「劇的すぎたサヨナラシーン」で振り返る2022年のプロ野球・球団別 ~パ・リーグ編〜

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は2022年のプロ野球、パ・リーグで生まれた劇的すぎるサヨナラシーンを球団別に振り返りたい。

「劇的すぎたサヨナラシーン」で振り返る2022年のプロ野球・球団別 ~パ・リーグ編〜

【プロ野球オリックス】月間「スカパー!サヨナラ賞」を受賞したオリックス・宗佑磨=2022年10月10日 京セラドーム大阪 写真提供:産経新聞社

■北海道日本ハムファイターズ

今季、最下位に沈んだ日本ハム。だが、若手選手の台頭も数多く生まれた1年でもあった。その1人がドラフト9位ルーキー上川畑大悟だ。ケガで出遅れたものの、後半戦で結果を残してレギュラー級の存在に。持ち味の守備だけでなく、打率.291とバットでも期待に応え、ファンから「“神”川畑」と呼ばれるまでに飛躍した。

その「神」っぷりを発揮したのが9月17日、札幌ドームでのロッテ戦。この日は日本ハムにとって3年ぶりに4万人超の観衆で本拠地が埋まった特別な一戦。4対4で迎えた9回裏、2死二、三塁のチャンスで上川畑の打席。逆らわず、レフト方向に放った打球は4万人超のファンが大興奮するサヨナラヒットとなった。

その興奮度を的確に語ってくれたのが試合後の新庄BIGBOSSだ。

『今年一番のゲームを見せられて本当にうれしい。この結果は、選手はもちろんですけど、今日来てくれたファンの力っていうのは、ものすごいものがあるので。今日は本当にファンに感謝ですね。あー、しびれた』

~『日刊スポーツ』2022年9月18日配信記事 より(新庄監督の言葉)

■千葉ロッテマリーンズ

今季のロッテ・サヨナラ男といえば、6月と7月、2ヵ月続けてサヨナラ打を記録した髙部瑛斗で決まりだ。今季はプロ3年目にしてレギュラーに定着し、44盗塁で盗塁王、さらにゴールデン・グラブ賞受賞と充実の1年になった。

そんな飛躍の年に生まれたプロ初のサヨナラ安打は、6月26日のオリックス戦。同点の延長11回裏、2死二塁のチャンスで打席に立った髙部が放った打球は一、二塁間を抜け、前身守備のライト前へ。二塁走者の和田康士朗が快足を飛ばし、ヘッドスライディングでホームイン。俊足コンビで決めた見事なサヨナラ決着となった。

『気持ちいいです。(自分に打席が)回ってこいと思って待っていました』

~『スポーツ報知』2022年6月26日配信記事 より(髙部瑛斗の言葉)

試合後にこんなコメントを残した髙部。実は「回ってこい」と積極的な姿勢でこの場面を渇望していたのには理由がある。4月6日の日本ハム戦、自らの判断ミスでサヨナラ負けを喫した試合があったからだ。試合後にベンチで号泣した髙部に対し、井口監督はこんな厳しいコメントで成長への糧にして欲しいと語っていた。

『バント失敗もありましたし、チャンスで見逃し三振もあったり。ちょっと消極的なのかどうか分からないですけど、もっと若い選手はどんどん積極的にやっていかないと勝てない』

~『スポーツ報知』2022年4月6日配信記事 より(井口監督の言葉)

シーズン冒頭に経験した「消極的なミス」を無駄にしなかった、名誉挽回のサヨナラヒットだった。

■東北楽天ゴールデンイーグルス

4月30日、本拠地・楽天生命パークで行われたソフトバンクとの一戦。楽天にとって、この試合は3年ぶりの特別なものだった。コロナ禍で入場制限をしていたスタジアムが2019年9月以来となる満員御礼となったのだ。

そんな満員のファンの前にもかかわらず、試合は苦戦。2対6と4点ビハインドで9回裏の攻撃へ。相手のエラーもあって1死一、三塁とチャンスをつくると、まずはソフトバンク・モイネロの暴投で1点。さらに2死一、二塁から、今季加入した西川遥輝が5号同点3ラン。杜の都のファンを大いに沸かせた。

押せ押せの楽天は延長11回裏、2死二、三塁の場面で、ここまで4打数無安打だった浅村栄斗がサヨナラ安打を放って決着。3年ぶり満員御礼に劇的勝利で応えたのだった。

実はこの一打、浅村にとって楽天移籍4年目にして初のサヨナラ打。その感慨深さについて、後日、こんなコメントを残している。

『今考えてみると、満員御礼のお客さんの前でサヨナラヒットが打てたっていうのも自分だけの力じゃないと思うし、久しぶりの満員御礼でゲームができてすごく幸せだなと改めて思いました』

