今井、髙橋、そして平良 西武ライオンズ「自己主張系投手」たちの奮闘劇

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は好投が続く西武ライオンズ投手陣のなかから、今井達也、髙橋光成、平良海馬にまつわるエピソードを紹介する。

今井、髙橋、そして平良 西武ライオンズ「自己主張系投手」たちの奮闘劇

【プロ野球楽天対西武】7回 力投する西武・今井達也=2023年4月4日 楽天モバイルパーク 写真提供:産経新聞社

数年前まで強打の山賊打線が代名詞だった西武ライオンズはいまや昔。2023年、西武は投手力で覇権奪還を目指す。ソフトバンクのチーム防御率が1点台のため陰に隠れがちだが、西武のチーム防御率2点台前半も立派な数字だ。

その好成績を牽引するのは、ここまで2試合に投げて2勝0敗&防御率0.00の今井達也。そして、3試合に投げて2勝0敗、防御率0.39の安定感を誇る髙橋光成だ。

今井は4月13日のロッテ戦、8回1死まであわやノーヒットノーラン達成か、という好投を披露。最終的に被安打2の11奪三振。今季12球団いちばん乗りでの完封勝利を収めた。

一方の髙橋も、ここまでの3試合「8回・8回・7回」と試合終盤までマウンドに立ち、許した得点は開幕戦の6回に喫した1失点のみ。以降18イニング連続無失点を継続中だ。

この2人と言えば、獅子の立髪のごとく伸ばした「ロン毛」がトレードマーク。「ロン毛部」を結成し、髙橋部長のもと、「部員募集中です」と積極的なアピールをしていることでもお馴染みだ。実際、若手でも長髪に挑戦する選手、さらにはファンからの入部希望も届くなど、日増しに注目度を高めている。

この「ロン毛」、そして「甲子園優勝投手」の肩書きで入団した「ドラフト1位」であること以外にも、実は今井と髙橋の2人には共通点がある。今季に臨むにあたって球団に明確な「自己主張」「直談判」をして、ある意味、退路を断っていることだ。

今井の直談判は、背番号の変更。これまでの「11」から、昨季限りで引退した武隈祥太がつけていた「48」に変更した。自主トレではともに汗を流し、武隈の引退セレモニーでは大粒の涙とともに花束を渡したほどの間柄だった。

球団サイドから「やっぱり11番がいい、48番はやめてくれよ」と念を押されても、こう言って強い決意を示したという。

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『正直言って、11番をいただいてから6年間、あまりチームに貢献できていない部分が大半だったと思います。心機一転と言うか、先輩(武隈氏)の番号をいただいてマウンドに立つ時、今まで以上にモチベーションを持てるのではないかと考えました』

~『Full-Count』2022年12月1日配信記事 より(今井達也の言葉)

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そして、武隈先輩へのこんな思いも。

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『ドラフトで新しい選手が入ってきて、武隈さんを知らない選手が48を付けてプレーするくらいなら、自分が付けて武隈さんに恩返ししたい』

~『Full-Count』2022年12月1日配信記事 より(今井達也の言葉)

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まさに心機一転、高いモチベーションを保つことで、ここまでの好投に結びついているのだろう。

一方、髙橋の直談判といえば、将来的なメジャー挑戦だ。

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『自分の夢。メジャーでプレーしたいと強く伝えました。いつとかは、まだ決まっていませんが、自分の意思を伝えました』

~『Full-Count』2022年12月20日配信記事 より(髙橋光成の言葉)

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興味深いのは、髙橋の直訴の背景にも、今井同様に「先輩」の影響があること。元西武の菊池雄星だ。

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『一番は(元西武投手で現役メジャーリーガーの)菊池雄星さんと一緒に練習をさせてもらって、身近で感じたこと』

『雄星さんが自分の野球人生を変えてくれた。活躍して恩返ししたいですし、雄星さんを超えたい』

~『Full-Count』2022年12月20日配信記事 より(髙橋光成の言葉)

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もっとも、西武の渡辺GMとしても、簡単に首を縦に振るわけにはいかない。

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『よく頑張ってるというところだと思います…が、もう一つ物足んないなと、私は感じます』

『ポテンシャル、素質はあると思うので、11、2勝だと『ん?』ていう感じ』

~『BASEBALL KING』2022年12月20日配信記事 より(渡辺久信GMの言葉)

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振り返れば、菊池雄星は3年連続2桁勝利(2016~2018年)とタイトル獲得(2017年最多勝&最優秀防御率)という実績をつくり、晴れて2019年から念願のメジャー挑戦に至った。

それに比べて髙橋光成は、今季2桁に届けば3年連続2桁勝利とはなるが、まだ投手タイトルの実績はゼロ。過去2年の2桁勝利も、11勝9敗、12勝8敗と、大きな貯金は生み出せていない。

それでもメジャー移籍を実現するには、今年(2023年)、誰もが認める「結果」が求められるわけだ。まさに自分自身を追いこむ意味も含めてのメジャー宣言だったことが見えてくる。

西武では今井と髙橋以外にも、昨季の最優秀中継ぎ投手である平良海馬が中継ぎから先発への配置転向を直訴。渋る球団を押し切り、オープン戦防御率0.00という結果を出して、先発ローテの一角を見事に掴み取った。

見た目や自由な言動、自己主張ばかりが注目を集めがちなこの3投手。だが、結果を出せば正義なのもまたプロ野球の世界だ。むしろ結果を出すための下準備として自己主張している、と見れば、その精神的な逞しさも含め、彼らの魅力として応援したくなる。

何よりもその「自己主張」と「結果」の二兎を追うのが西武のDNAでもある。いま、若手選手たちの直談判を受け止める渡辺久信GMも、かつて「新人類」の流行語を受賞した球界ファッションリーダー。オシャレに夢中だった若かりしころを回顧した次の言葉こそ、若手投手たちに届いて欲しい。

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『そういう格好はしても仕事はしっかりやろうっていう雰囲気は持っていた。言いたいことは言いながら、仕事は仕事としてね』

~『日刊スポーツ・プレミアム』2023年2月3日配信記事 より(渡辺GMの言葉)

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この先の西武投手陣の投球内容と「自己主張」ぶりから、ますます目が離せない。

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