萩生田政調会長はなぜ「60年償還ルール」の見直しに言及するのか
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ジャーナリストの須田慎一郎が1月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。60年償還ルールの見直しについて解説した。
「60年償還ルール」の見直しに財務省が警戒
飯田)防衛費の財源についてですが、1月16日の産経新聞の1面トップは、
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『防衛増税「説明を徹底」 首相歴訪終了 G7協調 サミットに意欲』
~『産経新聞』2023年1月16日掲載記事 より
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飯田)……という見出しです。既に増税は決まっているのだ、というような感じにもなっています。
須田)ただ、官邸や財務省は強い危機感を持っているのだろうと思います。
飯田)危機感を持っている?
須田)朝日新聞が1月11日に、いわゆる60年償還ルールの見直しについて、かなり大きく記事を掲載したのです。「朝日新聞が書いたのか」と驚きました。この件についてはいままで、ほとんどの既存メディアが無視を決め込んでいました。この議論が進むと、財務省サイドの増税路線が否定されかねないことにもなります。あの記事は、実は財務省寄りの経済部ではなく、政治部主導で書いたものです。
飯田)そうなのですか。
須田)一方で日経新聞などは、「60年償還ルールについては絶対に書かない」というスタンスを取っています。そのような問題が出てきたため、非常に強い危機感を持っていて、首相が国会で説明するとか、これは財務省が言い出したのではなく、もともとは防衛省が言っている話なのだ、という言い訳をし始めています。「相当揺れているな」という感じがします。
「60年償還ルール」があるのは先進国のなかで日本だけ ~萩生田政調会長などが国債の60年償還ルールの見直しに言及
飯田)萩生田政調会長などが、国債の60年償還ルールの見直しに言及してきました。もともと国債は利払いだけではなく、国債費という名目で歳出に乗っているのですよね?
須田)そうですね。国債の元本は60年で償還する、つまり60年後に償還するという不思議なルールが、なぜか日本にはあるのです。償還するためのお金を毎年、国債費という形で歳出のなかに積んでいます。それが年間約16兆円あります。
飯田)年間16兆円。
須田)ただ、「60年償還ルール」のようなものがある国は、先進国のなかでも日本だけなのです。
飯田)日本だけ。
須田)普通の国は、償還がくると「借換債」を発行してつないでいくのが一般的です。経済が成長して、税収が増えたときに償還していくのが一般的な考え方です。
見直せば年間、約16兆円が出てくる ~増税しなくても防衛費に充てられる
須田)日本でも60年償還ルールの見直しが、何年も前から言われていました。その度に財務省が葬ってきたという経緯があります。「それを見直せば約16兆円のお金が出てくるではないか」という議論になっているのです。60年償還ルールの見直しは、「防衛予算をめぐって増税する必要がない」という議論とリンクしてくる話なのです。
飯田)本来は積まなくてもいいものが積まれているではないかと。「だったら使ってくれよ」と思いますよね。
60年償還ルールの見直しの議論が起こらないようメディアをコントロールしてきた財務省
須田)財務省はなるべくこのような議論が出てこないように、一生懸命メディアをコントロールし、報道させないようにしてきました。ですので、先日の朝日新聞の報道には驚きました。
飯田)そして、それは経済部が書いた記事ではなく、政治部が書いた記事だった。
須田)そこに大きな意味があるのだろうと思います。1月23日から始まる通常国会で、いわゆる財源確保法についても議論されます。防衛予算をどのように増やしていくのか、その点についての財源を確定させる。財源確保法は剰余金や歳出カットなど、増税以外のところについて、きちんと法律で規定しようというものですが、それを今通常国会で成立させようという話になっているのです。
防衛費の財源確保法をめぐる議論が今国会の大きなテーマ ~警戒する財務省と官邸サイド
須田)中身次第で確定させてしまうと、オートマティックに増税が決まってしまうので、財源確保法をめぐる議論が1つの主戦場になってきているのです。議院内閣制ですから、自民党のなかでしっかり議論していく。その責任者が萩生田政調会長なのです。
飯田)その萩生田さんが60年償還ルールの見直しを言ってきたというのは、相当大きいわけですね?
須田)そこを見直せば財源は確保できるわけで、増税しなくても十分賄えてしまうではないかと。たかだか1兆円のお金は、右から左へすぐに出ていくだろう、というようなメッセージになってしまうのです。
飯田)見直せば。
須田)ですので、財務省はものすごく警戒感を持っています。財務省の影響下にある官邸も、そうであれば岸田さんが出て、きちんと増税に対する理解を深めていこうではないかと。それは「60年償還ルールの見直し」が出てきたことに対する対抗措置なのです。
「岸田政権は長くない」とみている財務省
飯田)財源確保法では歳出カットなどを工夫し、それでも賄えないところはやはり増税で、と書き込まれてしまいますよね。昔、3党合意で消費税を上げるときに、「法律で決まっているから2014年4月には上げるのです」ということが既定路線で行われたのと同じような気がします。
須田)民主党の野田政権時代と同じことをやっているのです。野田政権のときに、財務省は「この政権は長くないな」とみた。そこでいろいろなことを盛り込んでしまったのです。
飯田)法律で縛っておけば、政権が変わったとしても実施されるという。
須田)同様に「岸田政権は長くないな」と、おそらく財務省は思っているはずです。
飯田)しかし、岸田さんはそうは思っていませんよね?
須田)思っていません。そこが岸田さんのおめでたいところなのです。
財務省に逆らえない岸田政権 ~増税を決める前に国民に信を問うべき
飯田)そんなことをされたら薄々感じたり、「自分は財務省の言いなりにはならないぞ」と思わないのでしょうか?
須田)政権誕生の経緯や、いまの官邸を取り巻く人脈を考えると、岸田政権は財務省の全面協力のもとにできた政権です。それに逆らうということは、むしろ岸田政権の寿命を縮めてしまうことになるのです。
飯田)国民からすれば、増税に加えて賃上げもどうなるかわからないし、物価も高くなる。苦しいことばかりですよね?
須田)増税を決めるのであれば、「その前に国民に信を問う」のが正しい判断だと思います。
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