2度の同点ゴールは「必然」 堂安律の「強い気持ち、強いサッカー愛」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、サッカー・カタールW杯、グループリーグのドイツ戦・スペイン戦で同点ゴールを決め、日本の逆転勝利と決勝トーナメント進出に貢献した堂安律選手にまつわるエピソードを紹介する。

2度の同点ゴールは「必然」 堂安律の「強い気持ち、強いサッカー愛」

【サッカーカタールW杯2022 日本代表対スペイン代表】後半、ゴールを決める堂安律=2022年12月1日 ハリファ国際競技場 写真提供:産経新聞社

日本中を沸かせ、世界を驚かせた、サッカー日本代表のW杯グループリーグ1位突破。優勝経験国のドイツとスペインを撃破し、かつ2試合とも、1点を先制されながら、後半に2点を奪い返しての逆転勝ちでした。決勝トーナメント進出だけではなく「強い勝ち方で、自力で決めた」ことも讃えるべきでしょう。

今回のW杯、日本代表の戦いを観ていて感じるのは「気持ちの強さ」です。相手がどこだろうとひるまずに前を向き、攻めの姿勢を失わず、全力で向かって行って倒す。そういう意識がチーム全体に浸透していることがいちばんの勝因だと思います。

試合を決めたのは、ドイツ戦が浅野拓磨、スペイン戦が田中碧で、彼らの決勝ゴールは「殊勲の一撃」として大きく取り上げられました。しかし、そのお膳立てをしたのは、両試合で後半から途中出場、いずれも同点ゴールを決めた堂安律だったことを忘れてはいけません。

堂安は自他ともに認める、チーム内でも人一倍気持ちが強い選手です。ビッグマウスでも知られ、今回のW杯でもたびたび強気の発言をしています。大会前から「目標は優勝」と豪語。「なに寝言を言ってるんだ」という冷ややかな声に対して、グループリーグ初戦のドイツ戦で、堂安はいきなり魅せてくれました。

0-1と劣勢のまま進んでいた後半途中、切り札として投入された堂安は、わずか4分後の後半30分、「黄金の左足」で同点ゴールを叩き込んで反撃のノロシを上げ、その8分後、浅野の逆転ゴールを呼び込みました。試合後の堂安のコメントがまた彼らしい一言でした。

『俺が決めるという気持ちで入った。俺しかいないと思っていた。そういう強い気持ちでピッチに入りました』

~『サンケイスポーツ』2022年11月24日配信記事 より(ドイツ戦終了後、堂安のコメント)

「俺が決める」「俺しかいない」……初めて出場するW杯の大舞台で、こんな強い気持ちでピッチに立てる選手が日本に現れたことに、深い感慨を覚えます。また、それを現実にしてしまう突破力。日本代表が求めていたのは、こういう選手です。

ただ、何にでもケチを付けたがる人はいるものです。この同点ゴール、こぼれ球に反応したものだったため、「たまたま目の前にボールが来ただけではないか」という声も。堂安はこの声を、闘志をかきたてる材料にしました。

『ドイツ戦で得点はしたけど、ただのごっつぁんだろっていう人もいたし、うるせえなと思っていた』

~『ゲキサカ』2022年12月2日配信記事 より

日本が勝てばグループリーグ突破、負ければ敗退決定、引き分けなら同時進行のコスタリカvsドイツ戦次第という状況で迎えたスペイン戦。ドイツ戦と同様、日本は前半に1点を失います。森保一監督は、後半開始から堂安を投入。堂安はもちろん「自分がなすべきこと」をわかっていました。

『(ドイツ戦を)奇跡でなく、必然だったと思わせたい』

~『サンケイスポーツ』2022年12月2日配信記事 より

試合前にそう宣言していた堂安。後半開始3分、またしてもすぐに仕事をしました。伊東純也が右サイドで競り合い、ヘディングでつなぐと、堂安がその浮き球を巧みに拾います。目の前にスペースができているのを見た堂安は、すかさず左足を一閃させました。

『逆になんであそこでフリーだったのかわからないくらいフリーだった。あそこでフリーにすると、堂安律は危ないので』

~『サンケイスポーツ』2022年12月2日配信記事 より

試合後そう言って、ニヤリと笑った堂安。「ナメてんじゃねえぞ、スペイン!」と言わんばかりの一撃は、相手ゴールキーパーの腕を弾き飛ばし、ゴールネットを揺らしました。

『あそこは俺のコースなので。あそこで持てば絶対打ってやると決めていたので。思い切って打ちました』

~『スポニチアネックス』2022年12月2日配信記事 より

「0-1の後半、堂安が入ってすぐに同点ゴール……ドイツ戦とまったく同じだ!」と感じた人も多いでしょう。ならば、その後すぐに逆転ゴールが生まれるはず。そんな雰囲気をつくったのは、堂安の「突破力」です。そしてそのシナリオはわずか3分後、現実になりました。

後半6分、堂安は再び右サイドでボールを受けると、縦への突破を目指します。堂安が送り込んだボールが、あの「三笘の1ミリ」と呼ばれる、三笘薫のラインギリギリの折り返しにつながり、田中碧の決勝ゴールを導きました。

そのまま逃げ切れば、裏のコスタリカvsドイツ戦の結果がどうなろうと決勝トーナメント進出が決まります。堂安は守備でもいい働きを見せ、日本は鉄壁の守りで勝利。みごと奇跡を……いや、堂安風に言うと「必然の勝利」を決めてみせました。

『このグループを突破すれば僕が大会前に言っていた優勝というのをみなさんが信じてくれると思っていた。僕は冗談抜きで優勝を目指しているんで。やっとそれを皆さんが信じてくれるんじゃないかと思う』

~『ゲキサカ』2022年12月2日配信記事 より

堂安はスペイン戦終了後、自身のツイッターを更新。改めて一言、こう記しました。

『優勝するよ!!』

~堂安律ツイッター(2022年12月2日のツイート)より

このツイートは、アップされてから30分あまりで約2万件もリツイートされています。なぜここまで、堂安が強気の発言を続けるのか。その目的は、自らを奮い立たせることだけではないのです。

『僕が日本サッカーを盛り上げるという強い気持ちでピッチに立っているので、ぜひ期待してほしい』

~『サンケイスポーツ』2022年11月24日配信記事 より

W杯で勝ち進むことで、日本のサッカーを盛り上げ、恩返しをしようという「サッカー愛」が堂安の原動力になっています。「新しい景色」を求めて突き進む日本代表の戦いは、まさにこれからが本番。堂安と同じ「強い気持ち」で、その行方を見守りたいと思います。

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