ジャーナリストの有本香が5月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。選挙協力をめぐり、再び幹事長が会談することになった自民党と公明党の今後の関係について解説した。

国会内で取材に応じる公明党の石井啓一幹事長＝2023年5月30日午後、国会内　写真提供：産経新聞社

自民・公明の選挙協力をめぐり、再び幹事長会談を開催

公明党が東京での全選挙協力を解消すると自民党に通告したことをめぐり、自民・公明両党の幹事長が5月30日、再び会談する。

飯田）発端は小選挙区の10増10減から始まりました。

伏線は都政において公明党が都民ファーストと組んだころからあった

有本）東京には約30の選挙区があるわけですから、そもそもここは大事なのです。ただ、公明党は東京に関して、「もしかしたら匕首を突き付けてくるのではないか」という伏線は数年前からありました。

飯田）数年前から。

有本）というのは、数年前に小池さんが都知事になってから、公明党は都政では都民ファーストと組んでいます。自民党を捨てたわけです。

飯田）そうですよね。

有本）公明党は国政よりも、東京都議会の方が自民党と連携してきた歴史は長かった。それなのに自民党を捨てたわけですから。

東京では公明党の票をあてにしてきた自民党

有本）しかも自民党は東京において、小選挙区が強くない。

飯田）東京においては。

有本）大阪もそうですが、都市部に弱いわけです。そのなかで公明党の票をあてにしていた。もちろん選挙区にもよりますが、多いところでは2万票ぐらいが公明党の票で上乗せになっているわけです。小選挙区の自民党の候補者としては、これを失うのは非常に痛いという認識が前提にある。

飯田）その2万票でひっくり返ってしまうわけですよね。

有本）都政あるいは都議会において、自民党は公明党から既に捨てられているのです。そうした状況のなかで、「いつ東京で公明党が自民党に匕首を突き付けてくるか」という伏線がまずありました。

飯田）国政でも。

東京12区の公明党の候補者を応援してきた自民党

有本）全国の他の地域の皆さんにはわかりにくい問題かも知れませんが、自分たちが弱い東京で、いままで北区を中心とした東京12区に関しては、公明党の候補を自民党がずっと応援し続けていた。つまり、自民党の候補が出ない選挙区だったわけです。

飯田）もともとは公明党の代表を務めていた、太田昭宏さんの選挙区ですよね。

有本）そうです。みんなで太田さんを応援するという形で、自民党の候補を立てなかった。自民党は言ってみれば12区を犠牲にすることで「公明党さん、他のところはお願いしますよ」という話だったのです。

飯田）そこにも当然、地盤の都議さんや区議さんがいて、「俺たちは公明党さんを応援するのだ」と動く。

有本）そうです。本当は、地元としては自民党も出したいのですけれどね。ここで生まれ育った高木啓さんは、もし今回も比例で当選すれば3期目になるのですが、この方もずっと自民党のために公明党の候補を応援し続けてきたわけです。

東京28区のかわりに12区か15区の擁立を提案したが

有本）本来であれば高木さんの支援者も、自分たちの候補として高木啓さんを担げるチャンスだから出したいわけだけれど、自民党は公明党に対して「もう1回、12区を差し上げますから、28区は思いとどまってください」と言っているわけですよ。変な話ではないでしょうか？

飯田）28区は新たにできる選挙区です。

有本）そうです。12区は言ってみれば返ってきたのですから、そこで独自候補を立てればいいではないですか。いままで自民党は選択肢を与えてこなかったわけだから。まずそれが1つ。

東京28区に萩生田政調会長を立てようとしていた自民党　～東京28区を引き締めたい公明党

有本）全体としては、「茂木幹事長の調整力不足」と言われるであろう事柄です。どう落ち着くのか。

飯田）選挙は最終的に幹事長ですからね。

有本）公明党は28区がどうしても欲しい。さらに太田さんの後釜として前回、12区に立った岡本さんは29区に移っているのです。

飯田）29区はちょうど12区の隣で、足立区ですよね。

有本）そうです。そこは強いですからね。

飯田）先日の足立区議選では、第1党を公明党が獲りました。

有本）自民党は現職も含めてバタバタと落ちた。

飯田）3分の1が落ちてしまった。

有本）足立区は多分、いろいろな意味で公明党の選挙区になっていくのでしょう。自民党としては28区に立てようとしていた人がいるわけですが。

飯田）28区は練馬の辺りです。

有本）その人が、東京都連の会長である萩生田さんです。

飯田）萩生田政調会長。

有本）萩生田政調会長は八王子が地元ですけれども、そことつながりがある人で、自民党は28区を何とか引っ張りたい。公明党としては「28区をくれ」という話になっているので、簡単には決着しないと思いますけれども。

