DeNAを牽引する今永昇太とバウアー 「投げる哲学者」と「投げる科学者」の共鳴

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、横浜DeNAベイスターズを牽引する左右のエース、今永昇太とトレバー・バウアーの刺激し合う関係性にまつわるエピソードを紹介する。

DeNAを牽引する今永昇太とバウアー 「投げる哲学者」と「投げる科学者」の共鳴

【プロ野球DeNA対広島】試合前、今永昇太(右)と話すDeNAのトレバー・バウアー=2023年5月2日 横浜スタジアム 写真提供:産経新聞社

プロ野球セ・リーグの前半戦天王山、首位阪神と2位DeNAの直接対決3連戦が11・12・13日に倉敷(11日)と甲子園で行われる。

試合前時点でゲーム差は「1」。前回、交流戦直後に行われた6月末の3連戦では、DeNAが交流戦優勝の勢いのまま3連勝。両チームが肉薄するきっかけになっただけに、本日(11日)からの3連戦はシーズンを占う上でも重要な意味を持ちそうだ。

その3連戦を前に、DeNAにさらなる勢いを与えそうなのがトレバー・バウアーの6月月間MVP受賞の一報だ。6月は4戦4勝。しかも、8回109球。7回108球。9回完投113球。6回3分の1で114球……と、先発投手としてしっかりイニングを稼いでいる点も見過ごせない。

この勢いを受け、バウアーは7月6日のヤクルト戦でも9回128球2失点の好投を見せ、今季2度目の完投勝利。しかも、前回登板から中5日と、球数を意識しがちな外国人投手とは思えない投げっぷりである。特にこの試合、6回に3番サンタナ、4番村上宗隆、5番オスナのクリーンアップから3者連続三振を奪って高らかに吠えた場面は圧巻の一言だった。

バウアーの価値は、勝ち星や長いイニングを投げる「イニングイーター」ぶりだけでなく、DeNAの他の投手への影響力も持っている点にもある。その最たる例が今永昇太だろう。

バウアーが2度目の完投を演じた翌7日の巨人戦では7回113球を投げ、球団最多タイとなる15奪三振。4回には前日のバウアーをトレースするように3番秋広、4番岡本、5番大城のクリーンアップから3者連続三振。さらに交代間際の7回には代打の長野、同じく代打の岸田から連続三振を奪ってバウアーばりの雄叫びを上げるなど、感情を爆発させる場面があった。「投げる哲学者」の異名を持ち、普段は冷静な今永とは思えない姿だった。

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「最後の2つだけ、狙いにいって取れたので。自分に『よくやった』と言ってあげてもいいと思います」

~『日刊スポーツ』2023年7月7日配信記事 より(今永の言葉)

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この雄叫びシーンを受け、「今バウアー」とファンの間ではすっかり話題に。実際、今永はバウアーにさまざまな点で教えを乞い、それを自らの投球に生かしているという。

例えば、ピンチになるとギアを上げ、球速を上げるバウアーの投球スタイルについて、

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『僕もピンチの時に150キロじゃなくて、152、3、を投げたいと思っているので』

~『日刊スポーツ』2023年7月7日配信記事 より(今永の言葉)

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……と助言を求めた際には、「投げる科学者」バウアーからこんな回答があったという。

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「バウアーは『股関節の屈折角度と重力を利用する』と。聞かれたらすぐ答えられるので、それが本当に素晴らしい。僕もちょっとだけ股関節の角度を深くして投げました」

~『日刊スポーツ』2023年7月7日配信記事 より(今永の言葉)

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実際、このバウアー指導の成果か、4回に岡本から奪った三振は152キロ。また、次の大城には151キロ。7回の長野、岸田から奪った三振でも151キロを計測。しっかり球速を上げて見せた。

この試合で奪った15奪三振で、今季の奪三振率は2けたの「10.03」に。昨季が「8.27」だったことを考えるとかなりの伸び率だ。また、奪三振数「88」はリーグトップ。侍ジャパンで活躍し、昨季(2022年)はノーヒットノーランも達成した大エースでありながら、意外にも投手タイトルの経験はまだない今永にとって、いよいよ初タイトル獲得のチャンス、と言えるだろう。

そんな今永は、「バウアーの何が優れているのか」という質問にこんな言葉を残している。

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『やっぱり自分の体を理解すること。それが一番の優れたポイント』

『数字、理論に基づいてやっている。感覚ではなくてエビデンス(裏付け)がしっかりある。不調になっても、調子を戻すことが簡単にしやすい。本当にすごいこと』

~『サンスポ』2023年7月7日配信記事 より

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まさに「投げる科学者」バウアーの真骨頂ともいえる部分を高く評価していた。一方のバウアーも、以前から今永を高く評価。特にストレートは「世界トップレベル」とベタ褒めだ。

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『いろいろな投手を見てきたけど、その中でもショウタの真っすぐはすごくいい。(上方向の変化量を示す)ホップ成分も、それを左投手として投げられるのは世界でもなかなかないこと。世界トップレベルの直球を投げる投手だと思う』

~『サンスポ』2023年5月2日配信記事 より(バウアーの言葉)

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互いに認め合い、刺激し合う左右の両輪がマウンドで躍動するDeNA。今後も「投げる哲学者」と「投げる科学者」の奮闘に期待したい。

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