今後、「習近平色」を薄める動きが出てくる可能性もある中国
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中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也と、青山学院大学客員教授でジャーナリストの峯村健司が8月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。極東で行われるロシアの大規模軍事演習について、また、今後の中国国内の体制について解説した。
ロシア極東の大規模軍事演習、日程変更 ~ウクライナとの戦いにおいて冬をまたいでの長期戦を目指す
ロシア国防省は8月29日、極東を管轄する東部軍管区で予定している大規模軍事演習「ボストーク2022」について、公表していた日程を先送りし、9月1日~7日に行うと発表した。兵員については4年前の前回に約30万人が参加したとされているが、今回は5万人以上に規模を縮小した。前回に引き続き、中国軍も参加する。
飯田)予定地も当初の13ヵ所から、7ヵ所に減ったそうです。当初は30日から行われる予定でしたが、2日間ずらされました。予定地を見ますと、北方領土の国後・択捉両島も含まれているということで、日本としては看過できないところです。
野村)ウクライナ情勢によって、ロシアがかなりダメージを受けていることが見え隠れしています。ロシアは兵をたくさん集めるため、先日、大統領令に署名しました。あれは冬をまたごうとしているのです。
飯田)長期戦になるということで。
野村)冬をまたぐと、ヨーロッパがエネルギーにおいてかなり厳しい状況に陥るので、足並みが乱れる可能性があるため、長期戦を目指しています。体制も再び整えないといけないので、このような軍事演習を行っている場合ではないということだと思います。
中国とロシアがどのくらい連携しているのかを注意深く見る必要がある ~中国企業が北方領土に進出する動きも
野村)日本にしてみると、北方領土は我々の領土です。しっかりと交渉していくためにも、ロシアが隣の国だということを考えて、緊張感を高めて防衛準備をしなければいけないと思います。
飯田)ここ数年は南の守りを考えてきたなかで、やはり北も捨て置くわけにはいかないぞ、ということですよね。
野村)私は北海道生まれなので、子どものころから北方領土問題は身近な問題でした。ここにきて軍事演習が繰り返されることに対しては、警戒感が強いですね。
峯村)気になるのは、中国軍が加わることです。中国企業なども北方領土に進出する動きがあるので、中露の連携については十分警戒しなければいけません。
飯田)中露の連携に。
峯村)2019年に中露両軍が合同で爆撃機を竹島に飛ばし、そのあとに尖閣諸島で演習を行いました。あの辺りから中露の合同演習が緊密になってきています。それ以来、今回が初めての合同演習になるので、日本側はどれほど中国とロシアが連携しているのかを注意深く見る必要があります。
飯田)どのくらい連携しているのか。
峯村)ロシア軍の参加する兵士数が減っているから大丈夫だと言うのではなく、中国軍がどれだけ人員を出してくるのか、作戦面でどのぐらい緊密に連携してくるのかをしっかりと監視しておくべきでしょう。
飯田)中国とロシアで艦艇を動かすとなると、2021年10月ごろに津軽海峡を中露の艦艇が、日本を「グルッ」と回るような形で10隻通過していったことがありました。
峯村)ポイントとしては、日本海だということです。日本海に中露両軍が展開されてしまうと、日本の防衛には大きな影響が及びます。日本の守りは南西諸島、特に尖閣諸島を中心としたところに集中しようとしていますが、背中の日本海でも対応しなければいけなくなるからです。自衛隊の戦力が二正面に分散されることになります。
飯田)そうですね。
峯村)この辺りを中露が連携して狙っているのです。東部軍管区というのは、キーウ攻略においてボロ負けした軍隊であり、最も疲弊しているところです。それでもロシアは二正面として頑張っているわけで、日本としても二正面に耐え得る作戦や兵力を保たなければいけないと思います。
中国の軍事演習に対しての抑止として米巡洋艦2隻が台湾海峡を航行
野村)まさに航行の自由作戦のような形で、航行すること自体は国際法上で禁止されてはいませんが、今回、台湾海峡をアメリカが通過するということがありました。
飯田)巡洋艦が2隻通過しましたね。
野村)このような行動自体が国際的な緊張を高めていくので、日本にとっても北の守りをどうするのかは、とても重要な問題になっているのだと思います。
峯村)アメリカの艦艇が台湾海峡を航行したということも重要です。いままではミサイル駆逐艦1隻だけが、まるで歌舞伎の見世物のように通っていました。しかし今回は、2隻通過したことが重要ですこれは珍しいことですし、中国と台湾の中間線において、かなり微妙なところを通ったと関係者からは聞いています。大規模な軍事演習を展開する中国に対して、アメリカがエスカレーションで抑止する狙いがあるのでしょう。
飯田)行動対行動ということですか?
