編集者の石井大智氏が6月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。香港国家安全維持法の施行から3年経った香港の現状について語った。
「香港国家安全維持法」の施行から3年
香港で反政府活動の取り締まりを目的とした「香港国家安全維持法(国安法)」が施行され、6月30日で3年となる。香港では愛国教育の拡大や、中国共産党のさらなる介入を警戒する人々が海外に移住。2021年には約2万7000人、2022年には約6万人が香港を離れた。
ボーダーラインが見えにくい香港国家安全維持法 ~人々は忖度によって政治的に敏感な発言や行動を避ける
飯田)国安法の施行から3年ですが、この3年で香港にはどんな変化があったのでしょうか? あるいは、国安法の問題点として何が考えられますか?
石井)まず国安法の最大の問題点を振り返ると、とにかくボーダーラインがはっきりしません。
飯田)ボーダーラインがはっきりしない。
石井)条文が曖昧すぎて、どこからがアウトなのかがまったくわからないのです。ひたすら自主規制するしかないのが、いまの香港の状況です。
飯田)なるほど。
石井)結果としてこの3年、たとえ香港政府が取り締まらなくても、人々は忖度によって政治的に敏感な発言や行動をひたすら避けてきました。香港政府は直接手を下さないわけですから、「香港でいま何が起きているのか」が外から非常にわかりにくい状況になっています。
飯田)法律云々というよりは自主規制の部分を、まさに北京中央は狙っていたのでしょうか?
石井)おっしゃる通りです。実際にそうなっている状況です。
大学教員の多くが海外へ流出 ~世論調査機関が調査を止め、香港の人々が香港政府や中国政府に対して何を考えているのかが見えない
飯田)社会の在り方も相当変わりましたか?
石井)数々のメディアが活動を休止しているだけではなく、大学教員も多くが香港の外に流出しています。他にも香港を代表する世論調査機関が調査を止めてしまったので、「香港の人々が何を考えているのか」を数字で見ることができず、非常にわかりにくくなっているのが現状です。
飯田)香港のなかでは、SNSなどを使うことはできると思いますが、発信も減りましたか?
石井)そうですね。香港の人々は政治的なことはできるだけ避けようと考えているので、一見、落ち着いたように見えます。しかし、香港の人々がいま香港政府や中国政府に対して何を考えているのかは、本当に見えづらいですね。
匿名でSNSで発信しても逮捕されてしまう
飯田)石井さんが編集に関わられた『2ちゃん化する世界』という本がありますけれども、匿名が多くなったということなのでしょうか?
石井)香港も日本と同様、「2ちゃんねる」のような匿名掲示板がよく使われており、数も多かったのですが、匿名でも起訴されたり逮捕されている例があります。
飯田)匿名でも。
石井)匿名性が高く、いろいろな人が社会運動や政治運動に使っている「テレグラム」というアプリがありますが、ここでの発信によって逮捕されたり起訴された例もあります。
香港での経済活動の現状 ~どこまでがOKなのかわからず、そこをリスクと考えて香港から撤退する企業も
外交評論家・宮家邦彦)以前は締め付けが厳しくなって、経済活動も自由にできなくなるから、香港からシンガポールに経済活動を移す流れがあったと理解していました。しかし、先日聞いた話では、「香港で行っている仕事をもしドバイでやったら、いくら払えばいいのだ」という議論があるそうです。
飯田)香港からドバイへ。
宮家)香港の経済活動がどのくらい自由で、どれだけ香港の独自性が維持できるのか。それとも、徐々に中国の一地方都市になっていってしまうのか……。どう思いますか?
石井)非常に興味深いご質問だと思います。香港国家安全維持法ないし実際の運用を見ていると、国家安全を直接、法律に適用しようという動きが、いまのところ非常に限られた範囲にあるため、企業の行為に影響が出ている状態ではありません。
飯田)いまのところ。
石井)ただ、「どこまでがOKで、どこまでがダメなのか」が本当にわかりにくく、そこをリスクと考えて「香港を選ばない、撤退する」というような選択をしている企業はあると思います。
香港訪問の日本人アーティストが入境を拒否された理由
飯田)民主化デモがあった当時、路上で歌を歌っていた日本のアーティストやカメラマンの方々が、入境を拒否されることがありました。日本人の渡航にも一部影響があるように思いますが、これも国安法の影響なのでしょうか?
石井)国安法の影響や、国家安全に対する締め付けの強さと見ることもできるのですが、外形上、香港は非常に香港内での労働に厳しいのです。報酬をもらっていなくても写真を撮る、あるいは歌を歌うという行為をビザなしで行うことに対し、厳しい罰則を設けています。
飯田)報酬を受けない行為でも。
石井)ですので、これまでと同様に法律のフレーム内で入境を拒否されたと見ることもできるし、より政治的なことを行っているからこそ目をつけられたのかも知れない。いままでであれば見逃されていたものが、より厳密に適用されるようになったと見ることもできると思います。
2019年から行われたデモに参加していた若者の多くは海外へ移住
宮家)かつて私が香港へ行ったとき、香港独立運動などが過激化していった部分があり、私は大学時代の日本の学生運動と重ね合わせて、この種の運動は過激化すれば必ず行き詰まると考えています。あのように、ある程度の進歩的な考えを持った若い人たちは、いまは地下に潜っているのですか? それとも、既に香港にはいないのでしょうか?
石井)2019年から行われたデモで、過激な行動をした人の多くは香港の外に移住したと見るべきかも知れません。具体的な数などのデータがあるわけではないのですが、外に出た人は多いと思います。
飯田)当時も石井さんにインタビューしましたが、一部先鋭化する部分と、一方で「少しずつ変えていこう」と言う長老のような人たちが、香港における民主化運動の歴史では出てこなかったというところを指摘されていました。「少しずついい方向に変えていこう」と言う人たちも、ほとんど口をつぐむような状態になってしまっているのでしょうか?
石井)そういう人がいないわけではないのですが、彼らが実際に政治に関与していることを確認するのは、非常に難しくなっています。
観光で香港に行くことは危険ではないのか?
飯田)観光で香港に行く場合、こういう法律が適用されて、いきなり拘束されるような可能性はあるのでしょうか?
石井)基本的には、その可能性は極めて低いと言えます。しかし理論的には、香港国安法は国籍に関わらず全世界の行為を対象にしているので、日本人が日本で行った行為も対象になるわけです。ですから、気を付けるに越したことはないと思います。
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