ケリー米大統領特使が訪中、気候変動分野での協力再開を協議する「本当の狙い」

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二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が7月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ケリー米大統領特使の訪中について解説した。

ケリー米大統領特使が訪中、気候変動分野での協力再開を協議する「本当の狙い」

インドネシアのバリ島で、握手する中国の習近平国家主席(左)とバイデン米大統領=2022年11月14日 (ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ケリー米大統領特使が訪中、協力再開を協議へ

米国務省はジョン・ケリー大統領特使(気候変動問題担当)が7月16日~19日の日程で北京を訪問し、中国政府当局者と会談すると発表した。アメリカの政府高官としては6月のブリンケン国務長官、7月のイエレン財務長官に続く訪中となる。

米中ともに関係性を回復したい ~根本的な考え方の違いから関係改善は簡単ではない

飯田)相次いで訪中しているように見えますが、それぞれの狙いは違うのでしょうか?

合六)アメリカからすると、競争はするけれども、それが実際の対立・衝突にはつながって欲しくないし、望んでいないわけです。

飯田)アメリカとしては。

合六)できるだけ対話を制度化・定例化することによって、安定的な関係を築こうとしている。バイデン政権では「ガードレールを敷く」という言い方をしています。

飯田)ガードレールを敷く。

合六)中国側の意図も、同じようにアメリカと対話することで、いまの段階では衝突を引き起こしたくないという部分もあると思います。また、関係性を安定化させることによって、経済回復、特にコロナ後の落ち込んだ状態を引き上げたい思惑もあると思います。

飯田)関係性を安定させて経済を回復したい。

合六)ただ、米中では根本的な考え方にいろいろな相違がありますので、実際に関係改善へつながっていくかと言うと、まだ見通せないところがあると思います。

国内に「自分たちが一枚上手なのだ」と見せたい中国 ~イエレン長官のお礼の仕方を指摘するアメリカの専門家も

飯田)記憶に新しいのは、ブリンケン氏が中国に行った際、習近平国家主席と会うには会ったけれども、議長席に習近平氏が座り、社長へ報告するような感じで横にブリンケンさんと王毅さんが座っていた。中国はあのような席次も気にすると言われますよね。

合六)どのように「見せるか、見られるか」は互いに意識していると思います。中国はまるで「習近平詣で」のように見せたい。特に国内に対しては、「自分たちが一枚上手なのだ」ということを示したいのだと思います。

飯田)なるほど。

合六)イエレン財務長官が行ったときも、お礼の仕方に慣れていないため、前かがみになりすぎて「詣で感」が出ていた。

飯田)ペコペコしている感じがしましたね。

合六)アメリカの専門家のなかにも、「しっかり教えた方がいいのではないか」などと指摘する人もいました。どう見られるかに関して、特に中国は国内を見ていますので、その辺りを意識しなければいけないと思います。

アメリカ単独でできることには限界があるので、日本やヨーロッパ諸国にも呼びかける ~NATO首脳会議の声明でも、中国に関する記述が多い

飯田)アメリカのシンクタンクが台湾情勢に関して、いろいろな報告を打ち出しています。そのなかには「中国の経済減速がリスクを高めるのではないか」という指摘もありました。今回の環境問題もそうですし、あるいは財務長官が訪れることに関して、本当は中国側も欲している部分があるのでしょうか?

