WBC決勝「大谷抑え起用の裏側」を栗山監督が激白!

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、侍ジャパン・栗山英樹元監督が、ニッポン放送の公開生放送で語った、WBCの激闘にまつわる貴重なエピソードを紹介する。

会見に臨むWBC侍ジャパンの栗山英樹監督と、メンバーに選出された大谷翔平選手(手前)=2023年1月7日午後、東京都港区 写真提供:産経新聞社

4月22日・23日の土日2日間、日比谷公園内で、ニッポン放送のリスナー感謝イベント「Smile&Green やっと会えたね ニッポン放送 ラジオパーク in 日比谷2023」が4年ぶりに開催されました。

22日には、オープニングイベントとして『八木亜希子 LOVE & MELODY』(毎週土曜日8:30~11:00放送)の公開生放送が行われ、10時台のゲストに、侍ジャパンを14年ぶりの世界一に導いた栗山英樹元監督が登場。八木さんとリスナーからの質問に率直に答えながら、WBCの激闘について振り返ってくれました。筆者もスタッフとして会場にいましたので、その際に聞いた貴重な話を再録します。

栗山さんが会場に登場するやいなや、観客から大きな拍手が起こり「おめでとう!」「感動をありがとう!」という感謝の声もあちこちから上がりました。WBCから帰国後、メディアへの出演依頼が引きも切らない栗山さんですが、観客の前に立ったのは、3月30日に日本ハムの今季(2023年)開幕戦で始球式に登場したとき以来。客前でトークをしたのは、帰国後これが初めてでした。

栗山さんも「ありがとう!」と直接声を掛けられたのは初めてだったそうで、「皆さん、応援、本当にありがとうございました!」と改めてファンに直接感謝の意を伝えるシーンもありました。

そんな栗山監督に、八木さんが「大谷翔平選手や、村上宗隆選手の話も聞きたいけれど……やっぱりこの人!」とリクエストしたのは、昨季(2022年)までオリックスに在籍した、レッドソックス・吉田正尚の話です。

家族がオリックスファンで、その影響で「正尚推し」になった八木さん。大会MVPに輝いたのは大谷でしたが、13打点を挙げ、WBCの大会史上最高打点を記録した吉田は「陰のMVP」とも言われました。メジャー移籍後も、4月23日に「1イニング2ホーマー」の記録をつくるなど、レッドソックスの主軸として活躍しています。

栗山さんも「正尚がいなかったら、本当にヤバかった」と吉田の働きを高く評価。準決勝のメキシコ戦、0-3と敗色ムードが漂い始めた7回に、吉田が右翼ポール際に放った起死回生の同点3ランについて、八木さんに「あのときはどんな心境でした?(ホームランと)確信してました?」と聞かれた栗山さんはこう答えました。

「(右翼ポールに)『当たれ!』って思ってました。(入ったかどうかは)角度的にも全然わかんなくて」

打球が右翼ポール際に飛んだため、栗山さんがいた一塁側ベンチの位置からは、打球の行方がよく見えなかったそうです。見えていた選手たちの「やった!」というリアクションや、右翼手のガックリする様子を見て、初めてホームランとわかったとのこと。

「本当になんか、生き返った感じだったですね」

八木さんが吉田選手の素顔について尋ねると、栗山さんは「彼はどんな状況でも微動だにしませんね」「常に自分のやるべきことに集中して、細かいルーチンワークをたくさん持っていることに驚いた」と語りました。

日本ハム監督時代は、オリックスの主砲だった吉田に何度も痛打を食らったという栗山さん。だからこそ侍メンバーに招集したわけですが、実は吉田のレッドソックス入団が決まった際、いったん招集を断念したそうです。

大谷ですら、メジャー移籍1年目は新しい環境に慣れるまで時間が掛かったのに、吉田がキャンプを途中で切り上げてWBCに参加したら、シーズンに影響してしまうからです。吉田のためを思い「今回は外すよ」と直接電話をしたところ、吉田から返ってきた言葉は意外なものでした。

「『監督、何言っちゃってるんですか? メジャーも夢だけど、この日本代表は僕の夢なんです』って言われたときに、なんかめっちゃ(心に)刺さっちゃって。『じゃ、行くぞ!』と」

