ウクライナ研究の第一人者で神戸学院大学経済学部教授の岡部芳彦氏が6月26日、ニッポン放送「辛坊治郎　ズーム　そこまで言うか！」に出演し、辛坊と対談。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の武装反乱に対し、プーチン政権がワグネルを率いるプリゴジン氏らの行動を不問にする超法規的措置をとったことを巡り、「プーチン大統領が法を無視する人間だと明らかになった。ロシア解体の第一歩になる可能性もある」と解説した。

（左）Wagner Group Yevgeny Prigozhin Leader Threatens Russian Military Leaders May 5, 2023, Bakhmut, Donetsk Oblast, Ukraine: Russian Yevgeny Prigozhin, owner of the Wagner Group of mercenaries broadcasts a tirade against Russian Defense Minister Sergei Shoigu accusing the military command of starving his forces of ammunition and supplies, May 4, 2023 near Bakhmut, Ukraine. Prigozhin, standing in a field of bodies of his soldiers killed in battle threatened to withdraw from the frontlines. (Credit Image: © Pool /Wagner Group/Planet Pix via ZUMA Press Wire)、共同通信イメージズ　　（右）Russia Federal Assembly Legislators Council 　28.04.2023 Russian President Vladimir Putin delivers a speech during а meeting of the Council of Legislators under the Russian Federal Assembly in St. Petersburg, Russia. Alexei Danichev / Sputnik、共同通信イメージズ

ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏が現地時間の23日、SNSで国内での武装蜂起を宣言し、24日にはワグネルの部隊とロシア軍の交戦にまで発展した。その後、ワグネルはモスクワへの進軍をやめ、プリゴジン氏は隣国のベラルーシに事実上の亡命をすることが報じられている。ウクライナが反転攻勢を仕掛ける中でのこの動きについて、ウクライナ研究の第一人者はどう見ているのか－。ウクライナのゼレンスキー大統領とも親交があり、「ロシア入国禁止リストの63人」にも入っている神戸学院大学経済学部教授の岡部芳彦氏に聞く。

辛坊）プリゴジン氏はわずか1日で兵を引いたとはいえ、あからさまにモスクワへ向けて私的な軍隊を率いて攻め上った人間をプーチン大統領がそのまま野放しにするとは思えません。プーチン大統領はこれまでにも、政敵を毒殺しています。また、特別軍事作戦を戦争と呼んだ人間を刑務所にぶち込むような体制です。今回、ロシアの正規兵を殺してモスクワへ向けて攻め上った首謀者を放置するなんてことがあるのでしょうか。

岡部）プーチン大統領は、エリツィン政権末期の混乱の中で、「法の支配」を強調して出てきた人です。プーチン大統領は反対派を逮捕する際に、「法の独裁」と言い切ったこともあります。反乱を起こしたら、法律に基づいて罰せられるのが当たり前ですが、プーチン大統領は今回、プリゴジン氏を罰しようとしません。ですから、今回の対応は超法規的措置といえます。

よくよく考えてみれば、ワグネルがロシアの法律で正式に認められているわけではありません。囚人を今回の戦争に動員することも同様です。つまり、この1年数カ月間にプーチン大統領自身が法の支配から離脱することをやってしまっているわけです。これは、ロシア人の中に「法律なんか無視してもいいんだ」と思う人が出かねない事態だと思います。

辛坊）プリゴジン氏は今、どこにいるのでしょうか。

岡部）分かりません。こればかりは、ロシアがウクライナに負けて情報公開などが行われない限り、詳しいことは分からないままだと思います。

辛坊）プーチン大統領の動向は分かっているのでしょうか。

岡部）分かりません。今や、ショイグ国防相の行方さえも分かりません。日本であれば、緊急事態のときに、あり得ないことですよ。異常事態です。

辛坊）これから、どうなるのでしょうか。

岡部）「法の支配」と言っていたプーチン大統領が、法を無視する人だということが明らかになったため、ロシア国内で少数民族の独立派の動きが活発化する可能性があると思います。少し大げさな言い方をすると、遠い将来にロシアが解体する第一歩を今、我々が見ている可能性はゼロではないと思います。

今回の反乱が、ウクライナとの戦争に影響があるかというと、ここ1日はロシアからウクライナへの攻撃があまりされていないというSNSの書き込みが見られるうえ、爆破されたダムで増水した水がひいてきたという話もあるので、ウクライナは反転攻勢しやすいかもしれません。

辛坊）プーチン大統領がキレて核兵器を使うリスクはないのでしょうか。

岡部）今回の反乱では、そのリスクがない可能性が高いことが分かったのではないでしょうか。一説にはプーチン大統領がモスクワから政府専用機で脱出したともいわれています。先に防衛措置をとる前に逃げるということは、「強いプーチン大統領」のイメージがなくなった感じがします。

辛坊）反乱の首謀者を放置し、自分はしっぽを巻いて逃げ出すようでは、国内の求心力が一気に下がるのではないでしょうか。

岡部）それは、あり得ると思います。ワグネルがモスクワへ向けて進軍する際に、街で群衆に握手を求められている映像が流れています。ロシア国民はカオス（混沌）を好む国民性もありますので、強いプーチン大統領のイメージが弱体化していく中では、そうした動きが広がる可能性はあると思います。

また、第2次大戦中にナチスドイツのヒトラー暗殺未遂事件が起きた後、反体制派もそうではない人も含め、徹底的に弾圧していきました。同じような国内の締めつけは、ロシアでもこれから行われる可能性があります。その締め付けがどこまで広がるかは、今後の注目点です。