元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が1月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理の現状と今後について解説した。
総理官邸の玄関ホールに広島サミットに向けたカウントダウンボードを設置
岸田総理大臣は1月5日に総理官邸で、5月19日から広島市で開催される先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)のカウントダウンボードの点灯式に臨んだ。岸田総理は「G7各国の首脳と胸襟を開いて、未来に向けて明確なビジョンやメッセージを発する貴重な機会を設けたい」と抱負を述べた。
飯田)支持率が思わしくないので、「別の意味でのカウントダウンではないか」というブラックな意見もあるようですが。
松井)新年早々ですけれど、少しピリッとしないですよね。
ようやくセットされた日米首脳会談 ~決定の遅さに「相手にされているのか」という批判が自民党内からも
飯田)G7に向けて、ウクライナ側は「岸田さんにも1度来ていただきたい。ゼレンスキー氏と会ってもらいたい」というメッセージも出されているようです。日本の役割が問われる年ですね。
松井)しかし、いまウクライナへ行って、日本の経済情勢で財政支援ができるのかどうか。もちろん武器などは支援できませんし、難しいところです。
飯田)そうですね。
松井)いまやG7の議長国の総理大臣であり、ここまで日米同盟のために増税も含めて国内で調整に汗をかいているにも関わらず、なかなか決まらなかった。ようやく1月13日に日米首脳会談がセットされましたが、「本当に相手にされているのか」という批判が自民党の方からも出ています。
本来であれば自民党総裁選の再選に向けて体制を整えているはずだった岸田総理 ~「広島サミット花道論」も
松井)野党がそういう意見を言うのはよくあることですが、自民党の内部からそういう話が出ているのです。「黄金の3年間」と言いながら、もう半年ほど経ってしまいました。本来であれば、再選シナリオに向けて着々と体制を整えているはずだったのです……昨年(2022年)の参議院選挙の前には、そういうことをおっしゃっている自民党の方もいました。「参議院選挙が終わったら再選シナリオなのだ」と。自民党総裁選挙という意味ですね。
飯田)自民党総裁再選に向けて。
松井)しかし、そういう空気ではなくなっています。「広島サミット花道論」などと言われていますよね。
飯田)言われていますね。
松井)あるいは増税の時期が明示されなかったので、自民党内では半ば公然と、「岸田さんが実際の増税のタイミングで総理大臣にいなければいいのだろう」などと言う方もいます。私たちにもそういうことをおっしゃる。
軽々と党内の意思決定を変えてしまう ~「被害者救済法」の決定
松井)それが多数とは言いませんが、そういう方もいなくはない。そんな状況のなかで、やや軽量という感じが否めません。岸田さんの特徴として、軽量の割には強引に物事を決めるのです。
飯田)強引に。
松井)それは従来の慣行を破る、ある意味「果断なリーダーシップ」とも言えます。しかし、東大名誉教授の御厨貴さんがおっしゃっていましたが、党内プロセスを深刻な表情はせずに、軽々と党内の意思決定を変えてしまう。例の被害者救済法がありますよね。
飯田)旧統一教会の問題をめぐり、昨日(1月5日)に施行されました。
松井)被害者救済法についてもそうですが、これは茂木さんの1つの功績と言えば功績だと思います。与党事前審査もありますが、野党も含めた事前審査を行って決定した。
飯田)そうでした。
松井)本来なら岸田さんのリーダーシップで進められればいいのですが、どうも追い込まれ感があって、最後に「ヒョイ」とやってしまう。
安倍氏・菅氏と比べ、凄みがなく怖くない ~人の話は聞いてくれるが
松井)官僚たちから見れば、岸田さんは言うことを聞いてくれるのでしょう。安倍さんや菅さんのような凄みがないので怖くない。
飯田)怖くない。
松井)「安倍氏・菅氏は忖度政治を招いた」と野党の方は言うけれど、やはり安倍政権・菅政権は官僚から見ると怖いのです。「我々の分際で政治に逆らうと大変なことになる」と思われていた。そういう意味では岸田さんは、割と官僚からは信頼されていると思います。
官僚から足元を見られているのではないか ~小渕元総理に似ているところも
松井)一方で、悪く言う人からすれば「官僚に足元を見られているのではないか」という見方もあります。確かに私たちが平成の統治機構改革や内閣主導を進めてきて、少し負の側面もあったのではないかと。安倍さんや菅さんの時代は。
飯田)負の側面。
松井)私たちもそういう体制をつくってきた立場の人間です。1996年~2000年ぐらいにかけての橋本政権があり、それから橋本さんが下野して小渕政権、森政権になった。そして21世紀に新しい体制ができました。官邸主導・内閣主導ができて、その後は小泉さんが出てきたり、安倍さんの長期政権があって強化されてきた。内閣主導が強化された平成後半の20年ぐらいの歴史から見ても、岸田さんはよくわからないのですよ。よく言えば小渕さんに似ています。
