「積極財政派」と「財政再建派」のバトルの行方

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ジャーナリストの須田慎一郎が8月1日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。2023年度の予算編成について解説した。

「積極財政派」と「財政再建派」のバトルの行方

2022年7月29日、会議のまとめを行う岸田総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202207/29keizai.html)

2023年度予算の概算要求、基本方針が決定

2023年度の予算案の編成に向けて、各省庁が予算を要求する際の基本方針が7月29日の閣議で了解された。「新しい資本主義」を進めるための特別枠を設ける他、防衛関連予算については金額を示さずに要求する「事項要求」を認め、年末の予算編成の過程で検討するとしている。

新行)年末の予算編成に向け、まずはプロセスについて教えていただけますか?

須田)大前提として、政府の最も大事な仕事は予算案をつくるということなのですけれども、その予算案はどのようにつくられるのかということです。2023年度予算ですから、4月からスタートするのだけれども、事実上はこの8月からスタートするのです。

概算要求基準で来年度予算の上限を設定 ~次に概算要求によってつくられた予算案を通常国会で審議

須田)最初にやる作業は概算要求基準を決めることです。シーリングと言うのですが、来年(2023年)の予算上限をどこに設定するのか。つまり今年度と比べてどれくらい増やすのか、減らすのか。減らすことはあまりないのですけれども、どのくらい増やすのかということをまず決めた上で、その次の作業として、8月中に概算要求が始まります。

新行)概算要求。

須田)概算要求とは何かと言うと、各省庁から財務省の主計局に「来年度、うちの役所にはこれくらいの予算をください。これだけお金を使わせてください」というような要求が行われるのです。「いや、これは多すぎるから減らしてくれ」というようなやり取りで、叩いたり引っ込めたりして予算をつくっていくのです。

新行)各省庁と財務省の主計局との間で。

須田)最初は課長級くらいで協議しますが、次に局長、事務次官、最終的に大臣折衝と言われる大臣間の折衝をして、それによってつくられた予算案が1月から始まる通常国会で審議され、可決をもって成立するという流れです。ですから、8月1日が来年の予算のキックオフと考えてもらっていいと思います。

予算の4割を占める赤字国債の元利金返済 ~残りが政策経費となる

新行)予算の中身はいかがでしょうか?

須田)予算は歳出と言われるのですが、大きく2つに分かれます。

新行)2つに。

須田)1つは、日本は赤字国債を発行していますから、結構な借金があります。毎年元利金を支払っていかなくてはならないのです。その分は使えるお金ではありません。つまり社会保障費や公共事業投資に回せるお金ではない。それが4割くらいあります。これを除いて残ったお金が「政策経費」と言われているもので、その政策経費が私たちの生活に直結してくるのです。

政策経費は「社会保障費」「教育費」「防衛費」「公共事業投資」の4本柱で構成 ~政策経費を税収の範囲内で収める「プライマリーバランス黒字化」2025年度内の達成目指す

須田)大きく4本柱で構成されます。いちばん大きな割合を占めているのは社会保障費で、年金、介護、医療です。2つ目が教育費で、意外と大きなお金が使われているのです。3つ目は防衛費、4つ目に公共事業投資があります。だいたいこの4項目、社会保障費、教育費、防衛費、公共事業投資が4本柱と言われています。この政策経費を税収の範囲内で収めることを「プライマリーバランス黒字」と言います。よく「プライマリーバランス黒字」や「PB黒字」と言いますよね。

新行)言いますね。

須田)これは政策経費を税収の範囲内で収めることを言うのです。黒字になると残った部分を借金の返済に回せるから、借金の金額は減っていく、財政健全化に向かうということです。だからこそ、プライマリーバランスが赤字なのか黒字なのかが大きな意味合いを持つのです。政府には、「2025年度中にプライマリーバランスの黒字化を目指す」という基本方針が、2015年くらいからずっとあるのです。

少子高齢化で社会保障費が増え、それを除くと予算は3年間で1000億円しか増やせない ~「プライマリーバランス黒字」を撤廃しなければ防衛費はNATO基準まで増額できない

須田)プライマリーバランスを2025年度中に黒字にするという目標が設定されていて、それを目指していくために、これくらいしか増やせないという上限が決まってしまうのです。逆算していくと驚くことに、だいたい3年間で1000億円くらいしか増やせないのです。

新行)1000億円。

須田)正確に言うと、社会保障費を除いて1000億円くらいしか増やせないという計算になってしまう。少子高齢化が進んでいるから、社会保障費は純増でずっと15兆円くらい3年間で増えていってしまうのです。年間5兆円くらい増えていく。それを除くと、3年間で1000億円くらいしか増やせないという計算になるのです。

「積極財政派」と「財政再建派」のバトルの原点

須田)いくら何でも少なすぎるだろうということで、「プライマリーバランス黒字」を撤廃した方がいいのではないか。特にいまこれだけ景気・経済が悪いし、防衛予算を増やさなくてはならないという議論がある。防衛予算も4~5年のうちにNATO基準、つまりGDP比2%相当分まで増やすという方針がある以上、その方針を守るためにはプライマリーバランス黒字は維持できないのです。

新行)そうですよね。

須田)だから「この目標を外すべきだ」という意見と、「外したら財政は不健全になってしまう」という対立がある。これが自民党内で起こっている「積極財政派」と「財政再建派」のバトルの原点なのです。3年間で1000億円しか増やせないのであれば、「新しい資本主義」も何もないだろうと。社会保障費はただでさえ純増していくのだから、そこに関して考えていくと、やはり一定程度の増額でしか抑えられないとすれば、事実上横ばいになってしまいます。これをどう考えるのかがいま問われているのです。「2025年度中にPB黒字化」という方針を維持するのか、一旦棚上げにするのか、という大バトルがこれから始まると思います。

緊縮財政派のうしろで振り付けをするのは財務省

新行)ツイッターでご意見をいただいています。“シュンスケおじさん”からです。「プライマリーバランスにこだわりすぎて、国力が衰退したら元も子もないのだけれどな」ということです。

須田)自民党のなかで積極財政派と緊縮財政派、財政再建派がぶつかっていると申し上げましたけれども、実は緊縮財政派のうしろについて振り付けをしている人たちがいます。それが財務省なのです。財務省には「財政法上、財政健全化を目指していかなくてはならない」という目標があるので、「財政健全化は正しいことだ」という刷り込みがあるのです。放漫財政のようなものは悪だという強烈な思い込みがある。その辺りはある種の哲学論争なので、なかなか決着がつかないのです。

新行)積極財政派と財政再建派の綱引きがどうなるのかということですね。

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