ジャーナリストの佐々木俊尚と慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が4月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。軽井沢町で開催されたG7外相会合について解説した。
G7外相会合が閉幕 ~共同声明で強い結束を確認
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長野県軽井沢町で開かれていた主要7ヵ国(G7)外相会合は4月18日に閉幕し、ロシアによるウクライナ侵略や、中国の力や威圧による現状変更に対し、強く反対することなどを盛り込んだ共同声明を発表した。
重要な概念である「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」 ~岸田政権の出している国際秩序のメッセージは強い
飯田)「世界のどこであれ」という言葉を林外務大臣も強調していました。自由で開かれたインド太平洋についても、相当長い時間をかけて討議したと伝えられています。全体をご覧になって、いかがでしょうか?
佐々木)林外相の言葉にあった「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」は、とても重要な概念だと思います。いま西側諸国はロシアに対して「ウクライナ侵攻をやめろ」と言っているわけですが、「グローバルサウス」と呼ばれるインドや中東、南アメリカの国々は、必ずしもそれに賛成しているわけではなく、意外と多くはロシア側についています。
飯田)そうですね。
佐々木)ある意味でイデオロギー的な対立、「ロシア・中国」対「アメリカその他」というような感じになる。日本国内では「アメリカ帝国主義はけしからん」と、「親ロシア」の言葉を言う人が出てくるわけです。アメリカが嫌いだからロシアに味方するというイデオロギーの対立に、みんな巻き込まれている部分があると思います。
飯田)イデオロギー対立に。
佐々木)それはよくないと思います。西側のアメリカ的なイデオロギー中心の国々というイメージではなく、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」ということにすれば、イデオロギーに関係なくさまざまな国が参加できるのです。
「法の支配を守ればどこの国でもOK」というメッセージ
佐々木)「法の支配」がいちばん重要だということを打ち出したのは、とてもいいと思います。
飯田)どの国にも「踏み絵」を踏ませないということでしょうか?
佐々木)そうですね。「中国だってもちろん入っていいですよ。ロシアも入っていいですよ」と。「法の支配を守ればどこの国でもOKですよ」というメッセージになっているのではないでしょうか。
飯田)ただ「法の支配」と言うだけではなく、「自由で開かれた」という概念も入っているので、「恣意的な運用はダメだけれどね」と、少し釘を刺している部分もありますね。
佐々木)そういう意味では、いまの日本の岸田政権、林外相の出している国際秩序のメッセージは強いと思います。
フランスとアメリカのオウンゴールで「揺れたG7」の結束を回復する使命のあったG7外相会合
飯田)細谷さんはいかがでしょうか?
細谷)G7外相会合の前に、フランスのマクロン大統領が中国を訪問し、やや中国寄りの声明を出したため「G7の間で対中政策が分裂しているのではないか」と言われていました。
飯田)ありましたね。
細谷)一方では、アメリカの「民主主義サミット」が世界を2つに分断しています。これは中国にとって非常に便利なのです。G7という1つの特権階級が自分たちだけ固まって、他の国に説教をしているのだと。
飯田)なるほど。
細谷)アメリカとフランスがやや「オウンゴール」のような形で、G7の分裂、ある意味ではG7が周辺化するような行動をした。そのため今回の外相会合は、「結束を回復する」という重要な使命があったと思います。
日本の外交の立ち位置が変わった ~根幹の議論を日本が設計して他の国が乗っかる
細谷)「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」は、あらゆる国が参加可能となる包摂的な概念なので、G7としての結束を回復すると同時に、国際社会全体で日本がリーダーシップを取って、より広いネットワークをつくる。そういった意味で今回、日本は上手くやったのではないでしょうか。
飯田)日本のリーダーシップで。
細谷)2019年のG20大阪サミットもそうですが、今回の共同声明を見ると、ほとんど日本がフレーミングしているわけです。外交でこの手の議論を日本がリードする。最も根幹の部分を日本が設計し、アメリカやフランス、イギリスなど他の国がそれに乗っかるという形です。日本の外交の立ち位置は、ここ数年で相当変わってきたと思います。
共同声明でウクライナ問題と同じ量で中国問題に言及 ~G7を上手く利用した日本
飯田)先日、アメリカ主導で民主主義サミットが行われましたが、中国は「ん?」と疑問に思っている。また、例えばベトナムやシンガポールなどのように、「民主主義と言われると手出しができないな」という国も出てきます。そう考えると、民主主義サミットはあまりいい手段ではないのでしょうか?
細谷)結局はアメリカの民主党左派であるリベラル向け、国内向けのメッセージですので、「世界でどう見られているか」という発想が欠落していました。アメリカの「オウンゴール」だったと思います。
飯田)世界でどう見られているかが欠如している。
細谷)それに対して今回重要だと思ったのは、ウクライナ問題と同量の分量で、共同声明で中国の問題に触れているというところです。
飯田)G7外相会合で。
細谷)ヨーロッパはいまウクライナ一辺倒になっていますが、実はより深刻な問題が東シナ海と南シナ海にある。尖閣諸島や台湾の問題で、一方的な力の威圧や現状変更に反対する。さらに「台湾海峡の平和と安全」という言葉も入っています。中国に対し、東アジアでの現状変更をさせないようなメッセージングが力強く入っています。
飯田)中国が脅威であることが。
細谷)いま、世界の問題はウクライナ戦争ですが、これから起きるであろう東アジアでの台湾、尖閣諸島の問題に国際社会の目を向けさせることは、中国にとっては嫌だったと思います。そういった意味では、日本はG7を上手く利用したと思います。
「グローバルサウス」という言葉を使わなかった ~アメリカからの問題提起もあり
佐々木)G7内で結束するだけではなく、中国問題に関しても、東南アジアやインドなどを巻き込んでいくのはとても大事です。そういった意味で、G7が偉そうに見えないようにすることは重要です。
飯田)G7が偉そうに見えないようにする。
佐々木)日経新聞の記事に今回、「“グローバルサウス”という言葉を使わなかった」と書いてあります。記事によると、アメリカから「グローバルサウスという言葉は上から目線ではないか」との問題提起があったようです。
飯田)アメリカから問題提起があったのですか。
佐々木)「偉そうだからグローバルサウスという言葉を使うな」と。アメリカもいいことを言うなと思いました。「グローバルサウス」と言った瞬間に南北問題的な、北から南を偉そうに見るような印象が入ってしまうのだと思います。
飯田)「お金を出して引っ張り上げてやる」というような。アメリカもわかっていないわけではないのですか?
細谷)やはり民主主義サミットのときに、アメリカの国内外からとても批判が出ましたから、いまアメリカはその点に関してセンシティブになっていると思います。
飯田)民主主義サミットの共同宣言に対して、6割しか賛成がありませんでしたよね。
細谷)多くの国が賛成しませんでした。ですから、とにかくアメリカの国務省を中心に、「最近のアメリカは上から目線ではないか」というような慎重さが出てきている。今回のサミットでは、日本と向いている方向が一緒だったのかも知れませんね。
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