前統合幕僚長の河野克俊氏が10月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。10月4日に発射され日本のEEZ外の太平洋に落下した北朝鮮の弾道ミサイルについて解説した。
北朝鮮が弾道ミサイルを発射 ~岸田総理がバイデン大統領と電話首脳会談
10月4日午前、北朝鮮から弾道ミサイル1発が発射され、東北地方の上空を通過し、およそ4600キロ飛行。日本の排他的経済水域(EEZ)の外側の太平洋に落下したとみられている。岸田総理は午後、アメリカのインド太平洋軍トップであるアキリーノ司令官との会談に続き、4日夜はバイデン大統領と電話会談を行った。
飯田)10月4日夜、記者団の質問に答える岸田総理大臣のコメントです。
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飯田)北朝鮮のミサイル発射をどう受け止めておられますか?
河野)(北朝鮮のミサイルが日本上空を通過したのは)2017年以来なのです。その間、変則軌道のミサイルや列車から撃つものなど、バリエーションを増やしてきた。今回、その上で日本を飛び越えるような長距離発射をしていますので、脅威は格段に上がったと認識すべきだと思います。
「国防5ヵ年計画」に沿って核保有国の体制構築に向けて進むための一環
飯田)今回、4600キロ飛行したということですが、この距離の意味も大きいですか?
河野)2021年1月に北朝鮮は「国防5ヵ年計画」を発表し、「核保有国の体制構築に向けて進む」と宣言したのです。ですから、その過程にあると考えるべきだと思います。
飯田)向こうは計画に沿って粛々と動いているということですか?
河野)そういうことだと思います。
飯田)では、今回のタイミングで発射したことに関するメッセージはないのですか?
河野)タイミングで言えば、空母が参加した米韓合同演習。あとは日米韓で対潜水艦の演習も行っていますので、それに対する1つのメッセージとは言えると思いますが、大きな流れとしては、国防5ヵ年計画に沿った動きとして見るべきだと思います。
アメリカが北朝鮮に何らかのアプローチをするだろう
ジャーナリスト・佐々木俊尚)今回の距離が5000キロくらいということで、グアムまで届く距離になったという指摘もありますが、北朝鮮側にそういう狙いはあるのでしょうか?
河野)2017年ごろは、明確に北朝鮮の高官が「グアムを撃つ」と宣言したのです。今回は「グアムを狙う」とは言っていませんが、当然、グアムが射程内に収まる撃ち方だということです。グアムが念頭にあることは間違いないと思います。
佐々木)アメリカ側としては今後、何らかの対応をしなければならないということですか?
河野)アメリカはウクライナ情勢も抱えています。逆に言えば、国連安保理が機能していないのと、世界の目がウクライナに集中しているので、北朝鮮としては動きやすい状況にはあったわけです。今後、アメリカが北朝鮮に対し、これだけミサイルの距離を伸ばしてきたことについては、何らかのアプローチを行うと思います。
アメリカと北朝鮮の間に2017年のような緊張感が走るかどうかは不明
飯田)報道にもありましたが、2017年の際は朝鮮半島情勢が緊迫してきたなかで、複数の空母打撃群が周辺に向かうということもありました。今回、アメリカはそこまでするのでしょうか?
河野)当時はトランプ元大統領の就任1年目で、強硬な手段に出られたわけです。加えて、トランプ元大統領自体が世界から「予測しにくい大統領」という見方をされていました。そういう面も含めて、北朝鮮に対して軍事的なプレッシャーを大いに掛けていたのです。
飯田)トランプ元大統領は。
河野)バイデン大統領については、ウクライナ戦争でも、トランプ元大統領とは違うアプローチが見られますので、これから一気に2017年のような緊張感が走るかと言うと、それはまた冷静に見る必要があります。
日米韓の連携のなかでの日本の役割
飯田)バイデン大統領のアプローチに関しては、同盟国など仲間を募って迫っていく形を取るのではないかと言われています。日本に対しても、何らかの役割が求められることになりますか?
河野)「対北朝鮮」という観点から言えば、日米韓の連携が不可欠です。政府は年末にかけて、今後の防衛力の方向性を打ち出すわけです。そこで反撃力も含めたミサイル防衛体制についても出されるでしょう。また、アメリカとはさまざまな協議がなされるでしょうし、アメリカからも日本に対して役割を求めてくると思います。
ウクライナ戦争を教訓に北朝鮮が「核保有国」に向かうことは間違いない
佐々木)中国は北朝鮮の核開発に対して反対していました。ロシアとの関係もあり、複雑な国際情勢になっていると思いますが、今後、北朝鮮に対してはどういう対応をしていくのでしょうか?
河野)今回のウクライナ戦争を教訓として、北朝鮮も勉強していると思うのです。「核を持っていないことが、国を守る上で弱点になる」ということを北朝鮮は学んでいるはずです。
飯田)ウクライナを見て。
河野)北朝鮮は、核を持つということについては、中国からクレームを受けても絶対に進めるのだろうと思います。また中国も「持つな」という圧力までは掛けられないので、核保有国としての北朝鮮を前提に、中国も今後、北朝鮮に対応するのではないかと思います。
飯田)事実上の核保有国扱いになっていくと。
河野)そうですね。2017年当時は、「経済制裁を解く代わりに核を廃棄しよう」というアプローチでしたが、今後、北朝鮮は「核保有国として認めろ」ということを世界にアピールしていくのではないかと思います。
尹政権になり、日韓の軍事的な関係も前に進むことが期待できる
飯田)日米韓の連携ですが、韓国軍と自衛隊の関係は、レーダー照射の一件や自衛艦旗を掲げての入港を拒否するなど、日本側が連携しようと思っても難しいところがあると思います。この辺りはいかがですか?
河野)確かに文在寅政権のときは、防衛交流も含めて日韓関係は厳しかったのですが、尹政権になり、徐々にポリシーが変わってきていると思います。今回、日米韓で対潜水艦訓練を実施したのも久しぶりのことです。これまでよりは前に進むだろうと思いますし、進むことを期待しています。
台湾情勢への影響はない
飯田)中国と北朝鮮の関係性ですが、台湾情勢が緊迫化しているなかで北朝鮮がこういうことをやってくると、ここが連動しているのではないかと思ってしまいます。そこはいかがですか?
河野)先ほども言いましたが、核の保有体制を5ヵ年計画で固めるという方向に、彼らは邁進しているのだと思います。
飯田)なるほど。連動という考え方は飛躍しすぎているというところですね。
河野)そこはあまり考えない方がいいと思います。
ロシアと北朝鮮が連携する可能性はある
佐々木)ロシアに北朝鮮が武器・弾薬を供給するという話も出ていますが、ロシア・北朝鮮間がさらに接近する可能性はありますか?
河野)あります。ウクライナとロシアの戦争に関して、中国はロシアとは距離を取ろうとしていますが、北朝鮮は完全に支持に回っているわけです。ロシアと北朝鮮とのコミュニケーションは十分取れていると思いますし、今回のミサイル発射についても、ロシアとしてはアメリカの注意を二分する意味でもやってくれた方がいいわけです。今後、ロシアと北朝鮮が連携する可能性はあると思います。
飯田)それに対して、日本は日米韓、あるいはもっと大きな枠組みのなかで圧力を掛けていくしか方法はありませんか?
河野)もちろん日米韓の連携を深めるということと、年末にかけて今後の防衛力の方針が出ると思いますが、その際に国民防護、また防衛体制をどうするのか、今回の事案を踏まえて議論を深めていただきたいと思います。
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