なぜ日本はロケット開発で遅れを取ってしまったのか 「ファルコン9」打ち上げに成功したスペースXとの「考え方の違い」

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東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が5月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「H3」ロケット2号機の打ち上げ方針について解説した。

なぜ日本はロケット開発で遅れを取ってしまったのか 「ファルコン9」打ち上げに成功したスペースXとの「考え方の違い」

次世代ロケット「H3」初号機、打ち上げ失敗 2段目エンジン着火せず、指令破壊=2023年3月7日午前10時37分、鹿児島県南種子町 写真提供:産経新聞社

H3ロケット2号機、地球観測衛星を搭載せずに打ち上げる方針

2023年度後半に打ち上げが予定されている日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機について、文部科学省は5月24日、今年3月の初号機の打ち上げ失敗を受けて計画を変更し、開発中の地球観測衛星を搭載せずに打ち上げる方針を示した。

飯田)文科省が国の宇宙開発について審議する「宇宙開発利用部会」で、24日に説明されました。H3ロケットは初号機の打ち上げが失敗してしまいましたが、どういうロケットなのですか?

鈴木)これまで日本の主力ロケットは「H2A」でしたが、それをさらにパワーアップさせ、新しいエンジンを積んで飛ばすという新型ロケットです。

「H3」初号機の失敗 ~バージョンアップしたリスクの高いものに「だいち3号」を搭載させてしまったのは判断ミス

鈴木)ロケットというのは式年遷宮ではありませんが、30年ごとなどにある程度つくり替えていかないと、技術の継承がうまくいかないところがあります。当然、載せる衛星や宇宙利用のあり方も変わってくるので、ロケットは定期的にバージョンアップしていくものですが、新しいものをつくれば失敗する可能性も高まります。

飯田)定期的にバージョンアップすることは。

鈴木)残念ながら、H3初号機は失敗してしまいました。リスクが高いものに実用衛星の「だいち3号」を載せてしまったのは、判断ミスと言うか、少し甘かったのではないかという評価は否めないと思います。

飯田)初号機であれば、飛ばすことに専念させた方がいいのですか?

鈴木)そうですね。ただ、そうすると1回無駄打ちをするわけですから、その分のお金が掛かり、スケジュールも遅れてしまいます。既に日本は衛星の打ち上げスケジュールが遅れ気味だったので、とにかく先に、価値のある衛星ではあるのですけれど、リスクを取ろうという判断をしたのだと思います。

火星探査などの場合、打ち上げるタイミングが限られる ~それまでにロケットを間に合わせなければならない

飯田)いま上がっている地球観測衛星が、実はかなり経年劣化しているという話ですが。

鈴木)そうですね。

飯田)取り替えないと、既に機能が一部損失しているという報道もあります。

鈴木)地球観測衛星「だいち1号」はもう運用が終わっていて、「だいち2号」がいま動いていますが、今回打ち上げが失敗したので、「だいち3号」も上げられなくなりました。衛星に関してはスケジュールが重要で、打ち上げられるタイミングも決まっています。

飯田)打ち上げのタイミングが決まっている。

鈴木)地球の周りであればいいのですが、かつての「はやぶさ」のように火星探査などを行うものは、地球の公転、太陽周りを動く地球の位置と、目標とする天体との間の距離を測らなければならないので、最適なタイミングが限られるのです。

飯田)タイミングが。

鈴木)打ち上げのタイミングも限られてしまうので、そのタイミングにロケットを間に合わせたいという考えもあります。

火星衛星探査計画(MMX)

鈴木)科学の探査で最も打ち上げタイミングが厳しいのが、 火星衛星探査計画(MMX)と言うミッションにおける、火星の衛星「フォボス」への打ち上げです。

飯田)フォボス。

鈴木)火星の衛星から、はやぶさのようにサンプルを採取してリターンするというものです。MMXは火星という遠い天体をターゲットにしているので、「ランチ・ウィンドウ」と言われますが、打ち上げられるタイミングが限られています。そこまでに間に合わせなくてはいけないのです。

