ダルビッシュ・大谷も経験 WBCを辞退した選手たちとその後

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は過去、野球世界一決定戦・WBC日本代表を、苦渋の決断で辞退した選手にまつわるエピソードを紹介する。

ダルビッシュ・大谷も経験 WBCを辞退した選手たちとその後

【プロ野球日本ハム 新球場メディア公開】TOWER11に描かれたダルビッシュ有選手と大谷翔平選手の壁画=2022年11月3日 北広島市 エスコンフィールド北海道 写真提供:産経新聞社

3月9日からのWBC本番を前に、宮崎で11日間の合宿を行った野球日本代表・侍ジャパン。2月27日に合宿を打ち上げ、3月上旬に予定されている中日・阪神・オリックスとの壮行試合に臨む予定でしたが、28日、衝撃の報せが飛び込んできました。

メジャー組の1人で、今回、侍打線の中軸を担う予定だった鈴木誠也(カブス)が、米アリゾナ州で行われていたカブスの春季キャンプ中に左脇腹の張りを訴えたのです。MRI検査の結果、29日、大事を取ってWBC出場を辞退することが正式に発表されました。

2021年の東京五輪で侍の4番を務めた鈴木は、前々から今回のWBCに懸ける思いを熱く語っていましたので、本人の無念さは推して知るべしです。鈴木の勇姿を再び日本で観る機会がなくなったのは残念ですが、まだまだ野球人生は長いですし、ここは無理をせず、まずは静養と回復に努めて欲しいと思います。

これで侍ジャパンを指揮する栗山英樹監督は、急遽、代替選手を選ばなくてはならなくなりました。鈴木が守る予定だったライトは、本職がライトのラーズ・ヌートバー(カージナルス)がセンターからスライドして守る案が有力視されています。

その場合、今度はセンターが空くことになりますので、鈴木の代替選手はセンターの経験がある外野手になるとみられ、昨年(2022年)オフ、侍の強化試合に出場していた阪神・近本光司、広島・西川龍馬が有力候補として名前が挙がっています。誰が代役を務めるにせよ、開幕前に訪れたこの危機を侍がどう乗りきるのか、人選とともに、チームの結束力も問われそうです。

ところで、今季の鈴木のように、過去にも苦渋の決断でWBCの代表入りを辞退した選手がいます。例えば前回・2017年に行われた第4回大会では、楽天・嶋基宏が、大会直前に辞退を表明しました。嶋は2015年、国際大会・プレミア12に日本代表として出場。当時侍ジャパンを指揮していた小久保裕紀監督は、その経験値と統率力から嶋を選びましたが、嶋は2月に下半身を痛め、3月4日、本番を前に無念の辞退となりました。そのときの、嶋のコメントです。

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『一番は悔しいです。(大会に)出るからには100%、120%で出ないとチーム、応援してくれるファンに迷惑がかかる。正直、今の状態ではパフォーマンスが出来ないと判断し、決断をしました』

~『日刊スポーツ』2017年3月4日配信記事 より

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悔しさが伝わってくるコメントです。このときは炭谷銀仁朗(当時西武)が代替選手に選ばれましたが、日本は準決勝で敗れ、2大会ぶりの世界一奪回は逃しました。チームの精神的支柱として期待していた選手が直前に抜けたのは、小久保監督としても非常に痛かったでしょう。

一方、辞退した嶋はこの年、シーズン112試合に出場しましたが、2年後の2019年、故障のため出場試合が激減し、オフにヤクルトへ移籍します。ヤクルトでは指導者的な役割も兼ねながら2021年の日本一と、2022年のリーグ連覇に陰で貢献。昨季(2022年)限りでユニフォームを脱いだのはご存知のとおり。

