中露首脳会談の最中での「岸田総理ウクライナ訪問」のインパクトは「とても大きい」 現地国営通信社の編集者が解説

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ウクライナの国営通信社ウクルインフォルムの編集者・平野高志氏が3月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理のウクライナ訪問について語った。

中露首脳会談の最中での「岸田総理ウクライナ訪問」のインパクトは「とても大きい」 現地国営通信社の編集者が解説

2023年3月21日、ゼレンスキー大統領による出迎えを受ける岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/21ukraine.html)

岸田総理がウクライナを電撃訪問、ゼレンスキー大統領と会談

ウクライナを電撃訪問した岸田総理は3月21日、ロシアによる軍事侵攻で多くの市民が殺害されたキーウ近郊ブチャを視察。その後、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行い、今後も最大限の支援を継続していく考えを伝えた。

飯田)平野さんはかねてから「岸田総理はウクライナを訪問するべきだ」とおっしゃっていましたが、今回の訪問をどうご覧になりましたか?

平野)「ようやく実現できたな」という感じです。「電撃訪問」と言われますが、関係者の間では「そろそろ訪問しないといけないだろう」という暗黙の了解があり、みんなで電撃をつくり上げたような訪問だったと思います。

飯田)今回、ブチャも訪問しましたが、訪問の行程自体はかなり練り上げられたものなのでしょうか?

平野)時間的なことを考えると、最初にキーウに到着してからブチャやボロジャンカを訪問し、ゼレンスキー大統領のところに行くというのがオーソドックスな訪問行程だと思います。

NATOの信託基金を通じて3000万ドルの非殺傷装備を提供

飯田)ゼレンスキー大統領との首脳会談後の会見模様がようやく出てきましたが、どんな内容だったのでしょうか?

平野)目玉のようなものは特にないかも知れませんが、細かいところでは重要なことが含まれています。例えば「北大西洋条約機構(NATO)の信託基金を通じた3000万ドルの非殺傷装備の提供を決めた」というのも新しい情報です。

飯田)NATOの信託基金を通じて、3000万ドルの非殺傷装備を提供すると。

平野)日本が非殺傷装備のためにお金を出せば、その基金のなかで、他の資金を殺傷武器の方に回せるようになり、間接的にウクライナ軍を支援することができるのです。ウクライナ軍支援に関しては2月24日以降、最初の方は日本も頑張っていたのですが、しばらく動きがなかったので、そういう意味では久々の軍事支援になると思います。

日本とウクライナで情報保護協定の締結へ調整開始 ~「特別なグローバルパートナーシップ」に格上げ

平野)もう1つ、あまり大きく取り上げられていないのですが、ウクライナとの間で「情報保護協定の締結に向けた調整を始める」ことを明らかにしました。情報保護協定はかなり真剣なもので、情報保護がないと情報交換ができないという意味では、真剣にウクライナとの間で「パートナーシップを強化していく」という立場の表れです。地味なのですが、かなり重要な発表です。

飯田)ウクライナとの関係もグローバルパートナーシップと表現していたようですが、関係を格上げし、情報保護協定まで進めるというのは、準同盟に近いようなイメージになっていくのでしょうか?

平野)同盟とは言えないですが。「グローバルパートナーシップ」とは以前から言われていて、今回はそれを「特別なグローバルパートナーシップ」に格上げしました。それが何を意味するかは私も分析しきれていないのですが、名前だけでなく、内容面からきちんと1つ格上げするということだと思います。

中露首脳会談の最中のタイミングで岸田総理が訪問する重要性 ~国際的にもインパクトはとても大きい

飯田)訪問のタイミングも注目されています。中国の習近平国家主席がロシアを訪問している最中ですが、この辺りのインパクトは現地でも感じられていますか?

平野)インパクトは大きいと思います。ロシアと誰かが会っていること自体、ウクライナにとっては好ましくないのに、そこへ中国が行くというのは、中国が武器を供与するのではないかと懸念されます。中国による「偽の平和」の提案のようなものにロシアが乗るのではないかと、非常に不安を駆り立てられます。実際にロシアは中国の提案に乗ってきましたし。

飯田)ロシアが中国の提案する「偽の平和」に。

平野)そのような不安を抱かせているなかで、アジアのもう1つの大国である日本がキーウにやって来て、ウクライナを支持する発言をしてくれた。それはとても大きなコントラスト・比較対象の形となる訪問になったと思います。ウクライナの方々も、それを特に強調して歓迎していました。

