企業物価の内訳で。
高橋)企業の川上・川中・川下というものがあり、その下に消費者物価がある。川下のいちばん最後、もっと下のところに消費者物価があり、それぞれ「上がりがどうなっているか」を見るのです。6月は持っていないのですが、5月のもので計算すると、いちばん上の川上は66%上がっています。
飯田)66%。
高橋)真ん中の川中は18%。いちばん川下は、消費者物価よりはまだ川上ですが、そこが5%です。要するに、川上は上がるのですが、それ以外は上がらなくなるのです。
6月の企業物価指数の前年同月比9.2%の上昇率は、川上から川下を合わせた数字
高橋)これだと、消費者物価はあまり大きく変化しません。
飯田)なるほど。9.2%の上昇率は、川上から川下までを合わせたもの。
高橋)全部合わせて、平均を取っているだけなのです。川上の方が、たくさん上がるのですが、川下になるにしたがって、需要がないから下がっていくのです。
飯田)川下は。
高橋)需要がないから転嫁しづらくなっていくということです。
飯田)下に流せないから。
川下に流せないので川上の企業段階でコストアップを吸収 ~コストカットのために人件費をカットし、雇用に影響
高橋)自分のところで吸収する。いずれ半年ほど過ぎると、雇用などに影響が出てくるのです。要するに、そこでコストアップを吸収してしまう。そうすると、雇用のところでコストカットしたくなるから、雇用が悪くなる。
飯田)コストカットしなければならないので、人件費をカットする。
高橋)人件費をカットすると、最悪、雇用が失われることになるのです。
飯田)人を切るなり、新しい人を取らない方向になる。
いまは企業段階でコストアップが溜まっている状態 ~原材料やエネルギー価格の高騰がコストアップに
高橋)そういうことです。「企業物価が上がっているから、すぐにインフレになる」と思い込むのですが、そう簡単にはなりません。こういうものは、企業段階でコストアップが溜まっていく状態を表しているのです。
飯田)企業のなかでコストアップが溜まっている。
高橋)要するに、原材料やエネルギー価格が上がっているのは間違いない。それがコストアップ要因になっていて、通常の最終消費者には転嫁できず、おまけに企業のなかでも、川下にいくにつれて転嫁しづらくなっているということです。
飯田)川下の企業は、川中・川上の企業に「その値段ではうちは買えないな」と言って、価格交渉が始まることになる。
消費者の所得を上げるような対策が必要 ~インフレだが失業率の低いアメリカ
高橋)最終的には、消費者に転嫁できないと詰まってしまい、経済が動きにくくなるのです。こういうときには、多少インフレになるのですが、消費者物価を上げるくらいに緊急経済対策などを行い、消費者のところで転嫁できるくらいに所得を上げるような対策が、本当は求められているのです。
飯田)消費者の所得を上げるような対策が。
高橋)しかし、おそらくいまの状況では、「インフレになるのは嫌だ」ということで対応しないと思います。だから、アメリカの方が健全なのです。インフレになっている方が経済はいいので、失業率は低い状態を保てるのです。
「失業とインフレのどちらを選ぶか」という場合はインフレを選ぶべき
飯田)先日、アメリカの雇用統計が出てきましたが、市場の予想よりもいい、雇用は強いということが言われています。
高橋)経済が強いからですね。最悪なのは失業して所得がなくなることですが、アメリカは最悪の状況を回避できている。「失業とインフレのどちらを選ぶか」と言われたら、実はインフレを選ぶべきなのです。
飯田)マクロ経済的には、そちらの方が影響が少ないと。
高橋)どちらかと言われたらね。もちろん、「どちらも」ということなのですが。
飯田)どちらもないことが望ましいのでしょうが。
雇用確保を優先させてインフレを我慢する ~日本の政策は
高橋)それが難しいということならば、雇用確保を優先して、インフレの方は少し我慢するのです。
飯田)しかし、どちらかと言うと日本の政策決定は、いまはまだ雇用がいいかも知れませんが。
高橋)「雇用がいい」ということを前提に話をする人が多いですね。こういうことは金融政策の基本であり、だから「雇用政策」だと私は言うのです。それは安倍さんがいちばん理解していました。完全に理解していた。しかし、他の政治家はほとんどわからないようですが。
いまは雇用調整助成金で失業率を抑えているが、溜まっているマグマは大きい
飯田)しかし、歪みの部分が企業側に溜まっていく。
高橋)コストアップになっているので、間違いなく溜まっていきます。
飯田)いま雇用は失業率2.8%くらいです。
高橋)そこそこいいのですが、半年~1年くらいのスパンで見ると、上がります。いまは雇用調整助成金で抑えているので、名目上も下がっているのです。しかし、マグマは大きい状態です。
飯田)雇用に関しては、政府が補助金を出して支えているような状態である。
高橋)悪い政策ではないのです。最終的な消費者の家計の所得をアップさせることにもなるため、悪くはないのですが、マグマが溜まっている状態だということです。
歪みを回収するためには大型補正を行うしかない
飯田)その歪みを何とか別の方法で回収しなくてはならない。
