「ワグネルの乱」で見えたプーチン政権の「弱さ」と「強さ」
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二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強氏が6月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアにおけるプーチン体制の現状、また、日本とNATOの今後の関係について解説した。
プーチン大統領、ワグネルの活動費について「全額国費」と主張
ロシアのプーチン大統領は現地6月27日、国防省の軍関係者との会合で、反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」に対して2022年5月~2023年5月までの約1年間、戦闘員の給与や報奨金として860億ルーブル(約1400億円)の国費を支払っていたことを明らかにした。使途に不正がなかったか調査する考えも示した。一部報道では、プーチン大統領はワグネルの資金の流れを明らかにすることでプリゴジン氏の評判を失墜させ、国内での影響力の排除を狙っていると報じられている。
プーチン体制の弱さと強さ ~ワグネルを掌握できず、格下のルカシェンコ氏に頼らざるを得なかった
飯田)一連の流れを見ると、プーチン体制が弱まっているのでしょうか?
合六)少し矛盾するようですが、私自身はプーチン体制の弱さと同時に、強さも垣間見た気がしています。
飯田)強さも。
合六)弱さについては、プーチン大統領は正規軍とワグネルのような組織を分割統治し、一方が台頭して自分の権力に挑戦しないようにしてきたわけです。しかし、結局は手に負えなくなってきた。
飯田)ワグネルに進軍させてしまった。
合六)混乱を収束させるにあたり、下に見ていた隣の国のルカシェンコ氏に頼らざるを得なかった点も、やはり弱さの1つだと思います。
体制にひびが入るもプーチン大統領への支持は変わらない ~権力を揺るがすような事態には当面つながらない
合六)他方で強さなのですが、ロシア軍、特にロシアのエリート層にプリゴジン氏の動きに呼応するような流れが、少なくとも表向きは広がらなかった。その点は興味深いと思います。
飯田)なるほど。
合六)ヨーロッパを見ても、数日間でこの乱によって名を落としたのはプリゴジン氏だけで、プーチン氏への支持は変わっていません。
飯田)そうなのですね。
合六)短期的にプーチン氏の権力に挑戦できる勢力がいなくなったということも鑑みれば、体制に錆やひびが入ったことは確かですが、直接、権力を揺るがすような事態には当面つながらないというのが、いまの率直な印象です。
「反乱計画を事前にロシア側が知っていた」ことを報道したアメリカの狙い ~計画を認識していたとされるスロビキン氏が逮捕されたのではないかという情報も
飯田)ロシア側も事前に反乱計画を知っていたという話がありますが、どういう見方ができますか?
合六)米紙ニューヨーク・タイムズの報道によると、アメリカ政府高官がそういうことを把握していたと書かれています。まず考えないといけないのは、「なぜアメリカ側がこのような情報を出してきたか」ということです。
飯田)アメリカ側が。
合六)プーチン政権、ロシア国防省、あるいは軍が明らかに一枚岩ではないなかで、さらに外部の情報を与えることにより、互いの疑心暗鬼を増幅させる効果を狙ったのではないでしょうか。
飯田)アメリカの狙いとして。
合六)事前に知っていたとされるロシア軍高官は、プリゴジン氏とも近いとされている、今年(2023年)1月まで作戦の指揮官を務めていたスロビキン氏です。彼は反乱が起こったときに動画でプーチン氏に服従するような、むしろプーチン側についたような声明を出しています。
飯田)スロビキン氏が。
合六)まずそれをどう説明するか。同時に、実は昨晩(28日)から今朝(29日)にかけて、一部ロシア発の報道でスロビキン氏の行方不明状況が続いており、逮捕されたのではないかという情報も飛び交っています。まずは情報が本物かどうかの精査が必要だと思います。
飯田)謎が謎を呼ぶような状況ですね。この状況こそ、アメリカが意図するところでもあった。情報戦ですね。
合六)そうですね。混乱して「ウクライナどころではない」という状況にするのも、1つの狙いとしてあるのかも知れません。
ここ10年~20年で着実に発展している日本とNATOの関係 ~ウクライナ問題によってさらに強化
ジャーナリスト・鈴木哲夫)岸田総理がここ何ヵ月も、北大西洋条約機構(NATO)に肩入れしているように見えます。7月のNATO首脳会議にも出席する予定ですが、日本の関わり方として、NATOと一緒になってウクライナ問題に接していくべきなのか、もう少し違う立ち位置があるのか、この辺りをどうお考えですか?
