明海大学教授で日本国際問題研究所主任研究員の小谷哲男が12月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「国家安全保障戦略」など3文書の改定について解説した。
岸田総理、防衛費増額の財源措置 安保3文書とともに近く決定へ
防衛費増額の財源を賄うための増税策をめぐり、岸田総理大臣は公明党の山口代表と会談し、「国家安全保障戦略」など3つの文書とともに近く一体的に決定することを確認した。
飯田)安保3文書の改定について、どうご覧になりますか?
安保3文書改定のいちばんの肝は「日本自身が打撃力を持つ」ということ ~日本の防衛政策、日米同盟のあり方に大きな変化をもたらす
小谷)いちばんの肝は、日本自身が打撃力を持つということです。これまで日米同盟は「盾と矛」と言われてきました。日本側は防御的な能力を持ち、アメリカ側が攻撃的な能力を持つということでやってきました。
飯田)日米同盟は。
小谷)日本が攻撃されれば、日本自身も身を守ることができますが、さらなる攻撃を防ぐため、あるいは報復するための攻撃力はアメリカに依存してきたわけです。それが今回の安保文書に基づいて、日本自身が反撃能力を持つということになります。
飯田)日本自身が。
小谷)ただ、反撃能力と言っても報復のためではなく、あくまで2撃、3撃を妨害するためのものですから、盾の延長と言えないこともないと思います。それでも日本自身が他国の領域を直接攻撃できる能力を持つということになり、日本の防衛政策、そして日米同盟のあり方に大きな変化をもたらすことにはなると思います。
アメリカから長距離巡航ミサイルを買うなど、これまでの装備体系とは異なる形で進んでいく
飯田)いままでは、盾の部分だということを強調されていて、射程も短いものでなければならなかった。そうなると、いまある装備ではないものを持ってこなければならないわけですよね。
小谷)射程を伸ばすことも進められていますし、アメリカから長距離巡航ミサイルを買うという話も出てきています。さらには、日本自身がいわゆる極超音速の能力を開発して持つことになる可能性もあります。これまでの装備体系とは異なる形で進んでいくと思います。
日本が反撃能力として1000発でもミサイルを持てば地域の安定につながる
飯田)やはり、注目すべきところは台湾有事であり、南西諸島をどう守るかということです。そこにまずは焦点が当たってきますか?
小谷)いまこの地域で最大の課題になっているのは、「ミサイルギャップ」と言われている問題です。
飯田)ミサイルギャップ。
小谷)地上配備型のミサイルに対し、中国は台湾や日本を攻撃できるミサイルを約2000発持っているわけですが、日本はゼロなのです。「2000対0」というのは、やはり圧倒的なギャップがあります。このままだと中国が先に攻撃してしまえば、日本、あるいはそこに展開している米軍は手を出せないのではないか、と思われてしまう可能性が高い。それは逆に、地域の不安定化につながるわけです。
飯田)2000対0では。
小谷)しかし、日本が反撃能力として、たとえ1000発程度であっても反撃できる能力を持てば、1000対2000となります。中国側が攻撃を考える際に、「自分たちも反撃されるかも知れないな」と思えば、計算が複雑になる。行動もより慎重になるので、地域の安定につながるということが言えると思います。
現状では、最初の段階で自衛隊基地、在日米軍基地、あるいはグアムの米軍基地は2000発のミサイルですべて破壊されてしまう ~今回の安保文書改定でそこが改良される
飯田)ミサイルギャップを数字にすると「2000対0」になりますが、いまのままでは、(攻撃の脅威を)ちらつかされるだけで日本は何もできなくなります。
小谷)我々シンクタンクに属している人間も、よく台湾有事を想定したシミュレーションを行うのですが、最初の段階で自衛隊基地、在日米軍基地、あるいはグアムの米軍基地は、2000発のミサイルですべて破壊されてしまう状況になります。2000対0の状況が維持されれば、この地域の安定を守ることができないと強く感じていました。今回の安保文書でそこが改良されるのは非常にいいことだと思います。
飯田)2000対0のギャップですが、2000という数字は弾道ミサイルと理解していいのですか?
