外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米バイデン大統領の原爆資料館訪問について解説した。
アメリカのバイデン大統領が5月19日、原爆資料館を訪問
米ホワイトハウスは5月17日、広島で19日に開幕する先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)に合わせ、アメリカのバイデン大統領が他の首脳とともに広島の平和記念資料館(原爆資料館)を訪問。現職のアメリカ大統領の資料館訪問は、オバマ元大統領以来2人目となる。
飯田)オバマ氏は2016年に資料館を訪れています。伊勢志摩サミットの直後でしたが、今回はサミットそのものが広島で開かれます。核廃絶の議論について、特に地元では注目されていますが、どうなっていくのでしょうか?
宮家)アメリカの大統領が広島を訪れ、原爆資料館に行くということ自体が、アメリカ国内では政治問題になったわけです。オバマさんが最初に行ったときはそうでした。
飯田)当時。
宮家)しかし、それでよかったと思います。今回は2度目ですけれど、やはり象徴的な意味があると思うのです。この問題について、2つのポイントがあります。1つは核廃絶、核のない世界をどのように取り扱うかということです。
飯田)核なき世界を。
オバマ元大統領の広島訪問で進んだ日米の和解 ~謝罪しなくても和解は可能
宮家)もう1つ、その前に申し上げたいのは、やはり日米の和解がオバマさんの広島訪問で進んだということです。
飯田)オバマ元大統領の訪問で。
宮家)そのあと、もちろんパッケージではありませんが、当時の安倍元総理がオバマさんと一緒に真珠湾へ行ったわけです。先日、ある会合で話をしていたら、「岸田総理はバイデンさんに広島で謝罪させるべきだ」という声がありました。
飯田)バイデン大統領に。
宮家)私はそれに対して、確かにそれも1つの考え方だろうと。しかし2016年当時、オバマさんは謝罪しませんでした。安倍さんも真珠湾へ行った際に謝罪しませんでした。
飯田)安倍元総理も謝罪はしていませんね。
宮家)「謝罪する」ということも1つの方法かも知れませんが、お互いに謝罪しなくても、和解は可能なのです。そういう意味で、安倍さんのやり方は正しかったと思うし、今回バイデンさんは他のリーダーとともに、おそらくより長時間、資料館を見ていくでしょう。バイデンさんのこれまでの経歴から考えても、基本的にリベラルな人ですから、よくわかっていると思います。それでよかったのではないでしょうか。これが和解の部分です。
飯田)謝罪しなくても和解は可能だと。
宮家)そして和解という観点から言うと、日韓でもこれからプロセスが進むかも知れない。尹大統領と岸田さんは「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」を参拝されます。それは大事だと思います。
「被爆の悲惨さ」をメッセージとして出せるのは広島だけ
宮家)もう1つ、「核のない世界」ですが、理想は核のない世界がいいに決まっています。しかし、実際に核で恫喝してくる国がいくつかあるわけです。そうすると現実問題として、核のない世界を目指すことは目指すのだけれど、まず広島で行わなければならないのは、「核を使うと、このような悲惨なことになるのだ」と、「それでもやるのか?」という強いメッセージを出すことです。このメッセージを出せるのは広島と長崎だけなのです。
飯田)広島と長崎だけですね。
宮家)それをG7のリーダーたちが共有することも極めて大事です。おそらく「核のない世界という究極的な目標」という言い方になると思いますけれど、その精神を維持しながら、ロシアのプーチンさんなり、他の核を使いそうな国に悲惨さを訴え、理解を深めてもらう。それが大事なメッセージだと思います。
飯田)資料館に残された被爆者の方の声や記録が訴えかけるものの大きさは、あの場所に行くとわかりますよね。
宮家)私も学生のときに初めて原爆ドームを見て、イナズマで頭を打たれたような衝撃を受けました。それはG7のリーダーも同じだと思います。あの場に立てば、「ここだったのか」と、きわめて大きな意味を持つ。そのメッセージが伝われば、それだけでもかなりの成功だと思います。
オバマ元大統領の広島訪問が「和解」への第一歩だった
飯田)2016年にオバマ元大統領が訪問した際、私も取材していたのですが、オバマさんは被害者の方々の肩を抱きました。その姿に対してアメリカ国内で批判があったわけですけれども、我々日本人から見ると、あの光景を見たとき、人間というのは進歩するのだと思いました。
宮家)ただ単に同盟を結んで、首脳が往復すればいいわけではないのです。日米が本当に和解するためには、言い方が難しいのですけれど、真珠湾と原爆投下の問題について、何らかの心の整理をしなくてはいけなかった。幸いなことに、それが2016年に始まりました。非常に大きなことだったと思います。
飯田)そうですね。
宮家)謝罪の件も大事ですけれど、オバマさんが被害者の方の肩を抱いた写真を見たときに、我々はどこか救われたのではないでしょうか。それが国家同士の和解の第一歩なのだろうと思います。私は個人的に、日韓にもいずれそういう時代がくると思っています。時間は掛かりますけれど。
日米の「和解」の次のチャプターが始まっている
飯田)直前には、アメリカの上下両院合同会議で安倍元総理の演説があり、「希望の同盟」という言葉が使われました。「謝罪であるとか、うしろを見るのではなく、前を見ていこう」と。戦後70年談話にもそのメッセージが入っていたと記憶しています。「前を向いていくためにどうするべきか」ということこそ、G7で議論して欲しいです。
宮家)特に当時のことを考えると、いまの中国、そしてロシアの動きを見て、あのとき「あのような形でやっていてよかった」と思いました。あれがうまくいかず、日米関係がギクシャクしていたら、現在のようにはいかないわけですから。そういう意味では、やはり歴史的なことをされたのだなと思います。そして、「次のチャプターが始まっている」と考えるべきだと思います。
進化させる平和主義
飯田)岸田さんに対して批判的に見る向きの方々は、「安倍さんの遺産で食っているだけだ」というようなことを言いますが、まさに「G7サミットで何を出すか」が大事でしょうか?
宮家)確かに安倍さんが方向性を示したことは事実でしょう。しかし、安保3文書をつくり、防衛費をGDP比2%に増やすことは、口で言うのは簡単ですけれど、実行するのは大変なことだと思います。
飯田)そうですね。
宮家)米誌「タイム」のなかでも「天才的な仕事をした」と書かれています。ですから批判はあるでしょうが、やるべきことを行っているのではないでしょうか。
飯田)あれもパシフィズムという言葉を平和主義と訳し、「平和主義を捨てて」というような批判がありましたけれど、むしろこれは脱皮ですか?
宮家)平和主義を進化させているのだと思います。日本の平和主義は変わりませんが、「進化させる平和主義がある」ということです。
飯田)進化というのは、進む意味も深める意味もあるということですか?
宮家)進んで深めるということです。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。