「現場至上主義」固定観念の弊害 まず「調べる」ことの大切さ ~ジャーナリズムと情報力

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ジャーナリストの佐々木俊尚が3月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ジャーナリストの取材の在り方について解説した。

「現場至上主義」固定観念の弊害 まず「調べる」ことの大切さ ~ジャーナリズムと情報力

※画像はイメージです

年齢とともに衰えていく情報収集力

飯田)佐々木俊尚さんは音声プラットフォーム『Voicy』でも発信されていますが、3月12日は「ジャーナリズムと情報力、そして当事者性について考える」という内容でした。

佐々木)元新聞記者や元テレビ報道記者だった年配のジャーナリストの方々がいらっしゃいますよね。見ていると段々、情報収集力が衰えていくというか、70~80代くらいになると世間の認識とずれたことを言い始めたりします。それが「なぜなのか」ということが前から気になっていたのですが、自分が年を重ねてきてわかったのは、取材しなくなるからなのですよね。

昔からあった「現場主義」 ~調べる前に現場に行け

佐々木)年齢が上がったり地位が偉くなったりすると、あまり取材しなくなるので、取材力が落ちてくるのは仕方がありません。一方で「現場こそがすべてだ」というような固定観念があって、「現場に行かないと何もわからないのだ」と言われることもあるではないですか。

飯田)ありますね。

佐々木)私が新聞記者時代に調べものをしていると、「そんなことをしている暇があったら現場に行ってこい!」と怒鳴られましたが、「現場へ行く前にまず調べた方がいいでしょう」と思ったものです。

現在では、「どれだけネットから情報を収集できるか」ということの方がジャーナリストの筋肉としては重要

佐々木)いまの時代、現場に行っても見えるものは限られています。例えばシリコンバレーへ取材に行っても、会えるのはせいぜい数人ぐらいで、しかもそれがシリコンバレーのすべてではない。

飯田)お金を掛けて現場に行っても。

佐々木)それだったら、アメリカの英語メディアでシリコンバレーのことを書いている記事が山ほどあるのだから、それを読んだ方がよほど情報力としては高い部分があるわけです。

飯田)そういう部分もある。

佐々木)いまのように多層化・複雑化した時代だと、「どれだけネットから情報を収集できるか」の方がジャーナリストの筋肉としては重要なのではないかと、この10年ぐらいで考えるようになりました。

飯田)ネットからどれだけ情報を収集できるか。

佐々木)どちらかと言うと取材よりも、いまは情報の方に力を入れているのですが、そうすると「取材していない!」などと言われます。しかし、そこを鍛えておけば、いかに年を重ねようが人と会わなくなろうが、きちんと世界の認識力が衰えないと思うのです。

ネットを駆使して下調べをし、最後の詰めとして「会わないとわからない空気感があるよね」という取材に意味がある

飯田)「とにかく現場だ」と言って、下調べも何もなく現場に入るようなことがありましたよね。

佐々木)「取材先に聞け!」と言われていました。

飯田)でも取材相手からすると、「この人は本当に何も知らずに来ているのだな」となってしまい、最初から説明したりして、かえって取材が深いところまでいかないことがあります。

佐々木)取材される側になってわかりましたが、いきなり来て「佐々木さんはどんなお仕事をされているのですか?」という人がいる。「それも調べないで来たのか」というような。

飯田)著作も読まずに。

佐々木)いまはAmazonのkindleなどを使えば、その場で本を買えるのだから、それを読んだり、ネットでその人の書いた記事を検索して読んだりといくらでもできるのです。下調べをして、最後の詰めのところで「会わないとわからない空気感があるよね」という取材に意味があると思います。

情報を持った上で会って取材することが大切

飯田)もちろん、ネットに出ている情報はある程度限られた部分があるので、網羅的に知っても、現場に入って「あ、違った」ということもあります。

佐々木)それはそうですね。実際に会うことで、ボディーランゲージも含めた空気感などがあるのは間違いありません。でも、それだけだとやはりダメで、両方持っていることが必要なのではないでしょうか。

専門家の知見を吸収した上で発信することが大事 ~人々の声に耳を傾け、情報をきちんと収集していく

佐々木)あとは専門家の話をきちんと聞くことです。

飯田)専門家の話を。

佐々木)自分勝手な思い込みで「安全保障はこうだ」、「新型コロナはこうだ」と言っているジャーナリストがたくさんいるけれど、専門家の知見を自分で吸収した上で発信することが大事だと思います。

飯田)下調べすると、今度は自分の筋のようなものができてしまい、そこに当てはめる感じで「こういうことですよね」と質問してしまう場合があります。

佐々木)最初から物語を決めている人がいますからね。

飯田)多分、そこが両極端で、真ん中を探すようなことが必要なのですよね。

佐々木)本当にそうだと思います。「人々の声に耳を傾け、情報をきちんと収集していく」というところがすべての基盤になっている。それを抜きに進める新聞やテレビが多すぎるという現実を、もう少し変えていかなければならないと思います。

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