強すぎる習近平氏に忍び寄る暗雲 パンドラの箱を開けてしまった「白紙革命」

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青山学院大学客員教授でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が3月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・習近平国家主席の今後について解説した。

強すぎる習近平氏に忍び寄る暗雲 パンドラの箱を開けてしまった「白紙革命」

北京市内の名門・清華大で、抗議の意思を示す白紙を掲げる学生[目撃者提供]2022年11月27日 写真提供:時事通信社

異例の3期目に入った中国・習近平国家主席 ~今後の展望は

政策決定に関わる全国人民代表大会(全人代)が3月13日に閉会した。既に共産党のトップとなっていた習近平氏が政府でも国家主席という形で異例の3期目に入った。

飯田)首相には李強さんが就いたということです。

前評判よりも習近平氏の3期目は継続性があるのでは

峯村)(李強さんについては)中国の知人からの前評判でも「能力も経験も足りない」というような話でした。しかし、先日の会見を見ると、与えられた原稿をほとんど読まずに自分の言葉で話していました。「思っていたよりも安定感があった」というのが私の印象です。

飯田)経済閣僚や人民銀行の総裁など、留任した人も少なくなかったですよね。

峯村)「ガラッ」とすべて変えると思っていたら、わりとパフォーマンスがよくて、キーになるような人はきちんと残していました。そう考えると、意外にも3期目は継続性があるのではないでしょうか。

演説のなかで「強国」を12回発した習近平国家主席 ~対台湾政策はより強硬に

峯村)一方、全人代のなかで感じたのは、冒頭の開幕式で李克強さんは台湾について穏やかな言い方をしており、「平和統一」という文言を復活させていました。ところが、習近平氏の演説には平和統一という言葉を一度も使わずに「外部勢力の干渉は許さない」と強硬になっていた。さらに驚いたのは、「強国」という言葉を約15分の演説で12回も言っていました。そう考えると、対台湾政策は既定路線として加速させていくことが鮮明になったとみていいと思います。

飯田)全体的に統制色が強まったのではないでしょうか?

峯村)とても強まりました。その原因が、李強・習近平両氏の演説の中に示されていました。2人とも、社会不安の増大に対し、「社会保障システムを健全化して国民が切望する問題を解決しなくてはならない」と強調していたのです。

中国の歴史上でもインパクトのあった「白紙革命」 ~天安門事件とは違う中国政府への不満が爆発

峯村)4月3日に、中国評論家の石平氏と対談本「習近平・独裁者の決断 台湾有事は絶対に現実化する」(ビジネス社)を出します。その中の取り上げたテーマの一つが昨年10月に中国各地で起きた「白紙革命」についてでした。白紙革命は中国の歴史のなかでも非常に大きなインパクトがあったのではないか、というのが我々の仮説です。

飯田)白紙革命が。

峯村)私が対談をお引き受けした最大の理由は、1989年の天安門事件に参加した石平さんに白紙革命との比較をうかがってみたかったからです。

飯田)天安門事件との比較。

峯村)天安門事件よりも白紙革命の方がインパクトは大きかったと石平氏はおっしゃっていました。天安門事件では中国政府、中国共産党に対する不満はあまりなかったけれども、今回の白紙革命は違うと。さらに「政権を降りろ」という主張は、天安門事件のときすら見たことがなかったと言うのです。

飯田)なるほど。

峯村)それを聞いただけでも、私は「この本はできた」と思いました。スパイ気球事件や台湾問題まで濃厚な議論をしています。

武漢や大連で医療費削減に対してデモが多発 ~パンドラの箱を開けてしまった白紙革命

峯村)習近平政権は一貫して、「ゼロコロナ政策は絶対に変えない」と言っていました。ところが白紙革命が起きたことで、それをあっさり撤回してしまったのです。国民からすると、「デモを起こせば我々の政府も意外と折れるではないか」という教訓を得たわけです。今後このような抗議運動は伝播するだろう、というのが対談時の我々の分析でした。

飯田)伝播するだろうと。

峯村)蓋を開けてみたら、コロナが最初に出た武漢や大連の辺りで医療費が大きく削減され、それに対する抗議デモがいくつも起きているらしいと、私の知り合いから情報が入ってきています。

飯田)一部、ネットでも映像が出ていますね。

峯村)中国のネットや、香港メディアも少し報じてはいました。やはり白紙革命は、パンドラの箱を開けたのではないかと思います。

厳しい監視下のなかでもデモが起きたことがニュース ~白紙革命のあとも発生している民衆のデモ

飯田)白紙革命は、ゼロコロナ政策を行っていた際、ウイグル辺りで火事が起こったけれども消せなかった問題など、さまざまなことが起きた。そのため、学生たちが何も書いていない白い紙を出し、「何も言えないけれども、不満がある」という方法の抗議を表に出しました。それがさまざまなところに広まった。デモ行為自体は落ち着いたので、「やはり強権で抑えたのではないか」という意見もあったのですが、そうではないのですね。

峯村)逆ですね。わかっていない人ほど、そう言っています。「どうして中国共産党が支配しているのか」という「統治の正統性」を共産党は非常に気にしているのです。

飯田)正統性をですか?

