戦狼外交を改め、アメリカとの対立を避け始めた「中国の本音」
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地政学・戦略学者の奥山真司が2月28日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。アメリカと中国の今後の関係について解説した。
中国がロシアに武器供与を行った場合、アメリカが制裁を示唆 ~シグナリングを行うアメリカ
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は2月26日、CNNの番組でウクライナを侵略するロシアに対し、中国が武器を供与した場合、対中制裁を行う可能性を示唆した。
新行)アメリカは「中国が殺傷力のある武器支援を検討しているのではないか」と分析していますが。
奥山)アメリカは中国から情報を細かく取っていて、その情報をこのように高官に話させて発表するのです。「中国、お前たちのやっていることは知っているぞ」と言いつつ、情報を出すことによって、シグナリングと言いますが、シグナルを相手に与えて「危ないことはやるなよ」と発信している。
新行)シグナリングとして。
奥山)その一環として、「中国はロシアに武器を売るだろう」と言っているのです。もちろん、中国は影に隠れて動いているわけですが、その動きを「知っていますよ」と中国側にも伝え、全世界に向けて言う。まさにアメリカはシグナリングを堂々とやっているのです。
戦狼外交を改め、アメリカとの無用な対立を避け始めた中国
奥山)先日、気球の話がありましたが、アメリカがそれを撃ち落としました。
新行)中国の偵察気球ですね。
奥山)中国は去年(2022年)辺りから、海外に対して中国の立場を強く主張する戦狼外交をやめました。激しい口調で知られる報道官だった趙立堅さんが別のポジションに入り、いまは柔らかい感じの方が中国外交部の報道官として出てきています。
新行)報道官の方が代わられましたね。
奥山)しかも驚くことに今回、気球の話が出たときに「気球に関しては遺憾だ」と。「間違えてアメリカに行ってしまった」ということを初めに言ったのです。そのあと、アメリカが撃ち落としたことに対しては猛反発しましたが。
新行)そうでした。
奥山)以前は他国を怒らせるようなことをやっていましたが、中国は戦術的には融和の方向を向いていて、アメリカと無用な対立はしたくないという感じがあります。
新行)融和の方向を。
奥山)習近平政権はソフトになったのかなという印象です。気球への対応で、遺憾の意をあえて言ったことには驚きました。中国は、現時点でアメリカと衝突するのはよくないと考え、戦術的かも知れませんが、少し引き気味に動いているのではないでしょうか。
戦略的にいまはアメリカとの衝突を避ける中国
新行)先日、中国外務省がウクライナ危機の政治的解決に向けた中国の立場を示す文書を発表し、「一刻も早い停戦と無条件での対話再開」を呼びかけたという報道もありました。
奥山)戦略的に、「アメリカと無用にことを荒立てるのは避けるべき」という判断がおそらくあったのだと思います。
新行)中国側に。
奥山)アメリカの政権は、対中国に関してはタカ派になっています。タカ派か超タカ派しかいません。タカ派がバイデン政権の周りを固めているのです。私が翻訳を担当した『デンジャー・ゾーン』は、「中国を潰せ」と言っている本なのです。こういう本が出てきたことに対して、中国側も反省したのでしょう。このままでは本当にぶつかってしまうと。アメリカに対して最終的に対抗することは、大枠では変わらないのですが、戦術的には、いまアメリカと正面衝突しないようにしようという判断がどこかであったのではないでしょうか。
中国に南シナ海問題の平和的解決を提案したフィリピン・マルコス大統領だが
新行)融和に見せかけておいて、裏ではグローバルサウスと呼ばれるような途上国、新興国の国々の意見を代弁するような形で、味方を増やそうとしているのではないかとも言われています。
奥山)フィリピンのマルコス大統領が、1月前後にかけて中国を訪問しました。
新行)そうですね。
奥山)そのときに、マルコスさんは北京で「投資してください。我々は仲よくしましょう」と言ったのですが、その脇で「いま係争地になっている南シナ海辺りの土地について、何とか話しませんか?」と言ったら、中国側に足蹴にされてしまった。「別の会合があるからそちらで話しましょう」ということで、ほとんど取り合ってくれなかったのです。
米軍使用基地を4ヵ所増加で合意したフィリピン ~対中包囲網へ
奥山)そのマルコスさんがフィリピンに帰ってきたら、いきなり「アメリカさん、冷戦後にはアメリカを基地から追い出しましたが、また来てください」と、アメリカに基地の使用を促す発言をしたのです。フィリピン国内には4ヵ所くらい基地がありますが、そこを米軍にどんどん使わせる。衝撃的なエピソードです。
新行)アメリカに対していきなり。
奥山)中国は表向き、「経済的には仲よくしようね」と言いつつも、周辺国に対しては厳しい態度を取っている。本質的には周りと対等な関係にはなれないので、それを警戒したフィリピンにアメリカを引き込むような態度を取らせてしまったのです。
新行)周囲とは対等な関係になれず。
奥山)中国は、表向きにはアメリカとことを荒立てないけれども、周辺国に対してはこういう態度を取ってしまう。結果的にアメリカが「やはりフィリピンも警戒しているよね」ということで、周りに中国包囲網ができてしまうメカニズムになっているのだと思います。
新行)結果的には。
奥山)中国は強くなっているが故に、周りに敵をつくらざるを得ない状況なのです。
香港への北京からの政治的な締め付けは続いている ~民主化運動は何もできない状態
新行)中国共産党の重要会議「2中全会」が2月28日に閉幕するというニュースも入っています。中国で3月5日から始まる全国人民代表大会(全人代)を前に、中国共産党の重要会議、第20期中央委員会第2回全体会議(2中全会)が2月26~28日まで行われています。政府人事などが議論されていて、李克強首相に代わる新たな首相に、前上海市トップの李強氏が就任する見通しだということです。
奥山)やはり本質的なところは変わらない。というのは最近、政治活動も行っていた香港の友人から話を聞いたのです。
新行)香港の。
奥山)香港では民主化運動がありましたが、北京側の強力なプレッシャーによって、ほぼ香港の自治状態は奪われてしまいました。彼の奥さまが実は政治家なのですが、北京側にはもう逆らえないので、彼女自身はアメリカなどの西洋の国へ行けない状況だと言っていました。
新行)西側へ行くことはできない。
奥山)自由がかなり奪われているのです。民主活動家であるアグネス・チョウ(周庭)さんも、全然表に出られなくなっています。
新行)そうですね。
奥山)北京側が香港に入ってきて、政治面での締め付けを相当厳しくしている。香港の経済も落ちているらしいのです。
新行)経済も落ちている。
奥山)何もできないような状況があり、「とても歯痒い」と言っていました。あまり香港の話は外に出てこないのですが、実態としては相当激しく、経済もなりふり構わず、とにかく政治的な締め付けだけは進行していることを教えていただき、暗い気持ちになりました。
国の機能と党を一本化する流れの中国
新行)3月5日には全人代が始まりますが、これから中国のなかでの布陣はどうなっていくと思われますか?
奥山)基本的に習近平さんは、いままで建前としては「国家と党を分ける」という形で、党が上だったのですが、ほぼ国の機能と党を一体化する流れになってきています。相変わらず、経済などではなく、とにかく「政治的にまず党を守る」という方向に進むのではないでしょうか。
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