ジャーナリストの佐々木俊尚が3月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。林外務大臣が3月14日の閣議で報告した2022年版「開発協力白書」について解説した。
開発協力白書
林外務大臣は3月14日の閣議で、日本の政府開発援助(ODA)の実績や方針をまとめた2022年版「開発協力白書」を報告した。白書では、ウクライナ侵攻によってエネルギーや食糧価格が高騰し、途上国の経済や社会は大きな打撃を受けているとしている。日本として、こうした国々への支援を強化していて、白書には2022年7月、ウクライナやロシアからの輸入が滞って食料不足に直面する中東アフリカ諸国への食料の供給の他、農業の生産能力を高めるための支援を決めたことなどが盛り込まれている。
飯田)新聞各紙の見出しには「グローバルサウスに初言及」と出ています。
佐々木)昔は「グローバルサウス」という言葉はありませんでしたが、最近言われるようになってきました。西と東に分かれていたのが冷戦時代の特徴で、同時に南北問題もあると言われていました。昔は東西と南北の切り分けでしたが、いまはもう少し複雑です。「東・西」はなくなりましたが、なぜか西側諸国という言葉は残っていて、東側諸国とは言いません。
飯田)そうですね。
佐々木)同盟ではないので強権国家連合ではありませんが、北朝鮮も含め、中国とロシアを中心とした強権国家と、それ以外のG7を中心とした国々がある。その対立を見守っている途上国の国々を「グローバルサウス」と呼んでいます。
中国・ロシアとG7の間でグローバルサウスの国々を取り合っているのが現状
佐々木)グローバルサウスにはいろいろな国がありますが、いちばん大きいのはインドです。インドはウクライナ侵攻に関しては、ロシアから武器を供与してもらっている関係もあり、どちらにもつかずに様子見をしている感じです。
飯田)インドは。
佐々木)東南アジア諸国は中国を警戒して、どちらかと言うと西側諸国寄りになっている……というようなグラデーションで、必ずしも1つではありません。逆に言うと「国際社会への参加の仕方が多様なグローバルサウスをどこまで取り込めるか」と、中国・ロシアとG7の間で取り合いになっているのが現状ではないでしょうか。
民主主義というイデオロギーよりも、法の支配というスローガンを掲げる方が包摂的により多くの諸国の参加を期待できる
佐々木)グローバルサウスをどう取り込むかというところで、慶応大学の細谷雄一さんが先日、東洋経済に記事を書かれています。岸田政権や林外相などは、これからの国際社会の在り方について、「法の支配による国際秩序」というような言葉を使っています。
飯田)法の支配による国際秩序。
佐々木)バイデン大統領はそうではなく、民主主義を理念にあげている。ところが日本は民主主義と言わずに「法の支配」と言っています。なぜかと言うと、民主主義と言ってしまえば、アジア・アフリカの民主主義ではない国を除外してしまうからです。
飯田)ベトナム、あるいはシンガポールも。
佐々木)独裁だと言われていますから、強権国家の1つであると。アフリカもそうではない国がたくさんあります。だからあまり民主主義を中心にしてしまうと、分断を逆に広げてしまう。
飯田)民主主義を中心にすると。
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『民主主義というイデオロギーよりも、「法の支配」というスローガンを掲げるほうが、包摂的により多くの諸国の参加を期待できるのだ。このような日本外交の包摂的なアプローチを、分断が進む国際社会でアピールすることが重要だ』
~『東洋経済オンライン』2023年3月13日配信記事 より
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佐々木)細谷さんはこのように書いていますが、その通りだと思います。
インドと太平洋を結びつけるという発想はそれまで安全保障的にはなかった「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」 ~安倍元総理の功績は大きかった
飯田)包摂的という意味で言えば、かつて安倍さんが主張した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」も、「自由にやり取りできて開かれていれば、どういう政体の国であっても入ってください」というものです。
佐々木)下手をすれば、中国でさえも包摂できる枠組みです。安倍さんの功績はいまとなっては本当に大きいと思います。インドと太平洋を結びつけるという発想は、それまでの安全保障的にはなかったのです。
「ヨーロッパやグローバルサウスとどう連携するか」が日本の大きな課題 ~ウクライナ侵攻によってグローバルサウスを含めた西側諸国の団結が強まっている
佐々木)いまやアメリカだけを頼りにするわけにはいかなくなった。日本は次期戦闘機の開発をイギリス・イタリアと一緒に行うことになりましたが、アメリカの戦闘機だけに頼るわけにもいかないので、独自で一緒に開発しましょうという話になっているのです。「どうやってヨーロッパやグローバルサウスと連携していくか」は日本の大きな課題です。
飯田)ヨーロッパやグローバルサウスとどう連携するか。
佐々木)対中国で言うと、少し前までヨーロッパは中国寄りでした。
飯田)そうですよね。
佐々木)自動車などの大きな輸出先だったわけです。当時は、「日本あるいは台湾で有事があってもヨーロッパは無視するのではないか」と言われていたけれど、ウクライナ侵攻があり、逆にこちらに目が向いてしまった。
飯田)ロシアのウクライナ侵攻で。
佐々木)ウクライナ侵攻によって、逆にグローバルサウスを含めた西側諸国の団結が強まっているという、逆説的なことが起きているのは間違いない。その波にうまく乗って、岸田さんにはFOIPの公共も進めて欲しいと思います。
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