日銀新総裁に起用される植田和男氏とは「どういう人物」なのか 後輩である高橋洋一氏が解説

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数量政策学者の高橋洋一と防衛省防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が2月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日銀の新総裁に起用される植田和男氏について解説した。

日銀新総裁に起用される植田和男氏とは「どういう人物」なのか 後輩である高橋洋一氏が解説

第1回「構造変化と日本経済」専門調査会の植田和男会長=2008年2月26日午後6時30分、東京・霞が関 写真提供:産経新聞社

日銀総裁人事、国会提示へ

政府は2月14日、日銀の黒田総裁の後任に元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する人事案を国会に提示した。

飯田)副総裁については、前金融庁長官の氷見野良三氏と、日銀理事の内田眞一氏を起用する方針だと言われています。雨宮副総裁の名前が1週間ほど前に挙がり、急転直下、10日に植田さんの名前が報じられた形になりましたが、この人事をどうご覧になりますか?

日銀の独立性 ~「手段の独立」と「目的の独立」

高橋洋)いろいろとコメントを求められるのですが、はっきり言えば、日銀は政府の子会社ですから。「子会社の人事がそれほど重要か?」と言って、「これでは記事にならない」ということにわざとさせているのだけれど。

飯田)わざとさせている。

高橋洋)親会社の社長が重要なので、子会社の社長は、その意に沿う人が務めるのが基本です。だから日銀総裁を選ぶときは、「親会社の方針を理解していて、それを執行できる人」という基準しかないのです。

飯田)かなり驚く発言にも聞こえますが、かつて黒田総裁になるかならないかの時代に「日銀の独立性」という話があり、「手段の独立」と「目的の独立」という議論がありました。

高橋洋)そうですね。

日銀は日々のオペレーションについては政府の指示を受けない ~政府の意に沿う

飯田)「目的の独立」の方は、政府と一体にならなければいけないというニュアンスですか?

高橋洋)こういうものは安倍さんの回顧録にも書いてあるので、皆さんお読みください。総理も理解しているのですから。手段の独立性とはどういう意味かと言うと、子会社が「日々のオペレーションについては親会社の指示を受けない」という意味です。

飯田)箸の上げ下げまでは指示しない。

高橋洋)毎日そうするのが面倒くさいから、子会社の社長を務めているのでしょう? そういうことです。

高橋洋一氏の先輩でもある植田日銀新総裁 ~「社会語」が話せるリアリスト

高橋洋)人となりを言うのであれば、植田さんは東大の数学科を出ている、私の先輩です。それから経済学部に学士入学しているので、私とまったく同じです。

飯田)なるほど。

高橋洋)数学をやっていて、学士入学することがどういうことかと言うと、数学は世界の天才と過去の天才を相手にしなければいけないわけです。そこに「限界がある」と思うと、他に変わるのです。私もそうでしたが。そういう意味で、植田さんはリアリストなのです。

飯田)そういう意味でリアリスト。

高橋洋)そのまま突っ走ってしまい、霞を食って生きて廃人になった人もたくさんいますが、そういう方ではありません。

飯田)数学を突き詰めると、そういう世界になるのですね。

高橋洋)リアリストだからきちんと親会社の指示に従うと思いますよ。

飯田)なるほど。いまの話を聞いていていかがですか?

高橋杉)過去の天才を相手にしないといけないのは辛いですよね。

高橋洋)きついですよ。過去、数百年解けていない問題に挑むのですから。いまの天才など目ではありません。過去の天才と勝負しなければいけないのだから。

過去の天才と勝負しなければならない数学の世界

飯田)過去の天才という意味で言えば、戦略論などもクラウゼビッツの理論を引いたり、似たところがあるのではないですか?

