防衛力強化で懸念される「2つ」のこと
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数量政策学者の高橋洋一と、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が8月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2023年度予算の概算要求について解説した。
2023年度予算の概算要求締め切り
財務省は各省庁からの要求を8月31日で締め切り、予算編成作業を本格化させる。これを前に鈴木財務大臣は、防衛力の強化といった歳出を増やす要因があるなかでも、財政規律を重視して予算編成を進める考えを強調した。
飯田) 防衛力強化をめぐっては有識者会議をつくり、財源も含めて検討するという方針が先週辺りに出てきましたが。
高橋)なぜ事前にいろいろなことをやりたいのでしょうか。役所が書いていて、最初から答えは決まっているのだから、先にその答えを政府答弁として言えば終わるではないですか。無駄なことをやっていると思います。
飯田)そういう流れをつくりたいと。
高橋)流れをつくりたいからです。そういうことをマスコミが言った方がいいと思います。「報告書はできているでしょう?」と。「それなら、その内容を国会で言ってください」と。
飯田)中身もだいたい予測できますか?
高橋)できますよ。財源で国債が必要になり、「つなぎ国債」として出して、「特別会計をつくって、きちんと経理しなくてはいけないですよ」と、特別会計をつくるでしょう。そのあとに「つなぎ国債でやっているから、これだけ負担があります」という話になって、東日本大震災のときのように復興増税となるパターンがいちばん可能性はあります。
飯田)国防増税のようなことが。
高橋)簡単に言えてしまったでしょう。そういうものの布石なのだから、「そうではないですよね?」と鈴木大臣に聞いたらいいのです。思わず「そうではない」と言ってしまったら、取れないではないですか。
飯田)官僚からすると困ってしまう。
高橋)「事項要求が例外だ」など、財務省のリークそのままです。私は事項要求を何回もやりました。
飯田)概算要求において、金額を付けて要求するのではなく、「こういう項目で必要です。金額をあとから出します」というようなものが事項要求だと。
高橋)それを嫌う人もいますけれど、私は「要求自由」といつも言っているから、平気でやりました。どうせ途中で数字が出てくるのです。年末になると必ず数字は出ます。その数字を8月31日に出すか、そのあとに出すかというだけの話なのです。
増税しないで国防費を増やす方法
飯田)でも、最終的には国防増税ということになってしまうと……。
高橋)当面、国債で出すのだから仕方がないですよ。出さないと社会保障費を削るというような話になるわけです。それも難しいでしょう。
飯田)年金を削るなどの方法になりますからね。
高橋)いろいろな手があるけれども、簡単なのは、いま持っている債務償還費という約10兆円の金額と、日銀納付金の収入があるのだけれど、足し算すると20兆円ぐらいになります。それを基金として積んでおき、5兆円ずつ4年間使って、「4年間はこれで対応しますよ」と言えば増税せずに済みます。そんな話を「そういう案はありますか?」と、「この検討会でやりますか?」と言ったら面白いではないですか。絶対に言わないけれど。「そんなものありません」と言うと思います。
飯田)「そんなものありません」になりますか?