峯村)そうです。だから「あなたたちを豊かにしますよ」などと一生懸命アピールする。一方ではメディアやネットを厳しく統制しています。ですが、石平さんの言葉を借りると、今回の白紙革命によって、中国共産党と国民の間にあった「暗黙の合意」「暗黙の了解」のようなものが「崩れたのではないか」というのが見立てでした。

飯田)それがジワジワと浸透していけば、ネットやデモ行為のような表に出ないところで不満が溜まる。みんな面従腹背というか、疑心暗鬼になりますよね。

峯村)もっと言うと、実は私は白紙革命のようなデモは今の中国では起きないと思っていたのです。中国は「天網」と呼ばれる監視システムを全国に張り巡らせています。20億台くらいの顔認証の付いたカメラによって監視しており、国民が「デモを起こそう」と打ち合わせした瞬間に捕まるくらいです。ですから、そういうデモは起こらないと思っていたら、あれだけのものが起きた。すぐに鎮圧されたのは事実ですが、逆にあれだけの監視下にありながらデモが起きたことを私は重視すべきだと思っています。

強すぎる習近平氏に忍び寄る暗雲 パンドラの箱を開けてしまった「白紙革命」

「烈士記念日」の式典に臨む中国の習近平国家主席 2022年9月30日(共同)

中国共産党大会で習近平氏の3期目が決まった1ヵ月後に起きた白紙革命 ~強すぎる習近平氏こそが中国共産党の最大のリスク

飯田)習近平氏は3期目の権力基盤が固まったとも言われていますが、意外と穴があるのですか?

峯村)「強すぎる習近平氏こそが、中国共産党において最大のリスクだ」ということを私は言ってきました。1強になると、確かに権力基盤は固まるのですが、それが脆さでもあるのです。

飯田)脆さでもある。

峯村)それによって指導部には正確な情報が上がってこなくなる。また、指揮系統が硬直化して指示が遅れ、さまざまな判断が遅れてしまったり、誤った判断をしたりしてしまう可能性も出てきます。

飯田)強すぎて。

峯村)2022年の中国共産党大会で習近平氏の3期目が決まりましたが、その約1ヵ月後に白紙革命が起きているわけです。ピークの頂点の時にまさに白紙革命が起きたのです。「私の仮説は正しかったのだな」と思いました。

ゼロコロナ政策のなかでのPCR検査の費用はすべて地方政府が負担

峯村)もう1つの中国が抱える問題として、地方政府の財政が不足していることです。白紙革命のあとに頻発しているデモの最大の原因は、地方政府にお金がないことです。ゼロコロナ政策のなかで、PCR検査などを毎日、何回もしてきました。しかし、そのお金は中央政府が出していたのではなく、地方政府に全部出させていたのです。

飯田)そうなのですね。

峯村)PCR検査は1回20元(400円弱)くらいなのですが、14億人が受けるのですから。

飯田)毎日行われますものね。

峯村)財政がボロボロです。先日、ある中国の地方政府の方と話したのですが、ほとんどの地方政府は公務員の給料が削減しており、不満が溜まっていると。そのため「医療費をカットしましょう」とか「年金を少なくしましょう」などとしていて、それに対するデモが頻発しているのです。

台湾有事は明日にでも起こり得る ~国内の不満を外に逸らすためにも

飯田)そうなると、国内の不満を外に逸らそうという動きになりますか?

峯村)ここまで国内の不満が溜まってくると、「我々が統治しているのは正しいのだ」という正統性を強める必要があります。そこで、祖国を統一しようではないかと。「祖国と言えば、台湾ではないか」というのが私の仮説です。

飯田)台湾有事は2027年まで、あるいは2025年までに起こるなど、さまざまな数字が出てきますが、予想より早くなる可能性もありますか?

峯村)私は明日にでも起きると思っています。

飯田)明日。

峯村)ワシントンの私が付き合っている軍の人間、政府の人間と話をすると、「2027年までに起こる」ということはほぼ一致しています。「いつ起こるか」ではなく、「いつでも起こり得る」という意識に変わりつつあります。

サウジアラビアとイランの外交関係正常化の合意を中国が仲介 ~習近平氏の大国外交

飯田)そこへ向けてなのか何なのか、サウジアラビアとイランを仲介したり、習近平氏がロシアに行き、その後はウクライナにも行って仲介するのではないかという話なども言われていますが。

峯村)全人代で3期目を決めたタイミングで、サウジアラビアとイランの合意をあえて発表したことは象徴的でした。

飯田)中国が仲介した、サウジアラビアとイランの外交関係正常化の合意。

峯村)わかりやすい動きです。習近平氏の外交の基本は大国外交ですから、あそこで「すごいだろう」と見せたのでしょう。

飯田)それが国内の支持にどこまでつながるのかというところですが。

峯村)今回の仲介については支持されています。サウジアラビアとイランに関して、アメリカができなかったことを中国が行ったのは、国民的には「よくやった」と評価しています。ロシアとウクライナについても調停案を出していますが、上手く調停できたら、非常に大きなインパクトになります。

飯田)そうなると、今度は東アジアでも、というような方向になってくるのでしょうか?

峯村)なりますね。大国として「自分たちはこれだけ国際社会に貢献したのだから、欲しいものを獲るよ」という主張はあるでしょうね。忘れてはいけないのは、中国からすれば台湾のことは外交問題ではなく、あくまでも中国国内の問題なのです。

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