米シリコンバレーバンク破綻にみる「金融機関を監督することの難しさ」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が3月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米シリコンバレーバンクの破綻を受けて発表したFRBによる金融機関の監督や規制の在り方について解説した。

米シリコンバレーバンク破綻にみる「金融機関を監督することの難しさ」

※画像はイメージです

FRB、金融機関の監督や規制の在り方を見直すと発表

アメリカのシリコンバレーバンクが破綻したことを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)は3月13日、金融機関の監督や規制の在り方を見直すと発表した。発表のなかでパウエル議長は「シリコンバレーバンクをめぐる一連の出来事はFRBによる徹底的で透明かつ迅速な見直しを求めている」とコメントしている。

飯田)新たな監督・規制の方針は5月1日までに公表されるということです。

資金をベンチャーキャピタルが投資するときに、投資先のスタートアップ企業がシリコンバレーバンクに預金口座をつくる ~シリコンバレーでは有名な「シリコンバレーバンク」

佐々木)シリコンバレーバンクは日本では知名度が低いのですが、シリコンバレーでは有名な銀行です。スタートアップ企業が資金調達するとき、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などにお願いしますが、その枠組みに組み込まれている銀行です。

飯田)そうなのですか。

佐々木)資金をベンチャーキャピタルが投資するとき、投資先のスタートアップがシリコンバレーバンクに預金口座をつくるような枠組みになっているのです。

飯田)機関投資家からお金を入れてもらう際、「まずこの口座に」というようなことですね。

佐々木)その仕組みの1つに入っている。だからスタートアップの預金が大量に積まれ、一気に大きな銀行になっていったという流れがあるようです。

飯田)最初の資金融通のところに。

佐々木)短期資金の流動化のために使われている銀行、というようなイメージで考えればいいと思います。

預金を国債や長期資金に投資していたシリコンバレーバンク ~金利が上がり資金調達しにくくなって預金を使い出したスタートアップ企業

飯田)自分たちがお金を貸してスタートアップを支援するというよりは、枠組みのなかに組み込まれている。だから貸出があまり多くなかったのですね。

佐々木)その集まった預金をどうしていたかと言うと、概ね国債や長期資金に投資していたというのがシリコンバレーバンクの特徴です。

飯田)集まった預金を投資する。

佐々木)今回、アメリカで金利が上がりましたが、金利が上がったことでスタートアップが資金調達しにくくなったのです。そこで「預金を使おう」となり、みんなが引き出すようになる。そうするとシリコンバレーバンクの預金が目減りしてしまいます。ところが自分たちは、そのお金を国債に投資している。金利が上がると国債の価値は下がりますよね。そうすると含み損が出てしまうわけです。

預金が流出しているため含み損を抱えきれなくなり、他の資金調達をするSVBを見てさらに預金流出が加速し、取り付け騒ぎに

佐々木)お金があるのであれば、いずれ金利が下がるまで待って含み損を減らせばいいのだけれど、預金が流出しているので、含み損を抱えきれなくなった。

飯田)手元でお金が必要になってくる。

佐々木)そうです。その含み損を固定しなければいけなくなり、シリコンバレーバンクも他の資金調達の方法を考えるわけです。その様子を見て「シリコンバレーバンクがどうにかなっているぞ」と、さらに預金流出が加速して取り付け騒ぎになり、あのような事態になった。

預金は全額保護するが救済はしないアメリカ政府 ~リーマンショックでの経験から

佐々木)金利が上がったことによる一連のハレーションの結果、シリコンバレーバンクが破綻したということです。一応、預金はアメリカ政府が全額保護しています。ただし救済はしなかった。

飯田)銀行そのものは救済しない。

佐々木)リーマンショックのときはリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、一斉に金融機関がおかしくなったので、すべてを救済したではないですか。

飯田)資本注入の形で。

佐々木)それに対して「貧乏人から税金を巻き上げておいて、その金で何百億円も給料をもらっているような連中の銀行を救済するとは何事だ」と批判が起きたのです。

シリコンバレーでのスタートアップ向けの資金融通の枠組みの世界で一般的ではない ~預金は保護するが潰してもいい

佐々木)リーマンショックの場合は、破綻の原因がサブプライムローンと言う低所得者向けの住宅ローンでした。低所得者向けなので当然、焦げ付く場合が多い。その焦げ付きが広がっていった結果、リーマン・ブラザーズの経営が悪化して救済が入った。低所得者向けの住宅ローンがたくさんあって影響が大きかったために、救済せざるを得なかったのです。

飯田)リーマンショックのときは。

佐々木)今回のシリコンバレーバンクに関して言うと、シリコンバレーという特殊な土地におけるスタートアップ向け資金融通の枠組みの世界であり、一般的な話ではありません。普遍性がないので、「預金は保護するけれど潰してもいい」という判断になったのだと思います。

預金の保護は妥当な判断

飯田)なるほど。預金は保護しておかないと、ベンチャー企業・IT企業が給料の支払いにも困ってしまう。

佐々木)破綻した当日にツイッターでシリコンバレーについて見ていたら、預金保護の話がまだ出ていなかったので、「預金がなくなったら給料をどうやって支払うのだ!」と騒いでいる人がたくさんいました。

飯田)当時は預金保険で保護されるのが25万ドルぐらいまでだった。

佐々木)2500~3000万円ぐらいですかね。

飯田)「1億~2億も預けていたのにどうするのだ!」というような人がたくさんいたのですね。

佐々木)それだとシリコンバレーが大混乱しかねないので、アメリカ政府の判断としては妥当だったのではないでしょうか。

金融機関を監督することの難しさ ~経営の自由と金融の安定のバランスをどう取るか

佐々木)一方、リーマンショックの教訓で「国がきちんと銀行を監督しなければいけない」という機運が高まったのに、金利を少し上げただけで、ドミノ倒しのようにこういう事態が起こる。金融機関を監督するのは難しいのだなと思います。今回、金融機関の監督の在り方を見直すと発表されましたが、何が引き金でこういうことが起きるのかわからない怖さは相変わらずありますよね。

飯田)一時期、オバマ政権時代に強めた規制をトランプ政権で少し緩めたという指摘もありますが、経営状況のチェックなどはやっておかなければまずいのですね。

佐々木)そうなのですが、やはりある程度、お金を儲けなければならないという圧力もある。儲けるために銀行もあの手この手を考えるのだから、すべてを監督するのも厳しいだろうし、経営の自由と金融の安定のバランスをどう取るのかは、なかなか難しい問題だと思います。

日本でも拙速な引き締めをすると今回のアメリカのようになる可能性も

飯田)でもアメリカの場合、2月の消費者物価指数(CPI)が発表されていますが、6.0%上昇しています。

佐々木)すごいですね。

飯田)市場の予想と同じと言いながら、相変わらずというところですね。

佐々木)これだけ上がっているからこそ、給料も上がっている。日本で上がっているのはエネルギーと食料ばかりで、物価全体が上がっているわけではありません。「賃金は全然上がらないではないか」と言われていたのだけれど、ここ数ヵ月の流れを見ていると、春闘で大手企業を中心に賃上げが始まっており、いい流れになっている感じがします。

飯田)拙速な引き締めを行うと、今回のアメリカのようなことになるかも知れない。

佐々木)新たに日銀総裁となる植田さんが、本当に「アベノミクスを軟着陸させてしまうのか」というところは注目しないといけないですね。

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