バイデン政権誕生から2年 アメリカ政治の「いま」
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が1月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アメリカ政治の現在について解説した。
バイデン政権誕生から2年
アメリカのバイデン大統領は1月20日に就任2年を迎え、任期の折り返しに入ったが、機密文書の問題や息子のハンター氏による脱税問題など、さまざまな問題を抱えているとされる。
飯田)中間選挙もあり、議会は新しい陣容で始まるところですが。
宮家)短期的なことを外交評論家的に言うと、民主党も共和党もどちらも変わった人たちが出てきてしまって、アメリカは2大政党ではなく、今や4大政党になっている。要するに少数派のまともな民主党と、まともでない民主党と、これも少数派ですがまともな共和党と、まともでない共和党になってしまったという話です。
冷戦の時代、保守グループが結束して強いアメリカができた
宮家)もう少し中長期的な話をすると、アメリカの保守・リベラルの歴史は長いのですが、公民権運動の辺りから考えてみましょう。一方でアフリカ系アメリカ人を含む、いろいろな差別の問題がアメリカ国内にはありますから、それを何とか正そうというグループがいます。
飯田)アメリカ国内にある差別を。
宮家)そのなかに民主党のリベラルがいるわけだけれど、保守はどうしていたかと言うと、そもそもアメリカの保守は、もちろん宗教保守もいる。反共保守もいて、反国連保守などや、倫理的な保守もいます。保守グループはたくさんいるのです。それらは冷戦の間、一束に結束していました。
飯田)冷戦の間は。
宮家)最も典型的な例がレーガン共和党のときです。非常に強いアメリカができた。もともとは民主党にいた保守の人たちが共和党に入っていき、アメリカ版の保守合同が起きて、冷戦に勝った。それが80年代なのですよ。
冷戦時代までの共和党 ~合理的で慎重な保守主義、一方では小さな政府、慎重な外交政策
宮家)ところが冷戦に勝つということは、敵がいなくなるということです。敵がいなくなると、保守は結束しなくなります。
飯田)なるほど。
宮家)結束がバラバラになる過程が90年代以降に起きて、いろいろなグループが今度は保守のなかで主導権を握ろうとした。ネオコンやティーパーティー運動などもありました。それが徐々にバラバラになり、弱体化していったのです。
飯田)敵がいなくなったことで。
宮家)ソ連と戦うときに核戦争が起きたら大変だから、核戦争を起こさないためにどうするかを考えると、外交政策も慎重にならざるを得ない。だからレーガン政権までは非常に合理的な、しかし慎重な保守主義だった。一方では国際主義であり、小さな政府、慎重な外交政策。これが共和党の主流だったわけです。
初のアフリカ系大統領となった民主党・オバマ氏 ~ブルーカラーの白人は反発
宮家)これに対して民主党は、公民権運動のあと、徐々にしっかりと政権を獲っていった。ケネディ時代もありました。そしてウォーターゲート事件で共和党がこけたら、今度はカーターさんが大統領になる。しかし、それもこけて、クリントンさんになっていくわけだけれども、クリントンさん以降でいちばん大きい事件はオバマさんですね。
飯田)オバマ元大統領。
宮家)アフリカ系とは言っても、ハワイにいたアフリカ系の人ですから、必ずしも本土の奴隷制の歴史を背負った人と同じではないけれど、彼が(アフリカ系で)初めてアメリカの大統領になったのは、ある意味では起こるべくして起きたことです。それ自体はいいのですが、それに対して、当時辺りからアメリカの白人人口が過半数を割りつつあることが明らかになっていくわけです。
オバマ氏に反発したブルーカラーの白人票を集めて大統領になったトランプ氏
宮家)その落ちこぼれた白人男性……ブルーカラーで低学歴の人たちからすれば、「オバマが大統領になってけしからん。俺たち白人がこのアメリカをつくってきたのに、なぜ少数派の連中が偉そうな顔をするのだ」と思ったかも知れない。
飯田)ブルーカラーの白人たちが。
宮家)それが、私がよく言う「ダークサイドの逆襲」です。ナショナリスティックでポピュリスティックな、不健全なグループですよ。その票を集めたのがトランプさんだった。私に言わせれば、トランプさんが出てきたことと、オバマさんが出てきたことは、実は表裏一体なのです。
分裂気味の共和党・民主党 ~敵がいないからこそ、分断する余裕があるとも言える
宮家)その結果、共和党の方からすれば反オバマで動いたトランプさんが共和党を乗っ取ってしまった。他方、民主党でもリベラルの人たちが強くなってきて、言いたい放題言うようになり、これも残念ながら分裂気味です。
飯田)共和党も民主党も。
宮家)全体の流れとしては、あまりいい方向に動いていない。逆に敵がいないからこそ分断する余裕があると言ってもいいのかも知れません。もともとアメリカは分断の国ですから。そういう意味で、歴史的な流れを見ていると、いまの状況がアメリカの民主主義の歴史のなかでいい方向に動いているとは、必ずしも思いません。
飯田)なるほど。