吉田ほど、内に秘める熱さと外見的なクールさが同居している選手も珍しいと高く評価する栗山さん。八木さんに「準々決勝のイタリア戦で村上選手を4番から外したとき、代わりに吉田選手を4番に選んだ理由は?」と聞かれると、「4番に対して熱い思いを持っている村上を、個人的には外したくなかった」と苦渋の選択だったことを告白。

「でも監督としては(チームを)勝たせなきゃいけなくて、どうやったら勝つか、っていうことを考えなきゃいけない」「準々決勝から完全トーナメント、(一発勝負の)甲子園大会になると思ったので、戦い方を変えようと思った」と、あくまで打線のつながりを優先に考え、大谷か吉田かの選択で、最終的に吉田を4番に選んだ、と語りました。

驚いたのは、イタリア戦の直前、村上本人には「4番を外す」と電話で伝えましたが、吉田には試合前のミーティングまで一切伝えなかったそうです。選手の前で栗山さんが先発オーダーを読み上げた際、「4番・吉田正尚」のところで部屋が一瞬「シーン」となったとか。事前に本人に伝えなかったのは、吉田が動じずに4番の仕事を務めてくれるはず、という信頼感があったからこそ。また吉田も、指揮官の期待にみごと応えてくれました。

ところで今回、八木さんが「どうしてもこれだけは栗山さんに聞きたい」と用意していた質問がありました。アメリカとの決勝戦、9回表、DH(指名打者)で出場していた大谷が抑え投手としてマウンドに上がった場面……ご存知のように大谷は2死後、エンゼルスの同僚・トラウトから三振を奪い、日本の世界一奪還が決まりましたが、あの場面は1点差。ホームラン1本で同点に追いつかれる可能性もありました。

八木さんは9回表、栗山監督が大谷をマウンドへ送ると同時に、守備固めで、レフトを守っていた吉田を交代。センターのヌートバーをレフトへ回し、空いたセンターに牧原を入れた采配を見て「絶対にここで決める!」という指揮官の決意を感じ、鳥肌が立ったそうです。

ただこの采配、リスクを負った選択でもありました。もしアメリカが9回表、同点に追い付くか逆転した場合、その裏の日本の攻撃は9番から始まります。上位に回っても、4番・吉田はすでに交代させていますので打席には立てません。

「もし万が一、同点になったときのことは考えなかったんですか?」という八木さんの質問に、栗山さんはこう答えました。

「『勝つ』と決めてすべてのリスクを背負わないと、神様は勝たせてくれないと思いました。中途半端なことをやっていたら、勝たせてくれない勝負だと」

「『同点になる』と不安になってしまったら、その気持ちに結果が引っ張られてしまうと、僕は思っているので。さらに『ここで決める』というメッセージは選手にも送っていますし、翔平にも『俺のすべてを託した』と伝えました」

やはり、4番・吉田を交代させ、退路を断ったあの采配は、選手たちへの『絶対に決めるぞ』というメッセージだったのです。また、大谷が追い込まれれば追い込まれるほど力を出す性格、ということを見越した上での采配でもありました。

もう1つ驚いたのは、栗山さんには前々から“優勝した瞬間”がイメージとして見えていたそうです。

「優勝した瞬間の映像が浮かんでいる、っていうことを、1年前から記者には結構言ってたんですね。ただ、誰が投げているというのは、いろいろな選手の心のなかがあるから言ってこなかったですけれど、まさにあのシーンをイメージしてそういう状況になったわけですから、勝つならこれしかないと」

つまり栗山さんは、最後に大谷が決勝戦のマウンドに上がって優勝を決める姿を頭に思い描きながらチームづくりを進め、それを現実にしてみせたのです。まさに究極のイメージトレーニング! この強い信念が、14年ぶりの世界一の原動力になりました。

最後に、八木さんから「大谷選手との物語の“シーズン2”はありますか?」と聞かれた栗山さん。

「世界ナンバーワンになる選手だと預かって、10年後に世界一になるっていう、ドラマ的には素晴らしい完結って感じですよね。“シーズン2”はあるのかな? ありだと思います?」

……と、観客に逆質問した栗山さん。次回WBCで再び“師弟コンビ”が侍のユニフォームに袖を通す可能性も、十分ありそうです。

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