高橋)秋の補正のときに、大型補正をするしか手がありません。本当は選挙前にやるべき補正なのです。
飯田)選挙前は5.5兆円の補正に過ぎなかったと。
高橋)あれは、ほとんど真水がありませんから。
企業に溜まっているコストアップの大きな原因はエネルギー価格の高騰
飯田)企業に溜まっているコストアップに関してですが、特にエネルギー価格の影響が大きいのですよね。
高橋)これはいちばん外から来るから、最も川上なのです。
飯田)ロシアによるウクライナ侵攻もありますが、その前から原油価格等々、エネルギー価格は上がり基調だった。
高橋)そうですね。日本はほとんど海外からの輸入なので川上になるのですが、これがいちばん強烈です。すべてに影響しますし、他に転嫁できるかどうかは、その業界や企業の状況によって違いますが、転嫁できないと非常に苦しくなります。
エネルギーの供給を増やさなければ企業のコストは下がらない
高橋)自分で全部被らなければならなくなる。そういうところに雇用へのしわよせなどが起こるのです。しかし、根本的には、エネルギー供給を増やさなければ下がりません。
飯田)増やさなければ。
高橋)いまはウクライナの問題がありますが、ロシアは大きなエネルギー供給国です。そこがエネルギーの供給を増やさないということになれば、影響は大きいです。ドイツとの間のパイプラインも止めてしまう。これは軍事的な動きですが直接、影響が出ている。
飯田)そうですね。
高橋)日本も「サハリン2」の問題で、LNG(液化天然ガス)が入ってこなくなると考えた方がいいと思います。日本の場合、LNGはエネルギーの2~3割あるのです。そのLNGの10%くらいをロシアから輸入している。日本のエネルギーの約2~3%ですから、大きいですよね。原発数基分というレベルです。
産油国に原油を出すことを交渉するアメリカ
高橋)対策として、アメリカは産油国に原油を出すよう交渉しています。産油国なら出せますし、出しても値が下がらないでしょうと。産油国にとってもありがたい話で、値崩れしないなら供給の余地があると思います。
飯田)産油国にとっても。
高橋)しかし実際、アメリカもエネルギー供給国ですよね。バイデンさんが国内事情でゴーサインを出しにくい。この際だから「環境問題はストップ」と言って、「ゴー」と言えば解決するのです。
飯田)シェールガスやシェールオイルの話ですね。
高橋)(それができないのは)アメリカ国内の事情なのです。
飯田)特に民主党の人たちへの。
高橋)環境派の人たちがいるからです。でも環境派の人たちは、「環境を取るか、命を取るか」という話になったら、どうするのですかね。命がなければ環境などと言っていられないではないですか。
飯田)環境派の人たちでも。
高橋)日本も一緒です。ロシアからLNGが来なくなるかも知れない。天然ガスは、さまざまなところで奪い合いになりますので。ドイツでもロシアに止められたら、天然ガスではなくLNGの形で、いろいろなところから輸入せざるを得なくなるのではないでしょうか。
飯田)パイプラインでは持ってこられないので、液化したものを中東から持ってくるしかない。
高橋)ドイツの場合は東日本大震災以降、原発を止めて、廃炉にしてしまったのです。ほとんどが廃炉になっているので、対抗策はない。LNGを輸入するしかないのです。石炭という手もありますが。
飯田)石炭に手を出すか、という話になっていますよね。
高橋)そうなります。「命か、環境か」と言われたら、どちらを優先するのかという話です。
国難のときには政治が原発を「安全確保と同時に動かす」と言い、再稼働するべき
飯田)日本でも「節ガス」という話が出てきました。節電に続いて節ガスでは、すべて「我慢」になってしまう。
高橋)国難のときですから、原発の再稼働を考えた方がいい。いままでは原子力規制庁などに委ねて、原発の再稼働については「安全を確保した上で」というような言い方をしているでしょう。「安全確保」と「動かす」ということを二律背反のように皆さん説明しますが、インフラというのは、動かしながら補修したり工事を行うのです。これは当然のことです。動かしながら工事するのと、止めてから工事するのとでは、「どこが違うのか」という話です。
飯田)やりながらできるメンテナンスもたくさんあると。
高橋)特に最近は原発について、追加的にいろいろと言われていますが、「動かしながら周りを工事すればいいだけでしょう」ということです。
飯田)テロ対策の建屋を建てるなど、さまざまなことが言われていますが。
高橋)原子炉の話ではなく、周りでしょう。
飯田)原子炉を動かすということの安全性に、どこまで寄与するのだという。
高橋)動かしているのと、止めているのとでは、ほぼリスクは一緒だと思います。それであれば、「動かしながら安全対策をする」というように発想を変える。このようなときに、行政に判断を委ねてはダメなのです。政治が「こういうときだから、安全対策が重要なのはわかりましたので、それは同時に行ってください。ただし、動かしてください」と言うべきです。
飯田)一時的であっても。
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