峯村)そうですね。
EEZにミサイルを撃ち込まれても中国へ電話だけの抗議しかしない日本
野村)中国が先日、日本の排他的経済水域に撃ち込んできました。彼らは「日本との間には経済水域についての協議が整っていないから、あそこは自由にやれる」というような発想のことを言っていました。
峯村)中国外務省の報道官は「日本のEEZは存在しない」と断言しました。
野村)しかし、国際法的に見ればまったく通らない議論ですので、その辺りもきちんと対応していかなければならないと思います。
峯村)あのときもEEZに撃ち込まれているのに、日本の外務次官が電話で抗議しただけで終わっているのです。
飯田)大使に対して電話しただけでしたね。
峯村)しかも話を聞いていると、どうも中国大使を呼び出したけれど、来なかったから電話したという経緯だそうです。甘いですね。来なかったのならば、怒鳴り込んででも行かなければいけません。完全に現状変更をしてわけですから。
「EEZは存在しない」と中国に言わせてはならない
峯村)中国から「日本は黙認した」というようなキャンペーンを張られてしまう。「EEZは存在しない」と言わせてはいけません。これまで長年かけて日本とガス田協議などをやってきたことも、一気に意味がなくなってしまう。
野村)発想として、「大陸棚であれば全部自分たちのものだ」というような、国際法上では通用しないような議論しかしていないのです。
中国で「北戴河会議」が開催 ~「習近平氏と李克強氏の暗闘」はない
飯田)アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問した辺りから、日本のEEZへのミサイル撃ち込みや、米上院議員の訪台などが続いていますが、中国国内でもいろいろな動きがあったようですね。
峯村)今回、「北戴河会議」という非公式会議が開かれました。発表されないので詳細はわからないのですが、どうも複数のソースに聞いてみると、8月1日~15日ぐらいまで行われたのではないかと言われています。
飯田)2週間ほど。
峯村)最近の日本メディアの報道を見ると、李克強氏が復活して「習近平氏と暗闘」などという報道が目につきます。しかし、「これは誤っている」と断言できます。このような権力闘争分析はもう古いのです。権力闘争を使って中南海を分析する手法は、2012年に私が持ち込んだものなので、私が責任を持って葬らないといけないのですが。
飯田)峯村さんが責任を持って。
峯村)当時の胡錦濤体制は集団指導体制だったので、各派閥のバランスや対立軸を読み解いていくやり方が有効でした。しかし、いまは習近平1強体制であり、習近平氏に対抗できる組織や人物はいない。そもそも何派というような話ではないのです。
習近平氏が共産党軍の勝利を記念する博物館を訪問し、李克強氏が鄧小平の記念碑に献花したのはそれぞれ「分業的な行為」にすぎない
峯村)李克強氏についても、首相は2期10年と決まっているので、彼が首相を降りることは間違いありません。李克強氏が習近平氏に対して何かをやるということにはなりません。今回の北戴河会議についても、いまは経済がよくないのでいろいろな激論は交わされたようですが、暗闘や分裂などという話題はないようです。
飯田)分裂するということはない。
峯村)日本メディアなどを見ていると、習近平氏が遼寧省にある共産党軍の勝利を記念する博物館に行った。片や李克強氏は、広東省にある改革開放の鄧小平の記念碑に行っています。それを「分裂だ」とする論調があるのですが、まったく違います。
飯田)まったく違う。