またWBCでは、日本人メジャーリーガーが、在籍するチームでのプレーを優先して出場を見送るケースが何度かありました。2006年、第1回の松井秀喜(ヤンキース)がまさにそのケース。この年、松井はメジャー4年目。最初にヤンキースと結んだ3年契約を更新し、新たな大型契約を結んだばかりでした。

王貞治監督も出場を期待しましたが、松井は悩んだ末にシーズンを優先。イチローと松井が一緒に守る外野陣を観てみたかったですが、WBCはシーズン開幕前に行われるため、これもまたやむを得ない選択でした。松井は、巨人・原辰徳監督が指揮を執った2009年の第2回大会にはぜひ出場したい、という思いがあったようですが、その前年(2008年)に手術を受けた左ヒザの回復状況が万全でなく、再び無念の辞退。このとき松井が発表したコメントがこちらです。

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『どうしても出たかった。でも、今の体の状態では、出られると明言できません。MLB側には、辞退するという趣旨を告げました』

~『日刊スポーツ』2008年11月26日配信記事 より

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巡り合わせが悪かったというか、これもまた致し方のない選択でした。結果的に松井は、WBCに出場することなくユニフォームを脱いでいます。

ところで、今回の侍の目玉といえば、何と言ってもダルビッシュ有・大谷翔平ですが、2人とも過去に「WBC辞退」を経験しています。大谷は本来なら、日本ハム在籍時の2017年、第4回大会に出場するはずで、前年11月に行われた強化試合にも侍のユニフォームを着て出場していました。

しかし前年(2016年)の日本シリーズと、侍の強化試合で右足首を痛めてしまいます。投手での出場は諦め、打者としての出場を模索しましたが、その後も症状は回復せず、2017年2月、春季キャンプ中に出場辞退を発表しました。そのときのコメントからも、大谷の苦渋ぶりが伝わってきます。

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『僕自身相当気合を入れて(WBCの)優勝に向けて頑張ってきた。今は目標を失っている段階。現時点でどのくらいのタイミングで復帰できるか見えてこない』

~『スポニチアネックス』2017年2月4日配信記事 より

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大谷はこの2017年、開幕早々、左太もも裏を痛め戦線を離脱。投打とも満足のいくプレーができないまま不本意な成績でシーズンを終え、それが日本での最後のシーズンになりました。このときの悔しさ、申し訳なさが、今回二刀流での出場を決めた大きな理由になっていると思われます。

一方ダルビッシュは、日本ハムに在籍していた2009年、第2回WBCに出場。クローザーとして最後を締めくくり胴上げ投手になりましたが、メジャー移籍後に行われた2013年の第3回大会には辞退を表明しました。

前年(2012年)がメジャー1年目で、新たな環境に慣れるためさまざまな努力をしたあとだけに、シーズン前に無理をしたくない、という思いも十分理解できます。

また2015年にトミー・ジョン手術を受けた関係で、2017年の第4回大会も辞退。それだけに、年齢を重ねた今回、ダルビッシュが出場を決断したのは大きなサプライズでした。

第2回の際、ともに世界一を経験した代表メンバーが、その後チームに帰ってから軒並みコンディションを崩したり、あのイチローですら重圧に苦しみ、体調不良になったのを間近で見てきたダルビッシュ。今回、参加を決断した理由はいろいろあると思いますが、「世界一の前に、まず自分の体が第一」と後輩たちに直接伝えたかったのではないでしょうか。合宿入りする前の発言にも、そんな思いが表れています。

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『気負いすぎというか、戦争に行くわけではない』

『ちゃんと練習をやったりとか、一塁ベースまでしっかりと走るとか、自分のことはしなきゃいけないけど、気負う必要はないと伝えたい』

~『中日スポーツ』2023年2月5日配信記事 より

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今回、侍に選ばれた投手たちが、適切なコンディションづくりの方法について、ダルビッシュを質問攻めにしているのは、すごくいいことだと思います。世界一も大事ですが、その後のことも、より大事。レギュラーシーズンはこれから始まるのですから。

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