ロシア情勢に詳しい筑波大学名誉教授、中村逸郎氏が7月3日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演し、辛坊と対談。ロシア戦術核兵器のベラルーシ配備や、武装反乱を起こしたロシア民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏らのベラルーシ受け入れについて、「(ベラルーシの)ルカシェンコ大統領が仕掛けた罠に、(ロシアの)プーチン大統領は引っかかった」と解説した。
「プリゴジンの乱」から1週間余りが経過する中 、AP通信などはロシア民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員がベラルーシで大規模再編成する可能性があると報じている。ロシアからの侵攻を受けるウクライナ軍は、「ワグネルのベラルーシへの移動は未確認だ」と表明しているが、今いったい何が起きているのか-。
辛坊)「プリゴジンの乱」とは結局、何だったのでしょうか。
中村)ベラルーシのルカシェンコ大統領が仕掛けた動きです。
辛坊)ルカシェンコ大統領の最近のイメージは、ロシアのプーチン大統領の横でゴマをすっているような感じですよね。
中村)ルカシェンコ大統領は、本当はプーチン大統領に腹を立てています。なぜかというと、プーチン大統領はこの約20年間、ベラルーシを乗っ取って属国にしようとしているからです。
辛坊)実質的には、既にそうなっています。
中村)ルカシェンコ大統領としては、何とかして歯止めをかけたいと考えています。
辛坊)ベラルーシとロシアを巡っては、「怖い」と感じたニュースが最近、ありました。ロシアの戦術核兵器がベラルーシに搬入されたことです。この核兵器の使用権について、ロシアは自国にあるとしていますが、ベラルーシはロシアの同意なく使用できるという認識を示しました。
旧ソ連が崩壊したとき、ロシアはベラルーシやウクライナなどにあった核兵器を引き揚げました。ロシアがウクライナに侵攻できた背景でもあります。その流れでいうとい、ベラルーシは今回、何だかんだ理屈をつけて、ロシアに返していた核兵器をもう一度取り戻した形になります。つまり、仮に将来、ベラルーシとロシアの関係が悪くなっても、ロシアはベラルーシに手が出せなくなったわけです。
中村)そうです。ルカシェンコ大統領が仕掛けた罠に、プーチン大統領は引っかかったわけです。
辛坊)プーチン大統領がルカシェンコ大統領の罠に、まんまと引っかかったという認識でいいんですね。
中村)それが最も正しい見方です。ベラルーシ国内にロシアの核兵器を配備することに関しては、合意文書にロシアが運用することは書かれていても、ベラルーシの介入を禁止するとは書かれていません。ですから、ルカシェンコ大統領はこの核兵器は自分たちの物であり、乗っ取ってやったと考えています。
辛坊)それって、かなりヤバいですよね。
中村)もちろん、ルカシェンコ大統領はこの核兵器を使ってウクライナを攻撃するつもりは全くありません。むしろ、「ロシアに対しての脅しに使ってやろう。いざとなれば、ロシア国内にぶち込むぞ」という勢いです。そのために今回、プリゴジン氏を背後で操り、モスクワへ向けてワグネルを進軍させました。しかも、プーチン大統領がモスクワにいないであろうタイミングを狙いました。
辛坊)プーチン大統領の当時の所在に関しては、さまざまな風説があるようです。ロシアの公式発表では、モスクワのクレムリンにいたということになっています。しかし、どうやら、別の場所にいたという説もあります。
中村)クレムリンとは別の場所にいました。誰がプーチン大統領をそこへ連れて行ったかが重要です。その人物が、プーチン大統領の「金庫番」と呼ばれる実業家のコワリチュク氏です。コワリチュク氏はプリゴジン氏と仲が良く、裏でつながっているんですよ。
辛坊)ロシアの最高意思決定者はプーチン大統領だと世界中の人が思っています。しかし、ワグネルが自分の足元まで迫り、大変な政変が起きているということの認識をプーチン大統領は持っていなかったということになります。恐ろしいことですね。
中村)全く持っていませんでした。プリゴジン氏の反乱をどのように決着させるかについても、プーチン大統領は蚊帳の外に置かれ、その他の人々の間で話し合いが行われました。そして、絶妙のタイミングでルカシェンコ大統領が出張ってきて、プリゴジン氏とワグネルについて「ベラルーシが引き取ってやる」といきなり言い出したんです。プーチン大統領に真っ向から歯向かってきたプリゴジン氏がプーチン大統領によって潰されるくらいなら、強力な部隊をベラルーシがもらってしまおうと考えたわけです。
中村)ルカシェンコ大統領にしてみれば、プーチン大統領に反抗する際にはプリゴジン氏を使って巻き返しを図れると考えたのでしょう。この約20年間に及ぶプーチン大統領に対する恨みをはらしてやろうという狙いです。
辛坊)まさに、面従腹背ですね。
中村)今のままだと、ベラルーシはロシアに国家統合されかねません。ルカシェンコ大統領は自分の息子を次期大統領に据えたいと考えていますが、プーチン大統領が全て横取りしてく顛末になりかねない状況です。
辛坊)ルカシェンコ大統領としては、核兵器とワグネルという強力な民間の軍隊を自国内に置けたことで、「してやったり」という感じでしょうね。
中村)おそらく、ルカシェンコ大統領は今後、ウクライナと手を組むでしょう。また、北大西洋条約機構(NATO)とも手を組むと思います。旧ソ連諸国が次々とロシアから離れていっているにもかかわらず、ベラルーシだけがロシアに近づいています。そして、プーチン大統領と一緒に沈んでいきそうな様相になっています。
辛坊)現実問題としてベラルーシの安全保障を考えたとき、NATOがベラルーシに攻め込んでくることは考えにくく、目下の最大の敵はロシアだという結論になります。そうした中、ベラルーシは対ロシアの切り札を今、着々と集めてきている感じがします。
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[アシスタント]増山さやかアナウンサー(月曜日~木曜日)、飯田浩司アナウンサー(木曜日のみ)