小谷)弾道ミサイルと巡航ミサイル、両方を含めてですね。
アメリカは中距離ミサイルに核弾頭を搭載することは考えていない
飯田)弾道ミサイルを持つことは、なかなか難しいのですか?
小谷)日本が既に開発を進めている極超音速ミサイルは、弾道ミサイルを改良したものですので、事実上、日本も弾道ミサイルと巡航ミサイルの両方を持つことになっていきます。
飯田)アメリカは特に核を載せられる中距離ミサイルに関しては、昔のソ連、いまのロシアとの間の取り決めで、いまのところあまり持っていないという話を聞いたことがあるのですが、いかがですか?
小谷)アメリカが持っている中距離ミサイルは、陸上配備のものは旧ソ連との条約で全廃しなければならなかったので、いまようやく開発を始めたところです。ただ前提として、いまのアメリカは中距離ミサイルに核弾頭を搭載することは考えていません。
飯田)中距離ミサイルに核弾頭を搭載することは。
小谷)核に関しては、戦略核を中心に考えていますので、今後、この地域に配備されるアメリカの中距離ミサイルは、通常弾頭型になると思います。
北東アジアで外国の領域を攻撃できるミサイルを持っていないのは日本とモンゴルだけ
飯田)ロシアによるウクライナ侵攻などを見ても、アメリカの支援は大事ですが、当事国が自ら戦わなければならないことが如実にわかります。そうすると、日本が「どこまで備えるべきか」というのは、相手次第になりますか?
小谷)もちろん、相手とのバランスを考えることは必要なのですが、少なくとも北東アジアに目を向けると、外国の領域を攻撃できるミサイルを持っていないのは日本とモンゴルだけなのです。
飯田)持っていないのは日本とモンゴルだけ。
小谷)台湾は持っていますし、韓国も持っています。北朝鮮、中国、ロシアは当然持っている。そんななかで、持っていない国があること自体が実は不安定につながる要素なのです。日本もようやく考え方を変えて、自分たちも持つという方向になるわけです。
防衛費が2倍になることで「何を諦めるか」から「必要なものは買える」ことに
飯田)防衛費に関しても、2027年までの今後5年間で2倍、GDP比2%まで増やすと言っています。財源で揉めているところはありますが、現場の装備などを考えた場合、これで足りるものなのですか?
小谷)もちろん、防衛費はあればあるほどいいのですが、現実的に大枠は常に必要なわけです。これまでGDP比1%に抑えられていたなかでも、装備に使えるものは30%くらいしかなかったわけです。それが単純計算で2倍になるということは、2倍の装備を買うことができますし、とりわけミサイルに関しては約5兆円をつけるという方針が出ています。
飯田)ミサイルに5兆円。
小谷)防衛費がGDP比1%に抑えられているときは、あれもこれも必要なのだけれど、「まず何を諦めるか」という議論だったのです。それが2倍になることで、必要なものはそれなりに買えるということが大きい変化だと思います。
弾薬が足りないことは業界では「公然の秘密」であった
飯田)これまで諦めるもののなかに弾薬があり、「弾が足りない」ということが報道されています。そこも人並みになるのですか?
小谷)まさにウクライナ侵略が、改めて「弾薬や燃料がいかに必要か」という事実を示したのだと思います。
飯田)ロシアによるウクライナ侵攻が。
小谷)いくら戦闘機や戦車があっても、燃料がなければ動きませんし、撃つための弾がなければ戦えないわけです。弾が足りないことは、我々の業界では公然の秘密でしたが、防衛省があえて「迎撃ミサイルは(必要量の)6割しか確保できていないのです」と公に言うくらい切迫していたのだと思います。
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