合六)経済が落ちてくると、外に危機をつくり出す可能性はあります。それがシミュレーションで指摘されたのだと思います。

飯田)経済が落ちると外に危機をつくり出す。

合六)だからと言って、アメリカが中国からの追い上げを許すかと言うと、なかなかそうはいかない。経済面でいろいろな規制を掛けているし、できるだけ追いつかれないようにギャップを広げようとしています。

飯田)中国に追いつかれないように。

合六)アメリカが単独でできることにも限界があるので、日本やヨーロッパ諸国にも呼びかけている。今回のNATO首脳会議の声明でも、中国に関する記述は多くあります。

中国の影響力がヨーロッパにも出てきている ~NATOとしても対処しなければならない

合六)NATOは「北大西洋条約機構」ですが、NATOが好むと好まざるとに関係なく、中国の影響力がある以上は、NATOとして対処しなければなりません。

飯田)ヨーロッパに関しても。

合六)経済を手段に用いて、ある種、経済を武器化する形で強制外交が行われる懸念。もう少し言えば、中国の核軍拡に対しても懸念が示されているので、NATO、あるいはNATOとアジア太平洋4ヵ国の間でも、中国が大きな議題になっているのだと思います。

NATOのなかで温度差はあっても、中国が自分たちの利益や価値観に対して挑戦しているという共通認識を持っている

飯田)ヨーロッパのなかで中国に対する温度差はありますか?

合六)アメリカとヨーロッパ、またヨーロッパ諸国の間で温度差がないと言えば嘘になります。地理的な状況を考えると、我々が中東やアフリカ、あるいはヨーロッパで起こることに対して「関係がある」と言われても、リアリティを持って脅威を認識することはなかなか難しい。

飯田)地理的に。

合六)ヨーロッパ諸国にも同じことが言えると思います。とは言え、中国の影響がある以上、それに対応しなければならない。日本とは同じような脅威ではないかも知れませんが、中国の不確実性とどう向き合うか。

飯田)不確実性。

合六)とりわけヨーロッパ諸国にとって大きかったのが、今回のロシアによるウクライナ侵攻においても、ロシアと中国は連携しているとNATO側は見ています。また侵攻前に開催された北京オリンピックの際、両首脳が会談したときは「制限なき協力」と言っていました。

飯田)そうでしたね。

合六)NATOの拡大に対しても中国が批判している状況なので、NATO内でそれぞれの国に温度差があったとしても、「中国が自分たちの利益や価値観に対して挑戦している」という認識は、今回の首脳会議でも繰り返し確認されていたと思います。

経済的に中国に依存しすぎるリスクは日本もヨーロッパも気付いている

飯田)ヨーロッパは一帯一路などもあり、経済的に結びつきが強い傾向があります。マクロンさんが中国に行ったときは、経済的に大きなディールを結ぶなど、そちらが注目されますけれど、基本的には危機感があると見ていいですか?

合六)もちろん中国は経済的に魅力的なパートナーです。それはヨーロッパだけではなく、日本の多くの人も感じているところだと思います。なかなか切っても切り離せない。

飯田)経済的なパートナーとしての魅力は。

合六)ただ、中国に依存しすぎることのリスクには、日本もヨーロッパも気付いています。G7広島サミットの首脳宣言のなかでも、デカップリングではなくディリスキング、リスクを減らして1ヵ所に依存しないということも掲げられているので、経済面に関しても決してナイーブではないと思います。

フランス国内でも「中国にどう対処していくのか」は共通認識として持っている

合六)安全保障面では、特に海洋に関して、フランスのマクロンさんの発言から「中国に甘いのではないか」という声もあります。しかし、フランスの軍事関係者からすると、フランスは太平洋にもインド洋にも島があり、そこに軍の基地があります。太平洋軍・インド洋軍がいるのです。

飯田)インド洋軍もいるのですね。

合六)日々、中国の海洋進出を目の前で見ているため、非常にリスキーだということはわかっているのです。だからこそ、フランスも艦艇をこの地域に派遣したり、あるいは台湾海峡をまるで航行の自由作戦をやっているかのように通ったりするのです。

飯田)中国の脅威を見ているからこそ。

合六)言い方を変えれば、もしかしたらフランス内である種の分裂、例えば外務省や国務省の間で、見方が若干違うところもあるかも知れません。しかし、全体として「中国にどう対処していくのか」という認識は、共通課題としてあるのだろうと思います。

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