経済アナリストのジョセフ・クラフトが11月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。インドネシアのバリ島で行われた米中首脳会談について解説した。
米中首脳会談、3年5ヵ月ぶりに対面で開催
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は日本時間11月14日夜、インドネシア・バリ島で会談を行った。冒頭、バイデン大統領は台湾情勢などを念頭に、対話継続に尽力すると伝えた。また習近平国家主席は、両国が難しい関係にあり、懸念を抱いているとの認識を示した。対面での米中首脳会談は、トランプ前大統領と習近平国家主席がG20大阪サミットで会った2019年6月以来、3年5ヵ月ぶりとなった。
友好的な握手をして「融和」をあらわしたバイデン大統領
飯田)昨日(11月14日)の午後6時半過ぎから始まって、3時間あまり行われたということです。どうご覧になりましたか?
クラフト)趣旨はおそらく両国、特にアメリカ側は融和、つまり関係の正常化を目的としているのだと思います。その象徴が、冒頭で両首脳が会ったときの握手にあります。欧米では、握手は20種類以上あり、それぞれ意味があるのです。
飯田)そんなに種類があるのですか?
クラフト)今回、バイデン氏と習近平氏が握手した際は、バイデン氏が最初に手を差し伸べ、そして習近平氏の右手の甲の上に手を乗せました。
飯田)反対側の、握手していない方の手を乗せた。
クラフト)そうです。これは、非常に融和的な姿勢なのです。習近平氏はどちらかと言うと、少し距離を置いて警戒していたのですが、バイデン大統領が手を合わせてきたということは、「友達だ」というような雰囲気で出迎えたということです。まず、そこから雰囲気づくりが始まっているわけです。
日中首脳会談の前に日米韓首脳会談が行われた背景
飯田)出てきている情報としては、「台湾に関して応酬があった」などという話もありましたが、必要以上に米中に融和されると、日本は困りますよね。
クラフト)今回は日本側に「アメリカが中国寄りに動くのではないか」という警戒感があり、事前に「米中首脳会談の前に、日米首脳会談をやりたい」と求めたのではないでしょうか。
飯田)日本側から事前に。
クラフト)しかし、バイデン大統領のG20のスケジュールが詰まっており、充分な時間が取れそうにない。そこで日本側は、ASEAN関連首脳会議が開かれるプノンペンで、日米首脳会談を行ってすり合わせ、あるいは釘を刺して連携しておくことを求めた。逆にアメリカは(会談を実施する)代わりに、「日米韓首脳会談」にしてくれと。そして日韓首脳会談も行うということで、話がまとまったのではないかと思います。
飯田)すべてがある意味、「バーター」というような感じで。
クラフト)そういうことだと思います。
中国とはこれ以上関係を悪化させたくないアメリカ ~「今後も対話を続けていこう」ということが会談の趣旨
飯田)岸田総理はG20前、プノンペンの東アジアサミットのなかで、中国を名指しで批判しました。(日本側の)姿勢を見せて、アメリカに対して「あまり融和するなよ」と釘を刺したのですか?
クラフト)アメリカが中国との関係を正常化する方向なのはいいのですが、過剰に中国に対して妥協してはいけない。アメリカはいまロシアと対立している上に、北朝鮮問題があり、イランとも問題があり、サウジアラビアとも関係が悪い。そこに今度は中国となると、相当に厳しいはずです。「せめて中国とは関係を悪化させたくない」というのが本音だと思います。
飯田)これ以上、さらに角を突き合わせることがないよう、この関係で維持できればいいかと。
クラフト)バイデン大統領が言った「競争が紛争に至らないようにしなくてはいけない」という言葉にすべて集約されるのだと思います。台湾情勢や中国の不正な貿易行為に対して、言うことは言うけれど、合意できることは合意しようと。「今後も対話を続けていこう」というのが、会談の趣旨だったと思います。
中国に対して下手に出て、「中国なりに考えてください」と言う姿勢にアメリカの本音が見える
飯田)ルールに従い、健全に競争していく。それは続けていくのだとバイデン氏は言っていましたものね。
クラフト)米中首脳会談の前に、アメリカのジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、「北朝鮮に関しては中国にアメリカ側の懸念を共有するが、具体的な対応は強要しない」と言っています。
飯田)具体的な対応は強要しないと。
クラフト)アメリカ側が日本や韓国、また世界の懸念を伝えた上で、「中国なりに考えてください」と。つまり、上から「やれ」と言うのではなく、「お願いします」と下手に出ている。そこからもアメリカ側の「中国とは対立したくない」という姿勢が表れているし、先ほどの握手の話でも、アメリカ側の本音が見え隠れしているのがわかります。
握手によってお互いの上下関係が決まってしまう
飯田)冒頭で行われた両首脳の握手を、私たち日本人は何となく見ていますが、そこにはメッセージがあるのですね?
クラフト)習近平氏、中国側がそれをどこまで意識しているのかはわかりませんが、欧米同士の首脳が会うときは、そこでお互いの上下関係が決まってしまうのです。
飯田)握手でマウントを取るのですか?
クラフト)そこで流れが決まってしまう。だからお互いに必死です。象徴的だったのが、初めてトランプ氏がフランスに行き、マクロン大統領と握手したときです。「どちらが強く握れるか」ということで、写真で見ると拳が真っ白になっていました。お互いに負けられないと。
飯田)お互いに力を込めて、「グッ」と握っているわけですか?
クラフト)そうです。握手したときに、手を相手の甲に乗せると好意的なのです。
飯田)先ほどおっしゃったように。
クラフト)相手の肩に手を乗せると、「おれの方が上だぞ」となります。
飯田)そうなのですね。
クラフト)カナダのトルドー首相がホワイトハウスに行って握手したときに、トランプ氏がトルドー首相の肩に手を乗せるわけです。「負けじ」とトルドー首相も、トランプ氏の肩に手を乗せた。お互いに相手の肩を握りしめているわけです。一歩も引かない。
飯田)腕を組んでいる写真だけだと、仲がいいのだなと思いますが、違うのですね。
クラフト)完全にお互いのポジションを形成しようとしているのです。
関係性がとても良好だったトランプ氏と安倍元総理の場合
クラフト)トランプ氏と安倍元総理の場合は、「シャグ」と呼びますが、「シェイク・アンド・ハグ」です。握手したあとに、お互いに抱き合わせると「好きだ」という意味で、安倍・トランプの場合はそういう形が多かった。
飯田)抱えるようにして話し込んでいますよね。
クラフト)あとはグータッチなどもしますよね。安倍・トランプの関係はよかった。しかし、トランプ氏は他の首脳に対しては威圧的な握手、ボディーランゲージをします。ボディーランゲージの意味合いは大学でも勉強されるくらい大切なことです。
飯田)外交の現場では、あの手この手でマウントを取ろうとするのですね。
クラフト)手の握り方は、自信の表れなのです。「ガッ」と握る場合は自信を持っているわけです。そうすると相手はリスペクトするのですが、弱々しいと「この人はダメなのだな」と舐められてしまうのです。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。