中露首脳会談の最中での「岸田総理ウクライナ訪問」のインパクトは「とても大きい」 現地国営通信社の編集者が解説

2023年3月21日、日・ウクライナ首脳会談~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/21ukraine.html)

中国がロシアに提案する「偽の平和」 ~G7サミットの前に訪問できたことは重要

飯田)「偽の平和」というキーワードがありましたが、国連でも林外務大臣が演説で使っていましたね。

平野)不当な平和である。領土を侵略し、自分たちが獲れるだけ獲って、相手が疲れたところで「停戦しましょう」と言うのは平和ではないということです。日本にも「即時停戦」を提唱する人がいますが、それは完全に侵略者を擁護する、侵略者の得になるような形での停戦であって、本当の平和ではありません。それが日本の立場であるとして林外相が国連で示しました。

飯田)国際的にも岸田総理のキーウ訪問が与えるインパクトは大きいと思われますか?

平野)もちろんG7サミット(主要7ヵ国首脳会議)の前に日本が訪問できたのは重要です。G7サミットでは平和についての話があると思います。そのときに「平和とは何か」についてウクライナの意見を聞いた上で、「G7としてどういう方向で平和を確立していくか」という協議をするためには、今回の訪問は重要だったと思います。

ウクライナ側が納得できる形で立場を一致させた共同声明

飯田)共同会見について「偽の平和」という部分、「不当な平和を認めない」という立場は、会見のなかでも言及されたのでしょうか?

平野)明確に平和の話までは出ていないのですが、岸田首相はロシアに対し、改めて「軍をウクライナ領から撤退させなければいけない」と会見のなかで強く呼びかけています。共同声明も先ほど公開されました。

飯田)そうですね。

平野)そのなかで「違法な領土の併合の試みは認めない」と両者が一致していることや、国際的に認められたウクライナの主権と領土一体性の完全回復、つまり「クリミアも含めたなかでの回復がグローバルな平和にとって極めて重要である」と書かれています。ウクライナ側が納得できる形で立場を一致させることができたという内容です。

飯田)平野さんはツイッターでも指摘されていましたが、金ぴかの宮殿で会談している中露に対し、日ウ首脳会談は戦いの現場で行われた。このコントラストもインパクトがありますよね。

平野)重要だと思います。まったく違う価値観を持つ国々が、いまアジアと欧州で面会し、まったく違う形の平和を目指してお互いの立場を見出した。今回の訪問はこのような象徴性を強調できたという意味でも、大成功だったのではないでしょうか。

「非殺傷装備の提供」について、「なぜ殺傷性の武器は提供してもらえないのだ」という質問も

飯田)現地メディアにも平野さんはご出演されていて、さまざまな質問を受けたと思いますが、「非殺傷装備の提供」について、現地ではどう捉えられていますか?

平野)「なぜ殺傷性の武器はもらえないのだ」というところの方が注目されました。「非殺傷装備の提供はありがたいけれど、殺傷兵器に議論が移行することはあるか?」というのが、すべてのメディアに共通した最初の質問です。「議論がないことはないけれど、残念ながら、そう簡単ではありません」と説明しました。

飯田)ウクライナが求めているものとなると、やはり「この戦争を勝ち抜くには」というところが注目される部分ですか?

平野)私は日本の人々がウクライナの勝利を応援していることを伝えるのですが、日本のなかでも「勝利のためには武器が必要だ」というロジックをすべての人が理解しているわけではないと思います。少し外側にいるような立場で、「他の国が支援してくれればいい」という意識があったり、「勝利までいかなくてもいいではないか」というようなところがあるかも知れない。そういう日本の揺れている立場を説明しました。

日本とポーランドが協力することでウクライナへの支援をいい方向に進めることができる

飯田)即時平和論のようなものは、ウクライナにとって受け入れられるものではないですよね。

平野)即時平和論の考え方だと、領土を捨てなければいけないことになりますからね。それは本当の平和ではないという話に戻ってしまうと思います。

飯田)総理はこのあとポーランドにも向かうということですが、日本として地域全体への支援の在り方は、どんなものがあるでしょうか?

平野)ポーランドは「戦略的パートナーシップ」を日本との間で締結しています。日本がこの地域の安定・安全を考える上で重要視している国であり、ポーランド自体もウクライナに対して武器供与を含めた大きな支援をしています。ポーランドと日本が協力することで、支援全体をいい方向に進めることができるかも知れません。そういう意味でもポーランドと話すことは重要だと思います。

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