高橋)おそらくそうではないかな。財務省が言いそうなことを先に言って、「それはありません」とか、「そんなことはしません」と言わせるのがマスコミの役割だと私は思うのだけれど。
防衛力強化で懸念する2つのこと ~他のことに投資する方が安全保障になる
飯田)防衛費についてはGDP比2%という話や、5年で倍増させるというような話も出てきていますが、「何をどうするか」というところがあまり出てきません。
小泉)今回、ウクライナで戦争が起こってしまったので、アメリカの抑止リソースが相当ヨーロッパ側に回ってしまうだろうと思います。そして、中国がおそらく今後も変わらずに軍事力の増強を続けるだろうことを考えると、ある程度、日本が防衛力の強化に踏み出さざるを得ないことは間違いないと思います。それ自体は私も必要だと思います。
飯田)防衛力を強化することは。
小泉)2点、懸念していることがあって、1つは防衛費の高負担傾向は本当にいいことなのかということです。国防にどれだけお金を回しても、再生産にならないわけです。他のことに投資できるのであれば、本当はその方が安全保障になると思うのです。国防にお金が回りすぎるのがいいことだとは思いません。
何のために長距離ミサイルを持つのか ~その議論がないままに買い物リストだけが出てくる
小泉)もう1つは、長距離ミサイルを買うとか、「イージス・アショア」が失敗したからそれをまた船に載せ直すなど、いろいろな話があります。しかし、「日本としてどのような防衛の構想を描くのか」という絵がきちんと説明されないまま、「何を買います」というお買い物リストの話ばかりが出ている気がします。
飯田)お買い物リストだけが出てくる。
小泉)特に中距離ミサイルを日本が持つという話に関しては、本来、これも防衛政策の大転換なわけです。でも「大転換する」という説明がなく、「従来のミサイル防衛の延長線上だからいいのだ」というような話が、これまでの建て付けでした。しかし、どう考えてもミサイル防衛の延長にはならないと思うのです。
飯田)ミサイル防衛の延長にはならない。
小泉)北朝鮮のミサイルも中国のミサイルも動きますから、「敵基地攻撃能力」の「基地」はないのだと思います。そうなると、敵の戦力発揮を制約するための阻止攻撃に使うということなのか。さらに、これは考えにくいですけれど、何らかの報復のために戦力を持つのか。
飯田)何のために。
小泉)「何のために北や中国に届くミサイルを持つのですか?」という議論がなされないまま、お買い物の話だけが進んでいる。これは、我が国が守るべき民主的価値を毀損していると思うのです。
飯田)そのような議論がないということは。
小泉)それだと国防にはなるかも知れないけれど、安全保障にはならないのではないかというのが、私が持っている懸念です。防衛費は増えるのでしょうけれど、「耐えられるのか」という話と、「どういう考えのもとに買うのか」という部分を、もっと議論してもいいのではないかと思うのです。
「何のために行うのか」ということを語れる「国家安全保障戦略」であって欲しい
飯田)その考えの部分が、戦略3文書の改定のはずです。国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画。その議論があまり聞こえてこないですね。
小泉)国家安保戦略に関して言いますと、1回意見聴取も交換してもらい、我々なりの提言をまとめてこれから公表するのです。いま打ち込みをしているところなのですが、そのなかでも思想を語らなければいけないと思うのです。
飯田)思想を語らなければならない。
小泉)特に国家安保戦略という最上位の文書のなかで、従来の2013年の国家安保戦略が最初に手を付けたところですが、これは安倍政権の大きな正の遺産だと思います。あれから9年経って、安保環境も大きく変わったわけです。ではどう変わったのか、どう評価するのか。そのなかで、新しい一歩を踏み出そうとしているのですけれど、その一歩は「何のために行うのか」ということを、きちんと語れる安保戦略であって欲しいと思います。
今後ロシアとの関係をどう位置付けるのか ~2013年版の国家安保戦略には「ロシア」という言葉は1ヵ所しか出ていない
飯田)文章を読むと抽象的なことも書いてありますが、当時の思想としては、中露がつながってしまうのはまずいと。だから「ロシアとは経済協力もしながらうまくやり、中国と対峙する関係にならざるを得ない」というのが基本戦略でした。けれども、もはやそれはウクライナの話で破綻してしまっているわけですよね。
小泉)そうですね。現行の2013年版国家安保戦略には、「ロシア」という言葉が1ヵ所しか出てこないのです。内容は「ロシアはエネルギー安全保障のパートナーです」と。「領土問題もあるので、全体として関係を高めていく」という位置付けなのです。
飯田)2013年版では。
小泉)しかし、いま我々はサハリン2を人質に取られていて、ロシアを「エネルギー安全保障のパートナー」と言えるのか。また、ウクライナを侵略してしまったロシアに対し、全体として「関係を高めていく」と言えるのか。多分、もう言えないと思いますけれども。
飯田)そんなロシアと。
小泉)だとしたら、どう位置付けるのか。ますます中露の連携が進んでいくなかで、まだ中露の分断を図るという安倍路線を継続したいのか。あるいは、それは既定路線として仕方がないので、「どう抑止するのか」という方向に向かうのかなど、まだまだ考えるべきことは多いと思います。
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