飯田）公明党にとっても、練馬の辺りは前回の選挙であまりうまくいかなかった地域です。そこを引き締めたいという思惑もある。

有本）引き締めたい。また自民党にとっても、練馬は近い過去にいろいろあったところなので。

飯田）もともとは東京9区だったはずですよね。

有本）9区は経産大臣も務めた菅原一秀さんの地元ですが、一秀さんはまだ公民権停止でしょう？　そういう状況なので、ここに入ってきた流れがあるわけです。

飯田）なるほど。

有本）さらにややこしいのですが、江東区を中心に、いま発展著しい東京15区があって、いまは自民党に入った柿沢未途さんの選挙区なのです。

飯田）柿沢未途さんの。

有本）柿沢さんは強いのです。私も柿沢さんに問題がないとは言わないけれど、要するに柿沢さんとのしこりがあって、「この人を候補者として認めたくない」という思いもあるのでしょうね。

都内で開催された日経フォーラム第28回「アジアの未来」晩さん会に出席、講演する岸田総理　2023年5月25日　首相官邸HPより　https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202305/25asia.html

28区の代替案の12区・15区、どちらも思い入れのない公明党

有本）公明党に対する28区の代替案として「12区・15区のどちらかはいかがですか？」と言っているけれど、公明党としては、江東区にはそれほど思い入れがない。また12区は「あなたたちに返したでしょう？」ということだから、なかなか簡単には落ち着かないですね。

飯田）なるほど。

有本）それも含めて、一連の内容は茂木幹事長の責任という流れになっていくのでしょう。私の予測もある程度ありますが、岸田総理も腹を括りつつあるのではないでしょうか。東京はもう仕方がないかなと。

自民党の生きる道として、「東京で腹を括る」こともある　～東京は公明党なしで選挙を戦う

有本）あまり全国で影響を大きくしないように考える。特にある意味、公明党との連携が重要になってくる地域があります。そこを何とかきちんと進めるために、東京は仕方がないのではないかと。

飯田）他地域の連携のためにも東京は仕方ない。

有本）そうなると、東京の小選挙区では負ける可能性があるのですが、いいことの1つは「公明党なしで選挙をやってみる」ということですよ。

将来的なことを考えれば、いつまでも公明党と一緒にいることは日本のためになるのか　～公明党との方向性に開きが出てきた

有本）自民党の将来を考えれば、「公明党と一緒にいることが日本のためになるのか？」と思います。「自民党は自分たちのアイデンティティをどこに持っているのだ？」ということです。言ってみれば選挙をネタに、公明党に鼻面を引き回されている感じがある。憲法改正に関しても、公明党は明らかにブレーキでしょう。

飯田）公明党は加憲という立場ではあるけれど、安全保障などに関しては「我々は平和の党なのだから」というところがあります。

有本）加憲についてもやや否定的なことを、特に安倍元総理が亡くなってから言い始めています。そういう意味では、方向性に開きが出てきているわけです。

飯田）自公の間に。

有本）だから東京は相当打撃を受ける可能性があるけれど、東京で腹を括ることも、生きる道としてはあるのではないかと思います。

公明党との関係を見直す「いい機会が訪れた」と思うべき　～気になる日本維新の会の東京での存在

有本）そうなったときに「東京でどこが伸びてくるのか？」と言うと、考えられるのは維新です。浮動票が多いだけに、比例で票を獲る可能性があります。

飯田）統一地方選でもよかったという話です。

有本）維新に関しては、懸念しなければならないことはたくさんあるのですが、公明党と比べたときに「どちらが自民党にとっていいのか？」ということですね。自民党にとってというか、「日本にとって」ですよね。

飯田）公明党は今度、大阪では維新対公明になるかも知れない。

有本）例えば直近だと、入管難民法の改正案などに関して、維新はまともな論陣を張っています。これは国民の安全にも直結することであり、出入国管理はまさに国の主権の問題で、これに関しては極めてまともな論を展開している。

飯田）入管難民法の改正案については。

有本）もちろん、中国やロシアとの関係については懸念されるところが維新にもあるけれど、公明党にはないのかと言うと、そうではない。自民党としては、「公明党との関係をしっかり見直すいい機会が訪れた」と思うべきでしょうね。