アメリカとの国防相会談を拒否した中国の「勘違い」

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が6月2日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。シンガポールで開催される「アジア安全保障会議」について解説した。

アメリカとの国防相会談を拒否した中国の「勘違い」

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年4月6日 AFP=時事 写真提供:時事通信

アジア安全保障会議

49ヵ国から600人以上の代表者が参加する「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」が、6月2日~4日までシンガポールで開催される。中国はアメリカとの国防相会談を拒否したが、本会議や各国の国防相による演説の傍らで行われる多くの二国間、多国間の軍当局同士の対話は非常に貴重な機会とされる。

飯田)中国は国防相会談を早々に拒否しました。

本会議の傍らで行われる各国間での対話は貴重な機会 ~中国がアメリカとの国防相会談を拒否

宮家)シャングリラ・ダイアローグはイギリスのシンクタンクが開催しています。昔は小規模でしたが、徐々に大きくなってきました。演説自体は政策的に面白いこともあるけれど、それほど重要ではないのです。

飯田)内容が。

宮家)シャングリラ会議は、アジア関係者を中心に、国防・安全保障の関係者が集まり、演説の合間に公式な会談や意見交換をすることが売りなのです。

飯田)軍当局同士の対話が。

宮家)今回、アメリカは中国と対話したかったのでしょう。決してアメリカは中国との対話を拒否しているわけではありません。冷戦時代の米ソでも、しっかり対話していたわけです。

飯田)冷戦時代の米ソでも。

宮家)なぜ対話するかと言うと、物事を解決するためではありません。解決などするわけがないのです。問題は、向こうも核を持っており、こちらも核を持っている。1つ間違えたら大変なことになるではないですか。だから、とにかく顔を見て、相手が何を言うか話を聞き、「また前と同じことを言っているな」と思えればOKです。しかし、「何かおかしなことを言っているぞ」と感じたら、信頼醸成は吹き飛ぶし、米中間で誤算が始まるわけです。

飯田)「前と違うな」と思うことで。

宮家)信頼醸成を保ち、誤算を回避するのが対話のポイントですから、アメリカはそれをやりたかったのだと思います。

飯田)相手が何を考えているのかを理解する。

宮家)それがいちばん大事です。あと10年も20年も喧嘩は続くのですから。

中国がアメリカとの国防相会談を拒否した本当の理由

宮家)問題は、中国がそれに反発したことです。広島であれだけ甚振られてしまったので、中国側からすれば当然なのかも知れません。あの余韻は残っているかも知れない。

飯田)G7広島サミットで。

宮家)ある人が言っていたけれど、中国の国防相はアメリカの制裁対象になっているのですよね。

飯田)そのようですね。李尚福氏に対して。

宮家)「そんな状態で会いに行けるか」という意見もあるのですが、それが大きな理由だと私は思いません。もっと大きな流れを勝手に私が読むと、中国は、かつての日本の軍部と同じような間違い方をしているのではないかと思います。あくまで仮説ですが。

飯田)かつての日本軍部と。

宮家)日本の軍部も常にそうだったわけではないですが、中国人民解放軍からすると、アメリカに追いつくまでは、下手な対話をして政治的に妥協するような事態は避けたい。

いまはアメリカと対話せず強硬に出ることが有利だと勘違いする中国 ~偵察機への攻撃も偶然ではない

宮家)いまはアメリカと話さず、強硬に出ることが有利だと思っているのではないでしょうか。制裁のこともあるかも知れませんが、話がこじれたのはアメリカが気球を撃ち落としてからです。

飯田)偵察気球を。

宮家)あんなに大きいものをアメリカ本土に送る方も送る方です。それでも最近少し静かになったと思ったら、報道にあるとおり、会合の直前に中国の戦闘機が南シナ海の上空で……ここはアメリカの偵察機がいつも飛んでいるけれど、その偵察機へ不必要に近付いていき、攻撃的に目の前を横切ったわけです。

飯田)中国の戦闘機が。

宮家)危険な行動を取った。アメリカは当然、反発しますよね。要するに中国は常にテストしているのです。強硬に出ることで、「有利になっている」と勘違いしているのではないかと思います。

南シナ海で米偵察機に中国機が異常接近したのは「意図的」

飯田)沖縄でスクランブルを行っている航空自衛隊の方々に話を聞くと、昔は技量を見せたいがために危険な飛行をする中国のパイロットもいたけれど、いまは統制が取れているようです。そう考えると、今回の行動が軍部の上からの指示だとすれば、危険度は高いですよね。