宮家)これをどうするかは、次の課題だろうと思います。
政治的にアクティブで活動が活発な人たちが偏った候補者を選んでしまう
飯田)敵がいないことで内部分裂し、ある意味の内ゲバ的なことになると、純粋さを求めるというか、極端になっていく。
宮家)そうです。純粋さを求める。しかも民主党も共和党も同じですが、アメリカには予備選挙という制度があります。
飯田)ありますね。
宮家)予備選挙の欠陥は、導入されたときから言われているけれど、要するに予備選挙の投票率が低いので、結局は圧力団体やトランプ主義者など、政治的にアクティブ、すなわち活動が活発な人たちが「ワーッ」と集まり、偏った候補者を選んでしまう。
予備選では勝てるが、本選では勝てない ~2大政党が4大政党になってしまった
宮家)そうすると「予備選では勝てるが、本選では勝てない」という事態が起こります。それは残念ながら共和・民主両党で起きていて、まともな政党とまともでない政党、2大政党が4大政党になってしまったのだと思います。
飯田)それがこの先どうなっていくのか。
バイデン大統領が就任してからの2年間 ~民主党なりに結束していい仕事をしている
宮家)バイデンさんは、冷戦を知っている最後の民主党の大統領ではないでしょうか。正当でありオーソドックスです。必ずしも取り柄がなかったので、それまでは大統領になれなかったのだけれど、トランプさんが出てきて「これはダメだ。やはり勝てるのはバイデンさんだ」という形で、うまく民主党をまとまりました。バーニー・サンダースさんなど、いろいろな人がいましたからね。
飯田)バイデンさんにまとまった。
宮家)いろいろなことを言う人がいますが、それでもバイデンさんはいい仕事をしていると思います。彼はともかくとして、周りにいる人たちはベテランが多いし、民主党なりに結束した陣容ができて2年が経った。支持率はそれほど上がっているわけではないけれど、決して危ないわけでもありません。
次期大統領選 ~民主党も共和党も確かな後継者がいない
宮家)問題は、いまは左派が黙っていますが当然、巻き返そうとする。バイデンさんは党内でかなり苦労しているのではないでしょうか。いまは政権を持っているからいいのです。中間選挙では上院の多数は維持できました。でも、民主党の下院の方はダメだったでしょう?
飯田)下院は共和党が過半数の議席を獲りました。
宮家)下院の共和党はバイデンさんを相当叩きますよ。おそらく弾劾も含めて攻めてくると思います。それはすべて2024年の大統領選のためです。2024年にトランプさんが出てくるかどうかはわからないのですが。バイデンさん本人はやるともやらないとも言っていないけれど、やる気満々だという話もあります。バイデンさんが出たとして「大丈夫か?」とも思います。
飯田)高齢ということもありますし。
宮家)何よりも民主党にとって大事なことは、「後継者をつくってこなかった」もしくは「後継者がいないこと」なのですよ。残念ながら。
飯田)後継者を。
宮家)いまは大統領選挙の1年以上前ですから、そんなときに後継者が出てくるわけはないので、もう少し様子を見なければなりません。
トランプ氏がいなくなっても新たな「トランプ主義者」は現れる ~ずる賢いトランプ主義者が出てくればアメリカは混乱する
宮家)問題は共和党の方なのですが、下院議長が15回も投票してやっとマッカーシーさんになりました。これ自体、民主党と同じように強硬な保守派というか、トランプ主義者が暴れている。しかし、仮に共和党にトランプさんがいなくなっても、トランプ主義者による共和党の乗っ取りは続くような気がします。
飯田)トランプさんがいなくなっても。
宮家)トランプさんがいなくなったら終わるわけではないと思います。トランプさんよりももっと強硬で、しかも政治家としてずる賢いトランプ主義者が出てきたら、アメリカはおかしくなるでしょう。トランプさんはいい意味で素人でした。その意味では、2024年に向けて共和党内がどうなっていくのか、非常に心配しています。
飯田)いまはフロリダのデサンティスさんとも言われていますが。
宮家)そうですね。でもまだ全国区にはならないですね。大体見えてくるのは選挙の年の一年前のレイバー・デー明け、夏休みが明けた9月くらいから本格的に物事が動き始めるので、いまの段階ではまだ星雲状態だと思いますよ。
変わりつつあるアメリカ政治
飯田)議会の運びなどは、日本などの同盟国にどう影響するか。
宮家)そもそもアメリカでは法律ができないと思いますよ。予算だって必死ですからね。いつも政府は破産になってしまうから。
飯田)債務上限を引き上げるなど。
宮家)債務上限を超えてしまって、会社なら倒産ですよね。それを回避するために必死になるような状況が、おそらく今後も続くのではないでしょうか。
飯田)かつてティーパーティーが全盛だった時代がありました。
宮家)昔は「小さな政府」と言っていたのだけれど、いまは「小さな政府」と言う人はいなくなってしまいましたね。そういう意味では、アメリカ政治も若干変わりつつある気がして、むしろ危惧しています。
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