外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が12月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2023年の中東情勢について解説した。
「中東の安定」が「日本の安全」にとって極めて重要なのだと再確認すべき
イスラエル国会は12月29日、右派政党リクードと極右・宗教政党が合意した新たな連立政権の信任投票を行い賛成多数で承認した。リクード党首のネタニヤフ氏が約1年半で首相に復帰し、対パレスチナ強硬路線で史上最も右寄りと評される新政権が発足している。
宮家)ネタニヤフ氏が最初に首相になったのが1990年代なかごろ(1996年)です。あのころ私はネタニヤフ氏を「極右」だと思っていました。それがだんだん「極右」から、「中道」にとは言わないけれども、今や穏健な「保守」なのです。さらなる「極右」が出てきたましたので。
これが出てきてしまうとネタニヤフ氏がまともに見えるだけではなくて、イスラエルの政治自体がやはり非常に強硬化していく。やはりひと昔前はパレスチナ問題が中東では大事だったわけですが、もうそういう時代ではなくなってしまった。アラブの国々ももう「いい加減しろ」「何をやっているのだ」というようになった。ハマスとPLO(パレスチナ解放機構)にパレスチナ側はわかれたまま、全然イスラエルとは交渉できないので。もうそれどころではなく、イランの脅威の方が大変だというのが湾岸地域のアラブの国々の認識ですよ。
だからアブラハム合意でイスラエルと関係を改善するとか、イランとの関係でも安全保障でお金を使ってそれで何とか現状を維持しようということなのでしょうが、イランはイランで核合意というのがありますよね。あれもせっかくうまくいったところを途中でトランプさんが(アメリカを離脱させた)。ただ、私自身は、あの合意はあまりいい合意だとは思わないのですが。いずれイランは核開発ができるようになっている合意なのだから。合意はあるけれど、だんだんイランに対する規制をなくしていって、8~10年経ったあとは自由になる。「自由になるのだったら結局同じではないか」「いや、少しでも遅らせた方がいい」などという議論をやっていたわけですね。
「だったらやめてしまえ」というトランプ氏のやり方がいいかといったら、私はそれもだめだと思います。1回合意したのなら、それはちゃんと守らなくてはいけないと思うのだけれども、もうだめです。「死に体」だとかいろいろと報じられているけれども、「死に体」というのは生きていた人がおかしくなると「死に体」になるのだけれども、もともと生まれた頃から本当に危なかったものが……ということだから、「死に体」どころか、私は「完全に終わっている」と思います。
飯田)バイデンさんが再生させよう、再構築しようとしましたが。
宮家)1回だめになったものを元に戻す、蘇生するというのは非常に難しいですよね。時代が流れていって、そして簡単にいえば、イランが核関連計画を全部やめない限りは元に戻らないとアメリカは言っているわけです。これに対し、イランは最初に制裁を解除しろと言っているのだから。両者はまったく噛み合っていないのですよ。
飯田)もう濃縮しているという話もあります。
宮家)そうです。これは20%が30%になり、40%になり、50%、60%、70%になったら危険水域ですよ。90%になれば「weapons-grade(=兵器の使用に十分な品質の)」といって核兵器が作れますから。私は前から言っていますが、「やるぞやるぞ」とイスラエルは言っていて、今回も国防大臣がそうおっしゃっているのですけれども、「やるぞやるぞ」と言っているときには攻撃なんてやらないです。喧嘩の際は「やるぞうやるぞ」と言っているときには殴らないのです。にこにこしているときに殴るというのが本当の喧嘩ですから、中東では。そうなると、いまイスラエルは攻撃はやらないと私は思う。
飯田)いまは。
宮家)もう10年以上前から言っているのだけれども、でも、もしイランのウランの濃縮度が7~8割になったら、9割になったらもうアウトだけれども、そうなったら、必ずイスラエルはやります。アメリカがやる気がないから。アメリカがやらなかったら絶対にイスラエルはやります。ですから、これはいつ起きてもおかしくありません。イランがウランの濃縮度を上げる気になれば、それは相当大きなことが起こりうるという意味では、非常に危険だと私は思っています。
飯田)イスラエルが周りの国に対してどういうかたちで……空からの攻撃を仕掛けるというのは、かつてイラクに対してありましたよね。
『トップガン マーヴェリック』のような攻撃を、イスラエルならやるかもしれない
宮家)やりましたね。私がちょうどイラクに赴任する前に。当時の原子炉は地上に出ていたやつだったから簡単だったのですよね。『トップガン マーヴェリック』、あれはすごい映画ですよ。アメリカ軍が何も挑発されていないのに山と山の間にある核施設を攻撃するという。あんなことやっていいのか、というようなすごい映画ですが、やってしまうわけです。映画のなかだけだから。現実のアメリカはやらないですが、イスラエルはやるかもしれないのですよ。今やイランの核施設はみんな地下にありますから。ただ、リアルにあれをやったらイランがあのまま終わるわけがないではないですか。戦闘機が空母に帰ってきて皆喜んでいたけれども、実際にはそれどころではなくて、本当にあんなことをやったらイランと大戦争になる。私はそう思いますけれども。
飯田)でもイスラエルにはそれだけの覚悟があるということですか。
宮家)もちろんそうです。イランが核を持ったときのイスラエルの脅威度というか懸念度は半端ではないですよ。絶対に認めないと思います。北朝鮮がそうではないですか。1回やったらもうとまらない。ですからイスラエルは必ずやると思います。
飯田)すでに2020~2021年辺りでイランの核の技術者の方が暗殺されたり、いろいろな工作も、実際はわかりませんが、やっているとされていますよね。
宮家)それ以上のことはわかりませんけれども。スタックスネットというのが昔ありましたよね。
飯田)コンピュータウイルス。
宮家)別にインターネットにつながっていなくても感染してしまったわけでしょう。
飯田)USBのなかに入れてみたいな話がありました。
宮家)それでイランの核開発計画は数年遅れたと言われているのだけれども、最近はまた盛り返してきている。報道によると最近はテヘランの郊外でイランの科学者が乗った自動車が爆破されるとか。そんなことを平気でやるわけだから。もし、本当にやっているのだとしたら、その最後の手段は「直接攻撃」ですよ。イランもそこはよく考えた方がいいと思うのだけれど。イラン側は北朝鮮が持っていてなぜ自分たちが持てないのかと思っているかもしれない。
飯田)北朝鮮からそういった技術が移転されているといったことはあるのですか。
宮家)可能性はあるでしょうね。イランはミサイルの方は進んでいたけれども、核弾頭についてはだめだったのですよね。北朝鮮は核弾頭の方が進んでいて、ミサイルも最近は追いついてきたから。十分両者のそういった相互協力関係はあり得ると思いますよ。もう少し我々はそこに関心を持つべきだと思うのです。中国を抑止しようとしても、中東で何かあったら、アメリカ軍はそちらにつきっきりになって、張り付いてしまうからです。そうしたら、もしインド太平洋地域で何かあったときに米軍の援軍は来るのかということになる。そういう連携が両者であり得るわけですから。それを考えると中東の安定というのは、日本の安全にとって極めて重要なのだということを再確認した方がいいと私は常に思っております。
飯田)エネルギーだけの話ではないわけですね。
宮家)だけではないですよ。エネルギーはもちろんそうですが。何かあったときに9割の日本向け原油が一瞬にしてとまるのですよ。
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