中国共産党大会「胡錦濤強制退場事件」の真相
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青山学院大学客員教授でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が11月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国共産党大会での胡錦濤強制退場事件の真相について解説した。
胡錦濤強制退場事件
飯田)習近平政権は3期目を迎えて、顔ぶれ一新という形になりました。
峯村)衝撃だったのは、第20回中国共産党大会の閉幕式で起きた「胡錦濤強制退場事件」です。中国政治の中枢、中南海をずっと取材し続けていますが、習近平政権の3期目を占う上でも、大きな事件だったと見ています。胡錦濤氏に連なる「共青団」というグループがいるのですが。
飯田)共産主義青年団。
峯村)特に日本メディアでは「習近平 VS 胡錦濤派」などと言われますが、必ずしも正しい構図とは言えません。
習近平政権のロケットスタートを支えた胡錦濤氏 ~院政を敷かず、恩人でもある
峯村)2012年に習近平氏が総書記になって、ロケットスタートで反腐敗に動き、権力を「バチッ」と固めることができた。それができたのは、胡錦濤氏がすべての権力を習氏に譲り渡し、院政も敷かず、「口出しをしない」ことを約束したからです。そういう意味では、習近平氏にとってみると胡錦濤氏は恩人の1人なわけです。
飯田)江沢民氏のように、軍のポストを譲らないようなことはなかったわけですよね。
峯村)むしろ、逆に院政をやってはいけないと。「私も降りるから、江沢民を含めたすべての長老は院政をやめる」という内規をつくって、習近平氏にフリーハンドを与えたわけです。
今年の北戴河会議のなかで胡錦濤氏が習近平氏の政権運営について批判
峯村)胡錦濤氏は習近平氏の政権運営の2期10年を陰ながら支えてきたのです。しかし、最後の最後に今年(2022年)の北戴河会議のなかで……。
飯田)長老たちとの間での。
峯村)そこで初めて、胡錦濤氏は北戴河会議の席上で、2期10年の「封印」を解くように、習近平氏の政権運営について批判したという話が確認できました。いまの経済政策やゼロコロナ政策が間違っているのではないか、という意見を出したというのが1つ。
共青団出身の胡春華氏が首相になる話は出ていたが、蓋を開けたら格下に落とされていた ~その人事への怒りをあの場で表した胡錦濤氏
峯村)もう1つは、習近平氏が決めようとしている人事はかなり偏っているから、「自分が率いた共青団の人間を最高指導部に入れなければいけない」と強く要求した。このときは李克強首相も退任が決まっていたので、共青団出身のホープである副首相の胡春華氏が入ることで、習氏らは内諾していたそうです。
飯田)その時点では。
峯村)ところが、蓋を開けたら胡春華さんが入っていないどころか、いまは政治局員なのですが、それより格下の中央委員に落とされるという、胡錦濤氏からすると「許すまじ」という怒りをあの場で見せたのです。
飯田)なるほど。
峯村)公開情報だけではなく、中国、米国、台湾の当局者らの見方は一致しています。
「病気説」ではない ~そもそも病気であれば党大会に出席しない
飯田)あのときペーパーを持っていくとか、「見せろ、見せない」というところで揉めていました。「あれはトップ25の名簿なのではないか」と言われていますが。
峯村)あれはトップ25ではなく、その下の中央委員の名簿です。
飯田)トップ200くらいの。
峯村)204人ですかね。その名簿が入っていたということです。名簿を見れば、最高指導部の布陣もだいたいどうなるかもわかる。それを見た胡錦濤氏は「聞いていた話と違うではないか」ということで、「自分は同意しない」というところを、海外メディアが入ってきた段階で歌舞伎的に見せたのでしょう。
飯田)なるほど。
峯村)「病気説」を唱える人もいますが、開幕式にフルで出ていて、帰りにも習近平氏にすごい剣幕で言葉をかけています。しかも、自分の腹心である李克強氏には激励するように声をかけている。
飯田)肩を叩いていました。
峯村)認知症の人や病気の人が、あんなことをやるのかと。国営新華社の英語版ツイッターが「胡錦濤さんは病気だった」としていますが、これは中国理解で言うと「嘘だ」とわざわざ説明していることが最大の証左です。
飯田)反対のことを言う。
峯村)海外にわざわざ英語で流すというのは、あえて中国共産党が言いたいことを流しているのです。中国政府の公式発表は、逆読みすると全部当たっているわけです。一部の専門家が「あれは病気だから」と言っていますが、そのことをアメリカの専門家や台湾の専門家に伝えたら、「おめでたい奴がいるんだね」と嘲笑していました。
飯田)おめでたいと。
峯村)胡錦濤氏の病気がそこまで悪いのであれば、そもそも出席しませんよ。実際、健康問題を言われていた江沢民氏などは出てきていないわけですから。これは完全に人事、権力に絡む問題だと断言できます。
3期目は誰の言うことも聞かない ~鄧小平路線は終わり
飯田)結局、権力は強まったのですか?
峯村)そういうことです。だから、恩人たる唯一のサポーターで、たまには苦言を呈すこともあった胡錦濤氏を排除した。これは大きな話で、「もう誰の言うことも聞かない。私は突っ走る。3期目は自分のやりたいことをやる」ということです。
飯田)もう誰の言うことも聞かない。
峯村)もう1つは、胡錦濤氏はまさに鄧小平氏に指名されてきた人です。鄧小平路線を引き継いできた人間を「バサッ」と切るということは、「鄧小平路線は終わりだ」ということです。この2つの意味があるのだと思います。
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