宮家)上から命令が出たかどうかはわからないけれど、意図的に行っているのは間違いないと思います。「不可抗力で間違えてしまった」という話ではありません。メッセージを送っているつもりなのです。昔の日本も同じようなことをやっていた気がします。「そんなことをして、本当に対話が途絶えてしまってもいいのか?」と思います。

飯田)挑発して相手から最初の1発を撃たせる姿勢は、非常に危険ですよね。

宮家)それはアメリカの方が得意ですけれどね。中国は絶対に最初から撃ちたくはないし、先に手を出せば大変なことになりますから。ギリギリのところで戦わずして圧力を掛け、有利に勝とうとしているのだと思うけれど、申し訳ないですが、あまりうまくいかないと思います。

上からの了解がなければ何も動かない中国 ~今回は「アメリカとの対話は拒否する」というのが答え

飯田)米中間には一応、ホットライン的な意思疎通のチャンネルはあるのですか?

宮家)ホットラインはあるようですが、片方が出なければ、または回線を切れば終わりです。あまり使っていないかも知れません。

飯田)いまは。

宮家)ただ、米中の間で何もないということは考えられません。当然、大臣クラスに届くまでには、事前に事務的なコンタクトを常にしていると思います。しかし、日本政府ではそういうことはないのだけれど、中国政府の場合、下には裁量や権限がないので、上がOKしない限り、下は拒否するしかないわけです。コンタクトはあるけれど、おそらく進まない。

飯田)コンタクトはあるけれど。

宮家)中国の場合、私の経験で言うと、上が「動かす」と決めた瞬間、「スルスル」と動くのがよくあるパターンです。そういう意味では、今回は上から指示がきていて、「やらない」という方向で動いたのだと思います。

飯田)拒否すると。

オースティン国防長官と浜田防衛大臣が会談

飯田)この機会に、いろいろな仲間同士でのすり合わせが大事になっていく。

宮家)アメリカの国防長官が日本に来て、6月1日には防衛大臣と国防長官の会談がありましたよね。

飯田)オースティンさんと浜田さんの。

宮家)北朝鮮が衛星だと主張したものを打ち上げた直後だから、やはり核の抑止力を確認するのでしょうが、これは定番です。

変化してきた日米同盟における日本の役割

宮家)同盟の役割とは何か。任務の分担や、どのように防衛協力を行うかが議論されています。昔もそうでしたが、当時はどちらかと言うと抽象的な話が多かったのです。日本には、できることとできないことがある時代だったからです。

飯田)できることとできないことが。

宮家)アメリカは同盟国なのだから、積極的にいろいろやろうと言います。それに対して日本は、「それはできない」、「それもできません」、「ここならいいです」というような話ばかりしていた。

飯田)かつては。

宮家)しかし、最近の状況を見ていると、その部分の制約が相当なくなってきました。本気で日米が抑止力を発揮するために、一体何をするのか。トマホークを買うのなら、どこに置くのか、在日米軍はどういう形で連携するのか……というような具体的なことを議論している、なぜなら一緒に戦う必要がありますからね。「本当に始まったな」と最近思います。それでも間に合うかどうかはわかりませんが。

アメリカが台湾に大量の武器を送り始める

宮家)面白いのは、台湾の国防相が誰からも聞かれていないのに、「台湾に来るべき武器がウクライナにわたっていて、犠牲になっていると言われているけれど、そのようなことはない」と言っています。なぜ急にそんなことを言うのでしょうか。

飯田)問わず語りに。

宮家)本当に武器がないのかどうかはわかりませんが、つまり、アメリカはおそらく相当な武器を台湾に送り始めているのです。なぜ送らなくてはいけないかと言うと、台湾にはポーランドのような国がないからです。陸上で補給できないから、ある程度、島のなかに武器弾薬を予め入れておかなければなりません。そう考えると、いまから動いても遅いかも知れない。そういう時代に入ってきたのだと思います。

マルコス政権になって変わったフィリピン

飯田)日米に関しては、オースティンさんが日本に寄って会談していますが、シャングリラ会合のタイミングで日米豪とフィリピンが会談します。

宮家)フィリピンもマルコス政権になって、かなり変わりました。

飯田)マルコス政権になって。

宮家)やはり中国の南シナ海での動きは危ない。前のドゥテルテさんはアメリカが嫌いでしたが、マルコスさんになってからはスムーズに進むのではないでしょうか。日本が果たす役割も非常に大きいです。

飯田)マルコスさんのお父さんのご夫妻は、アメリカに亡命しました。そういうつながりもありますよね。

宮家)フィリピンも変わっていくのです。

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