経済アナリストのジョセフ・クラフトが10月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢の今後について解説した。
10月中にもウクライナ・キーウの日本大使館再開へ
政府はロシアによるウクライナ侵攻に伴い、2022年3月から一時閉鎖しているウクライナの首都キーウにある日本大使館について、10月中にも再開する方向で調整に入った。日本を除く先進7ヵ国(G7)は既に再開させており、歩調を合わせてウクライナとの連帯を示す狙いがある。
飯田)いまは隣国ポーランドに機能を移転していますが、G7各国の再開はだいぶ前の話ですよね。
クラフト)そうですね。遅いですし、もっと早く再開してもよかったのではないでしょうか。
飯田)日本政府としても、「キーウの情勢は落ち着いてきている」という判断なのでしょうか。
クラフト)ミサイルが来る可能性はあるのですが、南部と東部以外は正常化していますし、それを反映して他の国々は大使館を再開しているのだと思います。従業員の安否も考えて慎重に判断し、ここまで再開が遅れたのかも知れませんけれども。ウクライナを支援するという意味では、適切な判断ではないかと思います。
ウクライナの反転攻勢の裏にアメリカが関与
飯田)最近はウクライナ側の反転攻勢が目立ちますね。
クラフト)9月からの一連の反転攻勢にはアメリカが裏で相当、関与しています。戦略の構築など、かなり積極的にウクライナに協力しています。昨日(3日)、オースティン国防長官が「武器をどれくらい供給するかではなく、持っている武器をいかに戦術的に有効活用できるかだ」と言っていました。
飯田)持っている武器を。
クラフト)裏返すと、アメリカの武器を無駄にしないように、アメリカが戦略を練って一緒に動いているということです。それに対してプーチン大統領はいらだっていると思います。
ロシア軍の戦力を分析し、脆弱な箇所を把握 ~ウクライナ軍へ東部も攻めるよう情報を提供
飯田)欧米メディアから今回の反転攻勢に関する報道も出ていますが、ゼレンスキー大統領は当初、南部へルソン州を獲りに行ったのだけれど、「東部も一緒に行った方がいい」という示唆があって、作戦を練り直し、机上演習も行ったということです。
クラフト)アメリカの高官から聞いた話では、アメリカはいろいろな情報を持っているようです。ロシア軍を分析し、ロシア軍の脆弱な箇所を把握して、「ここを攻めていけ」と助言しているということです。
飯田)脆弱なところを。
クラフト)プーチン大統領も南部を攻められると思っていたので、東部が手薄になっていた。「そこを攻めろ」というのはアメリカからの指示だったのです。
飯田)それは相当細かく分析しないとわからないですよね。
クラフト)アメリカ軍は情報・戦略の面で予想以上にウクライナを支援しています。今朝(4日)の情報では、膠着状態だった南部へルソンをウクライナ軍が突破したという話も出ています。いよいよ本格的に南部も攻めていくことになるかも知れません。
2万5000人のロシア兵が孤立しているという情報も ~戦いにくくなる冬までに反撃したいウクライナ
飯田)南部へルソンで、2万5000人くらいのロシア兵たちが孤立しているのではないかという情報も出ています。
クラフト)橋を攻撃されてしまって、物資が届かないのです。ロシア軍は取り囲まれかねない、逃げられない状況になっているようです。
飯田)しかも、そこには空挺部隊も含めた精鋭たちがいるとのことです。ここをウクライナが奪還したら、いろいろ動き出しますね。
クラフト)あと1~2ヵ月で冬になります。冬になると地面が凍って動けなくなりますし、日中はぬかるみになってしまう。「それまでに反撃したい」ということで、ウクライナが反転攻勢に出ているのではないでしょうか。
ここが勝負と見て軍事資金を投入するアメリカ ~この1ヵ月はさらにウクライナを支援
飯田)ロシアによるウクライナ侵攻について、NATOを含めて西側諸国もいろいろ支援していますけれど、この辺りの変化はありますか?