安全保障上で重要な「情報収集衛星」の入れ替え時期のタイミングもズレてしまう ~大きなリスクを2度取ることはできない

鈴木)もう1つ、安全保障上で重要な「情報収集衛星」がありますが、これも入れ替えなければならない。新しい衛星を追加しようとしているのですが、そのタイミングもズレてきてしまうのです。

飯田)新たな情報収集衛星の打ち上げのタイミングもズレてしまう。

鈴木)そうすると、情報収集能力に抜けてしまうところが出るので、よくないという問題もあります。

飯田)そうですね。

鈴木)ロケットは宇宙に行くための大事なツールですので、上手くいってくれないと困るのです。ただ、さすがに「大きなリスクを2度取る」ことは難しいので、今回の2号機は地球観測衛星を搭載せずに打ち上げるという方針になったのだと思います。

H3は液体燃料、イプシロンは固体燃料で飛ぶ ~イプシロンもダメだしH3もダメと、ロケットでつまづいている日本

飯田)名前を聞いたことがあるものだと、H2AからH3への世代交代と、もう少し前にはイプシロンも打ち上げられました。日本はその2段構えで進めるのですか?

鈴木)そうですね。イプシロンは小さな、小型に近い中型ロケットなのですが、燃料が違うのです。H3は液体水素と液体酸素を使う、液体燃料で飛ぶロケットなのですけれど、イプシロンはすべて固体燃料です。

飯田)固体燃料で飛ぶ。

鈴木)ミサイル技術にもつながるので、固体ロケットの技術は、これはこれで日本が持っておかなければいけない技術です。しかし、管理しなければならない技術でもあります。

飯田)ミサイル技術にもつながるということで。

鈴木)でも、実はイプシロンも失敗しています。イプシロンで上げられる衛星は比較的小さい衛星になってしまうので、大型の「だいち4号」などは上げられないのですが、イプシロンもダメだしH3もダメだとなって、いま日本のロケットはつまずいている状態です。

飯田)遅れている。

同じ機体を何度も使用できるスペースXの「ファルコン9」の成功

鈴木)アメリカには、イーロン・マスクさんのスペースX社がつくった「ファルコン9」というロケットがあり、これがものすごく優秀なのです。

飯田)ファルコン9。

鈴木)しかもロケットの第1弾を回収できます。動画を観ていると「すごい」と思うのですが、既に10回打ち上げを経験したロケットがまた帰ってきて、そのまま次も使えるのです。

飯田)新たなものをつくる必要がない。

鈴木)燃料を補給すれば、また次に打ち上げられる。こういうものが本当にできるとは、ついこの間まで誰も思いませんでした。

飯田)ロケットは使い捨てが当然という考え方だったのに。

鈴木)ドラスティックに値段を下げられますし、成功率も高い。大成功するのを見せつけられているものですから、日本ではイプシロンもH3も失敗しているというのは、歯がゆいところではあります。

失敗しても「やりながら改良」するアメリカと「完璧なものを仕上げる」日本の考え方の違い

飯田)スペースXにしても最初は失敗続きで、そのときは「日本のH2Aはやはり優秀だよね」と言われていました。アメリカで行われているような「トライ・アンド・エラー」が大事なのですか?

鈴木)スペースXのおかげで、ロケットの考え方が変わったのだと思います。イーロン・マスクさんはIT出身なので、「やりながら改良していく」という考え方です。

飯田)やりながら改良していく。

鈴木)日本の場合は、「打ち上げても失敗しない完璧なものをつくる」という方向を目指すので、1回~2回の失敗で大きな問題になるのです。しかし、イーロン・マスクさんは「1回失敗したら次」と、「失敗を重ねても改良するのだからいいではないか」というやり方です。しかも次々に上げてしまう。

飯田)イーロン・マスクさんは。

鈴木)その結果、確実に成功するロケットができます。日本のように頭のなかで考え、一生懸命頑張って「ミスのないように、ミスのないように」と進めても、ミスが起きる場合もあります。

飯田)そうやっても。

鈴木)宇宙開発やものづくりの在り方が、日米ではかなり違う。対極の考え方にあるのです。

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