合六)これまで目立った報道はありませんでしたが、実は、ここ10年~20年で日本とNATOの関係は着実に発展してきました。
飯田)10年~20年で。
合六)NATOが今回の戦争で有名になり、岸田首相も昨年(2022年)のNATO首脳会議に出たことで一気に目立つような形になりましたが、もともとは9.11後のアフガン戦争でも直接・間接的な関わりがありました。
飯田)アフガン戦争でも。
合六)また第2次安倍政権においては、安倍元総理自身がNATOとの協力を重視する姿勢を既に出していました。その流れに位置付けられると思いますが、ここにきてより強化されているということです。
それぞれの地域の安全保障の連動性 ~戦闘以外の部分で平時からNATOとの協力関係を構築することには意味がある
合六)ウクライナの問題は世界にも、アジアにも関わっています。また、NATOから見た際は今後、台湾や東アジアの問題はヨーロッパにも関わるので、それぞれの地域で安全保障の連動性が必要です。
飯田)安全保障の連動性。
合六)それぞれの同盟国が単独でできることには限界があります。必ずしも軍事的に日本は対応していないですし、NATOも何かあったときに直接、軍事的に関わることはないにせよ、経済制裁やサイバー面、宇宙面など、直接的でハードな戦闘以外の部分において、平時から協力関係を構築しておく。それはとても大きな意味があると思います。
フランスが考える「NATOの優先順位」はアジアよりアフリカや中東の内戦の問題 ~アジアに意識を向けようとするアメリカへの警戒心も
飯田)NATOとの関係の1つで、東京に事務所を開設するという話も出ています。これにフランスが反対しているという報道もありますが、今後はどうなっていきそうですか?
合六)フランス自身は今回に限らず、もともとNATOとしてアジア・インド太平洋の問題に直接関わることに対しては消極的です。
飯田)もともと。
合六)NATOには優先順位があって、いまはもちろんロシアですが、例えばフランスや南部の同盟国からすると「南からの脅威」と言われるアフリカや中東の内戦問題があります。これらに対し、どのように危機管理を行うかという優先順位が高いのです。
飯田)南からの脅威に対する危機管理の方が。
合六)「アジアはNATOの仕事として本当に優先順位が高いのか」という疑問があります。フランス単体、あるいは欧州連合(EU)としてインド太平洋に関わることに関しては、実はフランスは積極的です。その反面、「NATOとして関わるべきなのか」というところでかなり消極的なのは、私自身がフランスの外務省関係者と話していても感じます。
飯田)フランスのマクロンさんは最近、中国に色好いようなことを言いがちなので疑問に思っていたのですが、役割と分担の違いのようなものがあるのですね。
合六)さらに言うとNATOの盟主はアメリカなので、アメリカがある種、自分の道具のようにNATOをアジアに振り向けることに対する警戒感もあると思います。
「日米拡大抑止協議(EDD)」の内容を明らかにする理由
飯田)アメリカとの関係では、「日米拡大抑止協議(EDD)」を26~27日に行いました。こういうニュースが出てくるのも珍しいと思ったのですが、いかがですか?
鈴木)昨年ぐらいから、日米間の拡大抑止に関する協議内容がやや具体的になっています。これまでは行われたという事実と、誰が参加したかという事実以外はほとんど隠されていました。ここにきて、アメリカの動きに対する不安感も高まるなか、「より透明性を持った説明をした方が不安感の解消につながるのではないか」と、アメリカ側あるいは日本の当局側も考えているのかも知れません。
現状の枠組みのなかで「何をやっているのか」を国民に示していく必要がある
飯田)それだけ東アジア情勢に対する危機感が強くなってきたのでしょうか?
合六)それもあると思います。また、日本国内の世論もあるでしょう。昨年は安倍元総理からの議論として、日本は核共有も考える必要があるということが提議されました。
飯田)そうでしたね。
合六)それらも含めると、現状の枠組みのなかで「何をやっているのか」を国民に示していく必要があると感じていて、それを基に抑止力や防衛力を拡大していく必要があると考えているのではないでしょうか。
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