飯田)なるほど。
松井)小渕さんは亡くなってしまいましたが、要するに人(の意見)を聞こうとされた。
飯田)ブッチホンなどと言いましたね。
松井)非常にマメに電話されて、ある種の信頼関係がありました。小渕さんの場合は沖縄でサミットを行いました。
飯田)そうでしたね。
松井)でも、岸田さんは地元の広島です。悪いことではないですけれどね。
安倍氏・菅氏のような「総理としてのリーダーシップ」が見えない
飯田)自民党内で岸田総理のことを聞くと、「人の話を聞くようであまり聞かない。最後の決断のときはドンとやってしまう」という話もあります。
松井)柔らかい印象を与えるのですが、増税判断でも最後のプロセスは少し乱暴なところがありましたよね。
飯田)最後のところでは。
松井)側近の方々や財務省の役所の方に話を聞くと、「それも全部含めてわかっているのだ」と言うのですが。
飯田)そこも含めて理解していると。
松井)安倍さんや菅さんのときは、「いろいろと批判はあるかも知れないけれど、こうやるのだ」という総理の強い意向が官邸側から滲み出ていた。周りが顔色を見てしまうという悪い面もあるけれど、そこに総理のリーダーシップがありました。
安倍・菅元総理は方向性がはっきりと出てわかりやすかった
松井)岸田さんの場合は、それが本当に岸田さんのリーダーシップなのかどうか。例えば増税判断でも、安倍政権・菅政権で食い込めていなかった財務省が復権しています。財務省の言っていることにも正論はあると思いますが、財務省に流されている感じがするのです。最後はご自身の政治的な信念で決められるのなら、それは判断の1つですし、「ずっと借金だけでは難しい」というのもわかるのですが、どうも主導性が見えない。
飯田)菅さんや安倍さんのときは、「こうやるのだ」という姿勢がわかりやすかった。ところが岸田政権になると、まず新聞からリークの記事が出てきて、「どうやらこういう方向に行くようだ」とわかり、党内で何となくそういうことを言い出すベテランの人たちが出る。そういう流れが何となくできたところで総理が指示する。そこから「スパッ」とは決まっていきません。
決め方で台無しになっている ~財務省側の意見で辻褄を合わせているように見えてしまう
松井)反町理さんがツイッターで書かれているでしょう?
飯田)プライムニュースの。
松井)「本来決めていることが正しくないわけではないかも知れないけれど、決め方で台無しになってしまわないか」と、反町さんがツイッターで「今年の注目点」としておっしゃっていました。
飯田)今年の注目点として。
松井)本来、彼が政治信念を持って、官僚たちに日々「自分はこう思うのだ」ということを言っていればいいのですが、そうではない。増税も含めてある種、財務省に流されているのではないかと見られてしまいます。財務省は財務省として、税金を上げて国を立て直すのは彼らの仕事ですから、そうするのは当然なのです。
飯田)財務省設置法に書かれていますからね。
松井)彼らの任務です。彼らは自分の仕事に務めているのだけれど、岸田総理はもう1段高いところから、経済成長をどうするのか、経済社会や国民の不安をどうするのかを決めるべきです。そういう感じは安倍政権や菅政権など、以前の政権ではあったのだけれど、どちらかというと、財務省側の意見で辻褄を合わせているように見えてしまう。
飯田)財務省の意見で。
松井)国防費の問題にしても、自衛隊を何に使うかという議論も少し前に出ていました。インフラ防御にという。そういうことをずっと議論している人が「自衛隊諸君にも」と言うならいいのですが、唐突にそれが出てくると「結局、防衛費が増えることのエクスキューズで、あとからつけているのではないか」と思ってしまう。
飯田)防衛費を増やすために。
松井)もっと言うと「増税の1つのエクスキューズとして、こういうことを議論しているのではないか」と思ってしまうのです。岸田さんはそこまでの財政規律派ではないと思いますが、そういう憶測が出てきてしまう。
総理自身のビジョンがないために「財務省に振り回されているのではないか」という憶測が出る
松井)この10年間でどのように経済を立て直し、財政規律もある程度守るのかというビジョンがありません。
飯田)全体のプランのようなものがない。
松井)だから「財務省に振り回されているのではないか」というような憶測が出てくるのです。
飯田)財務省の言いなりではないかと。
松井)岸田さんは自民党総裁としても再選の意欲があるし、かなり権力欲が強いと言います。「あの人は意外としがみつくよ」と言う声もあります。だから次のリーダーをつくらせないのです。本来なら林芳正さんなどは自分より年少で同じ派閥であり、安定的な人なのだから、彼をもう少し上手に使えばいいのに、しないではないですか。
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