「偵察気球」の背景にある「中国国内の不統一」

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が2月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米海軍によって撃墜された中国の偵察気球について解説した。

「偵察気球」の背景にある「中国国内の不統一」

米本土上空を飛行する中国の偵察気球(米西部モンタナ州)=2023年2月1日 AFP=時事 写真提供:時事通信

偵察気球は中国軍による運用か

米本土上空を飛行し米軍が撃墜した中国の偵察気球は、中国軍内で宇宙やサイバー戦を担当する戦略支援部隊が管轄し、運用に関わっていたことがわかったと共同通信が伝えた。複数の中国筋が明らかにしたもので、中国軍は気球の米本土侵入を中国の外務省にも報告しておらず、最高指導部は部門間の意思疎通の改善を指示した。

飯田)中国は民間の気象研究用飛行船だと主張しています。

意図的にブリンケン国務長官訪中のタイミングに合わせた

宮家)いくつか疑問があるのですよね。まず、「情報収集のため」と米国は言っていますが、いまはかなりのものが衛星で見られるではないですか。

飯田)そうですね。

宮家)電波を取ることも決して難しくはないと思うので、なぜあんな気球をこのようなタイミングでアメリカに出したのか。アメリカのブリンケン国務長官が中国に行くことはわかっていたわけですからね。

飯田)その直前になぜ。

宮家)仮に、内モンゴル辺りから打ち上げたとしても、2週間くらい前でしょう。それで1週間くらい前になったら、アラスカからカナダの方へ行くわけです。中国の言う通り、迷ってしまったのでしょうか。迷ったにしては立派なルートを飛んでいるではないですか。

飯田)そうですね。

宮家)核ミサイル基地の上を飛んだりして。つまり、情報収集としてはどうかと思いますが、タイミングは意図的だとしか思えない。

気球を撃ち落とされても中国が報復しないのは、国内で意見が割れているため

宮家)さらに中国側は、報復を匂わせるようなことを言ったではないですか。

飯田)撃墜されたら。

宮家)必要な措置をさらに取るなどと。でも、そのような措置は取っていないし、取れるわけがないのです。

飯田)取れるわけがない。

宮家)百歩譲って、それが間違って飛んで行ったとしても、軍が管理している気球であることは間違いないわけです。しかも、大型バス3台分くらいの大きな機材をぶら下げている。見事に撃墜されましたが、それを回収して調べれば、軍事用であることが明らかになると思います。

中国外交部は偵察気球のことを知らされていなかった ~中国経済を立て直すために米中関係を改善したい経済関係者

宮家)では、なぜ報復しないのかを考えると、やはり中国国内が割れているためではないかと思っています。まず、中国外交部(外務省)が、気球のことを知っていたはずはないのです。

飯田)知っていたはずがない。

宮家)絶対に知らされていないと思います。もし人民解放軍がそれを管理しているのであれば、言うわけがないですよね。しかも、米軍と人民解放軍が対話しようとしても、中国側が拒否しているわけです。しかし、経済の方はどうかと言うと、イエレン財務長官が行きたいと言っていますが、それについては中国側から強い反発はない。

軍、外交関係者、経済関係者で割れる中国国内 ~意見が割れている可能性も

宮家)そう考えると、中国内に軍や外交関係者や経済関係者など、さまざまな考えを持つ人がいると思うのです。例えば、軍はおそらく「アメリカはけしからん」と思っているでしょう。しかし経済関係者は、これ以上中国が孤立して経済をおかしくしたくはないから、何とか改善したい気持ちがあるのではないかと、私は推測しています。

飯田)経済関係者は。

宮家)一方、外交部の方は、何も知らされていないわけです。彼らには基本的に中国の外交政策を立案する権限がなく、実施する権限しかありませんから。そう考えると、中国内部でいろいろな議論があるのではないか、あるいは意見が割れているのではないか、という印象を持ちました。まあ、いつものことですが・・・

飯田)強権国家で、しかもいまは習近平氏というトップがいるから、1つにまとまっているように思えますがね。

宮家)15億人もいるのですから、まとまるわけがないのです。

飯田)なるほど。

宮家)中国に住んだ経験から言うと、中国国内には派閥がたくさんあります。さまざまな意見の人がいて、それをうまくまとめきれないところが、難しいのだろうなと思いますね。

「偵察気球」の背景にある「中国国内の不統一」

第20回中国共産党大会の閉幕式で、退席する胡錦濤前総書記(中央)。左端は習近平総書記=2022年10月22日、北京の人民大会堂(共同)