~『スカパー!スポーツ』2022年5月18日配信記事 より(浅村栄斗の言葉)

■埼玉西武ライオンズ

西武の劇的サヨナラ勝利といえば、10月1日の対ソフトバンク戦。優勝マジックを「1」としてベルーナドームに乗り込んできたソフトバンクにとって、引き分けでも優勝が決まる一戦だ。この試合に決着をつけ、目の前での胴上げを阻止したのは、西武の4番、山川穂高が放った豪快弾だった。

『初めてのサヨナラホームランなので本当にうれしい』

~『サンスポ』2022年10月1日配信記事 より(山川穂高の言葉)

通算218本塁打を誇る山川にとって、意外にもこれがプロ初のサヨナラ弾。そしてこの山川の一撃は、ソフトバンクの優勝を阻止しただけでなく、長年、パ・リーグの優勝を目の前で許してきた「優勝見届け球団・西武」という悲しいジンクスを打ち破るものだった。

2010年代だけで、本拠地で胴上げを許すこと4回。さらに、敵地で胴上げを目撃することも多く、いつしか「優勝見届け球団」と呼ばれるように。今回も、あとアウト4つで引き分けとなり、ソフトバンクの優勝が決まってもおかしくなかった。そんな負の連鎖を見事に止めた山川の41号サヨナラ“胴上げ阻止”2ランに、溜飲を下げた西武ファンは多かったはずだ。

山川にとっても、独走していたホームラン王のタイトルだけでなく、オリックス・吉田正尚と競り合っていた打点王争いでもリードを広げ、自身初の二冠王を確定させた一打となった。

■福岡ソフトバンクホークス

2022年、ソフトバンクで生まれたサヨナラシーンは2回。その2回とも「サヨナラアーチ」で成し遂げたのが周東佑京だ。

1本目は6月18日の楽天戦の延長10回裏、楽天の守護神・松井裕樹からサヨナラ2ラン。そしてもう1本は8月13日のオリックス戦。同点で迎えた9回裏、オリックス・宇田川優希の153キロのストレートを振り抜き、右翼テラス席に放り込んでみせた。

奇しくも「ユウキ」相手に放った2本のサヨナラ弾。なかでも格別だったのは1本目だ。

『人生初です。ヒットも。チャンスに弱かった人生なんで。誰も予想してなかったと思うし、自分自身が1番予想してなかった』

~『Full-Count』2022年6月18日配信記事 より(周東佑京の言葉)

周東=走塁のイメージを覆す、本人にとっても予想外の一撃は、その前年の悔しさから生まれたもの。2021年8月に故障で離脱し、翌月に右肩手術。今年(2022年)5月に1軍復帰したばかりで放った一打は、離脱中に肉体改造を試み、体重も10キロ近くアップした成果だった。

そして、この一打にはもう1つ力の源泉があった。6月3日に第1子となる長男が誕生したばかり。新しい家族に贈る記念の一打となった。

『家族が1人増えたことで、より頑張ろうと。自分だけじゃないなって思います。本当に子どものためにいっぱい稼がないと、って思います』

~『Full-Count』2022年6月19日配信記事 より(周東佑京の言葉)

■オリックス・バファローズ

日本シリーズで吉田正尚が放った劇的サヨナラアーチも忘れがたいが、ペナントレースから選べばこのサヨナラシーンではないだろうか。

『いや、もう、良くも悪くも、きょうは僕の日だなと、思って打席に立っていました』

~『スポニチアネックス』2022年9月19日配信記事 より(宗佑磨の言葉)

ソフトバンクに優勝マジックが灯るなかで迎えたパ・リーグ9月の天王山、ソフトバンク対オリックスの3連戦。オリックスが2連勝して迎えた3戦目、9月19日の試合後に『僕の日』と語ったのは宗佑磨だ。

4回には3失点につながる悪送球。9回にはバントミス。絶対に落とせない一戦でミスを連発しながら、チームメイトが挽回してくれて試合は延長へ。5対5で迎えた延長10回裏、オリックスは無死満塁のサヨナラのチャンスをつくるも、あと一本が出ずにツーアウトに。そんな場面で打席に立った宗が放ったのは、起死回生、汚名返上のサヨナラタイムリーだった。

この値千金の一打でオリックスは天王山3連勝。首位を走るソフトバンクとの差を「ゲーム差なし」として、その後の奇跡の逆転優勝へとつなげる足がかりとしたのだ。

◇ ◇ ◇

ドラマ性、希少性、エピソードも含めた観点で選んだつもりだが、奇しくも3球団がソフトバンク戦。一方、ソフトバンクは今季のサヨナラゲームが2試合。この差こそ、優勝マジックを「1」まで減らしながら栄光に届かなかった要因なのかも知れない。

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