高橋杉)いろいろなものが新たに変わってきているので、まだ勝負できるところがあります。でも、数学は変わらないではないですか。

高橋洋)変わらないので大変ですよ。数千年という歴史を相手にしないといけないので。

飯田)なるほど。アルキメデスやアリストテレスも相手だと。

日銀新総裁に起用される植田和男氏とは「どういう人物」なのか 後輩である高橋洋一氏が解説

※画像はイメージです

数学科卒でも社会語が話せる植田新総裁

高橋洋)数学は過去の天才を相手にするので、多くの人は自分が過去も含めていちばんだと思ってのめり込むのです。大体は負けて、廃人になる人が多い。

飯田)負けて廃人に。

高橋洋)でも、植田さんは早くに見切りました。そして経済をやるということは、普通の社会の言葉が話せるということです。数学の人には無理です。何ヵ月も誰とも話さず閉じこもることがよくありますから。

飯田)そうなのですね。

高橋洋)だから植田さんは「社会語」が話せるのです。

飯田)社会語が話せる。

高橋洋)珍しいのですよ。私も一応、話せる方です。当時の大蔵省の時代、私は植田番にさせられました。大蔵省の通常の官僚は文系の人ばかりだから、数学科卒の人間に対して説明するのをみんな嫌がるのです。みんなが嫌がるから「高橋、行け!」と言われて、そればかりやらされました。

飯田)「ここはどういう計算なの?」と。

高橋洋)そう言われたら困るでしょう? 植田さんは優しくて社会語ができるから、人を傷つけるようなことは言いませんけれどね。でも、よく行かされたのを覚えていますよ。

ベン・バーナンキ氏と同じ指導者に学んだ植田日銀新総裁

飯田)今回、学者出身の総裁は(戦後)初めてだということですが、海外の中央銀行では……。

高橋洋)当たり前のことです。

飯田)前の連邦準備制度理事会(FRB)のイエレンさんもそうですし。

高橋洋)バーナンキ氏もそうです。それが普通です。中央銀行の総裁の条件は3つあります。博士号を持っていること、英語でコミュニケーションが取れること、組織を統率できること。それだけです。日本では、いままで博士号を持っている人がいなかったので、みんな驚いていました。「話が通じないのではないか?」という感じで、大学生のなかに幼稚園児が入っているようなものです。

飯田)幼稚園児が。

高橋洋)海外だと、博士号を持っているか持っていないかはとても大きいです。

飯田)そうなのですね。

高橋洋)植田さんは東大に学士入学したあと、東大の経済学部の大学院に行き、その後、マサチューセッツ工科大学に行っています。そのときにスタンレー・フィッシャーさんに従事しています。

飯田)スタンレー・フィッシャーさん。

高橋洋)フィッシャーさんに学んだ中央銀行の総裁はたくさんいます。バーナンキ氏もそうです。そういう意味では、植田さんとバーナンキ氏は同じ先生を持ったということです。

植田新総裁の金融政策は?

飯田)バーナンキさんは「ヘリコプター・ベン」と呼ばれるように「金融緩和をやった方がいい」と主張していた人ですが、植田さんはいかがですか?

高橋洋)違います。そこは国会同意人事できちんと聞いた方がいいです。何を聞くかと言うと、金融政策は雇用なのですよ。雇用なのだけれど、植田さんはそこがはっきりしていなくて、「いまの金融政策は金融機関のためにならない」と言ったり、「ハイパーインフレになる」と言ったこともあります。これは2016年9月の発言ですが、そういう発言を国会で「いまでも同じですか?」と聞かなければなりません。植田さんは説明がうまいから騙されると思うので、国会質疑のポイントとして話しました。

飯田)過去の発言は本に載っています。

高橋洋)これはシンポジウムでの発言です。世界の標準だと金融政策は雇用のためなのですが、それとは少し違う発言をしたことがあった。そこは問い質さなければなりませんね。

安全保障においても経済は重要

飯田)経済安全保障と言われることもありますが、抑止力を考えたときに、経済もファクターとして入ってきますか?

高橋杉)基本ですね。昔は「富国強兵」と言われたこともありました。いまは言いませんが、経済力はパワーの源泉ですし、強い経済力なくして強い軍事力も外交力もありません。やはり経済を立て直すことが大事です。

飯田)経済を。

高橋杉)日本が防衛費をGDP(国内総生産)比1%から2%にしなければならなくなったのも、分母としてのGDPが伸びていないからです。分母としてのGDPが倍になっていれば1%でよかったわけですから、経済力は非常に大事です。

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