アメリカ滞在中に中国の偵察気球「撃墜」

飯田)中国の偵察気球について、宮家さんは産経新聞の連載コラム「宮家邦彦のWorld Watch」でも取り上げていました。

宮家)この時期、たまたまアメリカに出張していたのです。アメリカ連邦航空局が飛行禁止を出したというので、「どうしたのだろう」とテレビを観ていると、気球が飛んでいるではないですか。ノースカロライナ沖に出るところだったのですが、当時はその地域を飛行禁止にして、撃ち落とす直前だったわけです。

飯田)気球を撃墜する直前だった。

宮家)その1時間後に「撃墜」という報道があって、すぐにスマートフォンで撮った画像がテレビで流れました。日本ではあまり反応がなかったのですが、アメリカでは大騒ぎになっていました。

なぜ中国は気球を飛ばしたのか

宮家)私はそこで、「なぜ中国は気球を飛ばしたのか」と考えたのです。「中国国内も割れている」というのが私の仮説です。中国は秘密主義ですから、専門家でも本当のことはわかりません。

飯田)本当のところは。

宮家)しかし、専門家として「わからない」とは言えませんから、私もそうですが、みんなわかったふりをせざるを得ないのですよ。そうは言っても、「どうもおかしい」という疑問はいくつかありました。

中国がアメリカをテストしているのか ~テストする割には中国国内がバラバラである

宮家)よく言われますが、「中国がアメリカをテストしているのだ」という意見があります。

飯田)アメリカをテストしている。

宮家)しかしテストする割には、習近平さん以下、外交部も国防軍も一枚岩になってテストしているとはとても思えない。先ほども言いましたが国内は実はバラバラですし、習近平さんも気球の件は知らされていなかったと思います。

国内に意見の違いがあるのではないか

宮家)こんなことは、よくあることですから。いくらアメリカの意図をテストすると言っても、気球があんなところを飛んでいれば、アメリカは撃つに決まっているではないですか。

飯田)領空侵犯ですからね。

宮家)しかもあの気球は太陽電池まで積んでいる。10年前ならわかりませんが、いまの米中関係を考えたら、それは撃ち落としますよ。誰も「撃ち落とすな」などとは言いません。共和党などは「もっと早く撃ち落とせ」と言っていたのですから。

飯田)そうですよね。

宮家)それをテストと言うのは変だなと思います。ということは国内に混乱がある、もしくは意見の違いがあるのではないか、と私なら思うわけです。

1930年代の日本に似ているいまの中国 ~アメリカとの外交レベルでの協議がなくなっても構わないとみる軍部

宮家)ここからは正直に言って、私もわかりません。さまざまな穿った見方はできるのです。ですからこれから申し上げることが、果たして本当に正しいかどうかは自信がありません。でもあえてコラムに書いたのは、戦前の日本のことを考えたからです。私はいつも言うのですが、2020年代の中国は1930年代の日本と同じです。当時の日本でも、日米関係がよくなるような外交当局間の協議はあったのでしょうが、軍の一部の人たちはそういう動きを「けしからん」と思ったに違いないのです。

飯田)軍関係者は。

宮家)もし、当時の日米関係と似たようなことがいま起きているとしたら、見え見えの気球を送ることで中国がアメリカをテストしたというよは、軍の一部が忖度して、米中の外交レベルの協議がなくなったとしても、「別にいいではないか」と。

飯田)けっこうなことだと。

宮家)そういう嫌な動きがあるのではないかと、1つの仮説を立てているのです。

飯田)1つの仮設を。

宮家)これも証明はされていないのですが、インドとの関係でも、昔、似たようなことがあったと言われているのです。

さまざまな考え方の人たちがそれぞれの思惑で「勝手に動いている」状況の中国

宮家)習近平さんが全部独裁で進めているように見えても、中国国内にはさまざまな思惑で動いている人たちがいる。習近平さんの寵愛を得ようと思ってアメリカに厳しくしているかも知れないし、アメリカとの関係がよくなり過ぎることを嫌がっている人たちがいるのかも知れない。いずれにせよ、さまざまな意見の人たちがいて、ある程度「勝手に動いている状況がいまも続いている」と見るべきだと思います。

飯田)その上、当時と違うのは核を持っていますものね。

宮家)そういうことです。しかも中国は巨大で、人口は日本のざっくり10倍ですから。アメリカにとって、決して小さな脅威ではないと思います。

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