ジャーナリストの有本香が7月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。元米国防長官の台湾訪問について解説した。
元アメリカ国防長官、台湾を訪問
台湾の外交部は7月18日、米トランプ政権下の2019~2020年に国防長官を務めたマーク・エスパー氏が率いる訪問団が台湾入りしたと発表した。訪問団は21日まで滞在する予定で、19日には蔡英文総統との会談を予定している。
飯田)米シンクタンク「大西洋評議会(Atlantic Council)」の代表団。エスパー氏はその団長として台湾を訪問したということですが、「大物が来る」という感じですか?
有本)ここのところ台湾には、いろいろな理由で元職あるいは現職も含め、アメリカから大物が入っています。
飯田)現職も含めて。
有本)日本はこうした元職の方々の活用が、あまり上手ではないと思います。安倍元総理が生前、マレーシアに特使として向かわれました。岸田総理と安倍元総理の関係もいろいろ取り沙汰されていましたが、コロナ禍が明けた際、日本の国益を考えるならば、安倍さんがある程度フリーな立場で、いろいろなところを飛び回られるのではないかと言われていました。そういうことができていくといいですし、台湾にも近々、訪問される感じだったのですが、それは叶わなくなってしまいました。
アメリカの安全保障政策にも影響を与え得る立場として台湾に入ったエスパー元国防長官
有本)エスパーさんは2019~2020年に、トランプ政権下で国防長官を務めていました。このとき、「アジアに中距離ミサイルを配備する」とアナウンスしたのです。
飯田)当時。
有本)この方は、ご自身が軍の出身ですし、アジアの安全保障、特に中国を取り巻く情勢をシビアに考えておられた。一方では、いわゆる徴用工問題など、「中国をどう周辺のアジアの国で抑え込んでいくか」というときに、韓国がブレーキになってしまうのです。
飯田)それが抜け穴のようになってしまっていた。
有本)最近、エスパーさんは回顧録のようなものを出版して、トランプ政権の内幕を暴露していることでも話題になっています。民間のシンクタンクとは言うものの、この方がアメリカの安全保障政策にも影響を与え得る立場として、台湾に入ったということは大きいです。
安倍元総理の葬儀に私的弔問した頼副総統 ~中国から抗議の申し入れ
有本)では「日本はこれから台湾とどういう関係を築いていくのか」という場合に、真逆の方向性の問題が出てきているのです。
飯田)安倍元総理の葬儀にいらっしゃった、台湾のナンバー2の方。
有本)頼清徳(らい・せいとく)さん。副総統でナンバー2なのですが、おそらく中国が最も嫌いな政治家だと思います。
飯田)蔡英文さん以上にですか?
有本)この方は蔡英文さん以上に台湾独立派の雄ですね。もともと台南の市長を務められていたときも、その辺りの政治的なカラーが鮮明で人気もありますから、今後も期待される人です。先日のお通夜・ご葬儀は安倍家が行ったものですから、頼さんは個人的に……。
飯田)家族葬という形で行われた。
有本)しかし、安倍家のご葬儀には世界中からいろいろな人が押し寄せてしまった。イエレン財務長官などもいらしていましたが、押し寄せてしまっただけで、あれは公的な行事ではないわけです。そこへお付き合いがあった台湾の副総統がお見えになったときに、中国が文句を言うのもおかしな話なのです。
飯田)個人と個人の話。
有本)「おだまりなさい」と言えば済む話なのですが、日本の外務省は中国の方を向くのが習い性になっているので、報道官も林外務大臣も、頼清徳副総統のことをメディアから問われると「ご指摘の人物は」という答え方をする。せめて「その方は」、あるいは「頼清徳氏は」と言うならまだしも。
台湾の副総統に対し「ご指摘のあった人物」という言い方はいかがなものか
有本)「ご指摘の人物」という表現は、下手をしたら犯罪の容疑者のような言い方ですからね。こんな対応を日本がしているというのもズレています。
飯田)一応ビザは発行したという。
有本)それは岸田政権のご判断だと思います。
飯田)かつてはビザも出さなかったとか。
有本)これだけのポストの方になるとね。しかし、今回はお悔やみに来るということだったので、断る理由もなかったというだけの話だと思います。
日華懇の日本議員へ不満を持つ台湾・民進党
有本)しかし、その後の対応があまりにも酷いのと、コロナ禍になる前は私も毎年台湾に行っていましたが、特に台湾の蔡英文総統に近い民進党サイドの人たちが言っていたのは、日本とは議員の交流があるではないですか。日華議員懇談会(日華懇)の人たちが、いろいろ向こうに行くのですが、台湾の与党・民進党の人たちと政策的な議論をほとんどしたことがないそうです。
飯田)そうなのですか?
有本)儀礼的であると、不満を持っています。
飯田)行くのだから、政権与党同士でというのが……。
有本)全然ないそうです。そのことを台湾側は不満に思っています。
飯田)それでは、どこへ行くのですか?
有本)例えば総統府に行って、総統と記念撮影をするなど、そういう感じです。
飯田)それを報道公開する。
有本)あとは日華懇という名前だけあって、日本と中華民国でしょう? かつてからの議員交流をする議連のような状態になっているので、国民党の方に行ってしまったりするのですよ。
飯田)なるほど。
有本)実質的な話ができないことを、民進党側の人たちは不満に思っていました。そういうところも含めて、何度もそんなことを言っても仕方がないけれど、安倍さんが生きていらっしゃれば、これから台湾との関係において、もっと自由な道が開かれただろうと思います。
中堅の台湾派の日本議員による交流を望む ~台湾議員と積極的なディスカッションを
有本)むしろ中堅ぐらいの、ある程度、経験を積まれた台湾派の日本の議員の皆さんに、向こうに行って頑張っていただきたいです。いま政策をつくり上げている蔡さん側の与党の中枢にいる人たち、あるいは向こうの議員の中心的な人たちと、もっといろいろなディスカッションをして欲しいです。
飯田)安全保障の話もそうですし。
有本)あとはエネルギーの問題や、台湾はようやく福島の産品などを輸入するようになりますが、一方、日本では台湾のパイナップルを昨年(2021年)買ったりしている。いろいろと助け合える部分があるのですよ。だから中国はいろいろと言ってくるでしょうけれど、やはりお互いの国益を考えて、よい関係を発展させていく必要があります。
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