岸田総理がインドを訪問するもう1つの狙い

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ハドソン研究所・研究員の長尾賢氏が3月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理のインド訪問について語った。

岸田総理がインドを訪問するもう1つの狙い

2022年5月24日、日印首脳会談~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/24quad.html)

岸田総理大臣がインドを訪問、モディ首相と会談へ

岸田総理大臣は3月19日夜、20ヵ国・地域(G20)議長国のインドを訪問するため日本を出発した。20日にモディ首相と会談し、先進7ヵ国(G7)議長国としてウクライナ情勢などで連携を呼びかける方針。

G7議長国として、対中国戦略の上で、西側の協調路線にインドを巻き込みたい日本

飯田)このタイミングで岸田総理が訪問しますが、日本側の狙いはどんなところにあるのでしょうか?

長尾)対中国戦略を考えたときに、やはりインドは重要なのです。今回、日本はG7議長国でしょう?

飯田)広島サミットで。

長尾)日本側としては、打ち出す西側諸国との協調路線のなかにインドを巻き込みたいのです。インドはG7のメンバーではありませんが、ゲスト国として呼ぶのだと思います。そこが関係してくるのです。

飯田)インドと。

長尾)ロシアによるウクライナ侵攻があって、G7各国とインドとの間では意見が違います。G7は対露制裁を掛けているけれど、インドは中立志向ですから、どう巻き込むかという話になります。

飯田)そうですね。

長尾)意見の違いを乗り越えても、対中国戦略には影響なく順調に進むのだと、固めていけるのだという状態をつくりたいわけです。

インドを含めたグローバルサウスへの支援をどう提示するか

長尾)カギになってくるのは、インドも含めたいわゆる「グローバルサウス」への支援になります。コロナがあり、そのあとロシアのウクライナ侵略があって、食料とエネルギーの価格が上がってしまった。最初に打撃を受けたのはグローバルサウスの国々です。インドも含め、それに対してどのような解決策を提示するのかという話になります。

岸田首相がインドを訪問することで、G20外相会合に林外相が欠席したこともインドとして面子が立つ

長尾)細かな話がもう1つあります。林外相がインドで開催されたG20外相会合に行けなかったですよね。国会側の要請があって。

飯田)欠席しました。

長尾)ですので、日本が開催国としてG7を開き、インドをゲスト国として呼ぶと、インドがキャンセル返しをする可能性があるのです。

飯田)キャンセル返しを。

長尾)行きたくても自分の国民に対する面子があるから、キャンセルされた相手に対してキャンセルしないと、面子が立たないわけですよ。しかし、今回「日本の首相がインドに行き、その返礼としてインドの首相が日本に行きます」となると、面子が立つのです。

飯田)なるほど。

長尾)そういう意味でも、G7より前に岸田首相がインドに行くのは、少し細かな話だけれど大事です。そういう話が背景にあるのだと思います。

中国とは緊張関係であるにも関わらずG20や上海協力機構(SCO)の議長国として迎え入れなければならないインド ~だからこそ西側に引き寄せたい日本

ジャーナリスト・須田慎一郎)長尾さんは先ほど「対中国戦略が重要だ」とおっしゃいましたが、インドと中国の関係を考えると、かつては中印紛争などがあって、いまでも領土問題を抱えています。軍事的な安全保障面も含め、いまはどういう状況なのでしょうか?

長尾)非常に緊張した状態にあると思います。インドと中国の間では領土問題があり、衝突もしてきました。2020年には、インド側だけで死者20名・負傷者76名が出る事件があり、その事件以降、両軍が最新の装備を並べて睨み合っている状態です。

飯田)衝突がありましたね。

長尾)ところが今年(2023年)、インドはG20議長国であり、「上海協力機構(SCO)」の議長国でもあるので、中国の首脳陣をインドに迎え入れて国際会議を開催しなければいけないのです。

飯田)中国の首脳陣を迎え入れる。

長尾)インドは「中国が国境地域での緊張を解かないと会わないぞ」という態度を示しているのに、自分の国に受け入れて話さないといけないという矛盾した状態にあり、微妙な舵取りをしようとしています。そういう環境にあるからこそ、日本としてはインドをこちら側に引き寄せたいのです。

対中国としてクアッドは軍事同盟ではないと主張したいインドの理由 ~一方で二国間の枠組みで印中国境の防衛力を強化

飯田)中国に対する部分でインドを引き入れたい。その枠組みとして日米豪印4ヵ国(クアッド)の存在もあると思います。これに対してインドの姿勢はどうなのでしょうか?

長尾)クアッドはとても重要だとインドは考えていると思います。インドと中国の国境は年々、軍事的な緊張が高まる傾向にあって、対処が必要だからです。

飯田)軍事的な緊張の。

長尾)同時に難しいのは、もしクアッドを強化し、それを宣伝してしまうと、中国がインドを攻撃する可能性が出てきます。もしクアッドの4ヵ国が協力して「軍事同盟だ」となり、中国を包囲しようとすると、中国側は4ヵ国を同時に相手にはできないので、1つずつ倒していかねばならない。

飯田)包囲しようとする国を。

長尾)中国が狙いやすいのはインドなのです。陸上に国境があって近いことが1つと、もう1つは、他の3ヵ国はアメリカの同盟国としてがっちり固まっているわけです。

飯田)インド以外は。

長尾)それに対してインドは新しく入っており、正式な同盟国ではないから、最初に切り崩しやすい。そのためにインドはクアッドについて、実際には軍事同盟として防衛力を強化したいのだけれど、「軍事同盟ではない!」と強調するのです。

飯田)クアッドは軍事同盟ではないと。

長尾)一方では二国間の枠組みで、アメリカ・オーストラリア・日本と共同演習をしたり、武器の取引をしたりして、印中国境の防衛力強化を行う。そういうことを実際に行っているのです。

飯田)印中国境の防衛力を強化するために。

長尾)もう1つだけ付け加えると、クアッドの対中国戦略は軍事だけではありません。経済面もあるし、技術開発競争もあります。そういう面は印中国境に影響しません。ですので、技術や経済安全保障などの話はクアッドでも前面に出てくるのです。

地域的な包括的経済連携(RCEP)にインドが入らない理由

飯田)日米豪印の枠組みの他に、東アジア全体としては地域的な包括的経済連携(RCEP)がありますが、インドは最終的にRCEPから抜けました。やはり中国がいると、なかなか入っていけない部分がありますか?

長尾)インドが抜けた理由として、「中国の影響力が拡大する」とはっきり言っているわけです。インドと中国の国境で軍事的に睨み合い、首脳間でも「緊張が解けない限り対面では会わない」とインドは言っています。「RCEPで一緒に経済交流しましょう」という雰囲気ではありません。

飯田)インドとしては。

長尾)もう1つあるのは、米中対立が激しくなっていくと、将来的に中国との貿易が打撃を受けるかも知れない。RCEPの枠組みだと中国との貿易が増えてしまうので、アメリカと中国の緊張が高まると、自動的に打撃を受けてしまうかも知れないという見方があるわけです。

飯田)米中の対立によって。

長尾)インドとしては印中国境問題もあるし、米中の将来予測もあるので、「RCEPは時代に合わない」というような見方があったのだと思います。それで「中国の影響力が拡大するから入りません」という態度を最後に示したのです。

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