クラフト)アメリカは6月~7月にかけて情勢が好転している状況を見て、勝負に出ていると思います。8月以降の軍事支援は1兆円を超えているのです。2月以降の軍事資金の半分を、8~9月に投入しています。
飯田)8~9月にかけて。
クラフト)アメリカは無駄金を投じることはしません。ここが勝機だと思い、畳みかけているのです。当然、軍事兵器だけではなく、戦略や情報においても支援しています。むしろこちらの方が重要かも知れません。これから1ヵ月間は、さらにウクライナを支援していくと思います。
ウクライナがNATO加盟申請をしたのはロシアの4州併合に対してのもの
飯田)ゼレンスキー大統領はNATOへの加盟申請を発表しました。
クラフト)加盟申請は、加盟するということではありません。加盟するには時間がかかるし、紛争当事国を加盟させることはできないわけです。加盟した瞬間に、攻撃されているわけですから、そうするとNATOが……。
飯田)集団的自衛権をいきなり行使することになる。
クラフト)ウクライナとロシアの戦争が終わってからという話です。これはポーズであり、ロシアが併合を発表したと同時に、ウクライナはプーチン大統領が嫌がるNATOへの加盟を打ち出したということです。
飯田)その意味では、ウクライナではなくロシア側が先に4州の住民投票を強引に行い、併合した。緊張のレベルを上げてきたことに対する反応なのですか?
クラフト)ロシアの「威嚇の3点セット」は部分動員・併合・核兵器です。その威嚇によってウクライナの反攻、あるいはアメリカ・NATO側の支援を考え直させようとしているのです。まったく効果はありませんが。それに対抗して、ゼレンスキー大統領がNATO加盟を打ち出したというだけの話です。
追い込まれたプーチン大統領が「核使用」という誤った判断をしかねない
クラフト)核兵器の使用に関して、プーチン大統領が「これはブラフではない」と言っていますが、ポーカーをやっている人間からすると、「ブラフではないと言った瞬間にブラフだよね」ということです。
飯田)ブラフだと言った瞬間に。
クラフト)普通、ブラフをかけていない人は「ブラフ」と言わないわけですから。ただ、「ブラフではない」と言った手前、追い込まれてしまうと過激な手段で反撃に出るしかない。核などの手段を使いかねないのです。いまのところアメリカ政府は、核を使用する兆候はないと言っていますが。
飯田)ロシア側が使う兆候はない。
クラフト)ただ、追いつめられていくうちにそういう判断をしかねない、そういうリスクには警戒しています。
飯田)それを抑止するには、「もし使ったらどうなるか」というようなことを示す必要がある。
クラフト)当然、アメリカは直接ロシアに伝えています。アメリカの高官が言っていましたが、ロシアの国務省や国防省などの幹部には直接警告しているけれど、誰もプーチン大統領とは直接話していないそうです。
飯田)プーチン大統領とは。
クラフト)だから、ロシア側に伝えたとは言っても、どういう形でプーチン大統領に伝わるのか。またプーチン大統領がどういう形で、どう受け取るのかはわかりません。核の使用を決断するのはプーチン大統領です。ウクライナ侵攻という誤った判断をしたように、プーチン大統領はまた、核兵器使用という誤った判断をしかねない。しないという保証がないところが心配ですね。
チェチェン共和国のカディロフ首長のような強硬派の影響も
飯田)侵略開始の前後、フランスのマクロン大統領と(プーチン大統領が)長電話したこともありました。あのようにメッセージを伝えることはできないのですか?
クラフト)対話は重要なのですけれども、直接対話の手段が絶たれてきています。アメリカが懸念しているのは、ロシア内の極右派、強硬派の存在です。先日、チェチェン共和国のカディロフ首長がSNSで小型核兵器の使用を主張しましたが、カディロフ氏のようなタカ派勢力が権力を持つと、よりエスカレーションしてしまいます。
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