峯村)プロトコルで言うと、習近平氏は政治・安全保障をやっているので、共産党の勝利を記念する博物館に行ったということは、「対台湾」なのです。国民党をやっつけたということをもう1度フォームアップして、「もう1度台湾を取り戻すのだ」という政治的なメッセージです。
飯田)台湾を取り戻すという。
峯村)李克強氏が広東省に行ったということは、「改革開放は引き続き堅持していく」、「経済発展は必要なのだ」という分業的なものをやっているのです。複数の意見を聞いていると、「これは権力闘争ではない」という流れが見えてきます。
野村)峯村さんに伺いたいのは、その2つは両立しない面もあるわけではないですか。ゼロコロナ政策にしても共同富裕にしても、あるいは一帯一路にしても、うまくいっていないところはたくさんあります。一方、それが経済に対して悪影響を及ぼしていることについて、危機感を持っている人はいるのですよね?
峯村)おっしゃる通りです。ですので、ゼロコロナも含めて、習近平政権が経済的に統制の方に行きすぎてしまっていることに対する批判は相当あったそうです。それに対する意思表示として、李克強氏が改革開放におけるいちばんの御本尊に行ってきた、というメッセージなのです。
今後、習近平色を薄める動きが出てくる可能性もある
野村)プーチン大統領は「過去のロシア帝国の夢」というような部分が、どこか歪ではないですか。習近平国家主席は「社会主義の夢」のようなものがどこかにあって、そこが少し経済発展を妨げているような部分はありませんか?
峯村)その要素はあります。いま打ち出している共同富裕政策なども社会主義色が前面に出たものです。デジタル分野などを中心に民間企業を叩いています。その副作用としての経済減退の動きは出てきています。
飯田)副作用が。
峯村)ゼロコロナなども相当ダメージが大きい。ここ最近では、行き過ぎたロックダウンによる経済活動の停滞を嫌った外資企業などが少しずつ中国から出ていく動きが出ています。いまだに外資は中国の経済成長のエンジンです。改めて改革開放路線を堅持していくことを、今回の北戴河会議で決まったようです。
野村)何かを握った可能性はありますよね。やはり3期目となると、いままでの習近平体制とは少し違って、異なる色が出てくる可能性はありますよね。
峯村)あり得ると思います。習近平色を薄める動きが今後、出てくる可能性はありますね。
飯田)副作用が。
峯村)ゼロコロナなども相当ダメージが大きい。ここ最近では、それを嫌がる外資企業などが少しずつ中国から出ていく動きもあります。外資が中国の経済成長のエンジンになっている部分があるので、ここに対するブレーキを踏むということが、今回の北戴河会議なのです。
野村)何かを握った可能性はありますよね。やはり3期目となると、いままでの習近平体制とは少し違って、異なる色が出てくる可能性はありますよね。
峯村)あり得ると思います。習近平色を薄める動きが今後、出てくる可能性はありますね。
次の首相が誰になるのかは重要な人事
飯田)その辺りで、李克強さんの後釜をどうするのかがポイントになってきますか?
峯村)首相ですので重要になります。いまは胡春華さんという、広東省の書記などを務めた方の名前が出ています。中国共産主義青年団という、李克強さんやその前の胡錦濤さんなどの流れを受けた人がなるだろうと言われています。
飯田)なるほど。
峯村)そうなると、改革開放路線は引き継ぐことになるでしょう。一方、彼が閑職などになると、習近平路線が加速して社会主義的な要素が強まる可能性があります。ここ2~3ヵ月の人事は非常に重要です。
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