元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が7月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。大雨被害の被災地・福岡への岸田総理の訪問について解説した。
大雨による被害、岸田総理が来週にも福岡訪問へ
日本各地で相次ぐ記録的な大雨をめぐり、岸田総理大臣が来週にも福岡県を訪問する方向で調整に入ったことがわかった。被害があった現場の視察や、関係者と車座で対話することを検討している。
飯田)激甚災害指定などについても、この視察で判断する見通しだと報じられています。関東にいると暑さばかりが目立ちますが、列島全体を見ると大雨の被害がかなり出ています。
できるだけ早く特別交付金を出し、現地で復旧・救援に励んでいる人をサポートする
松井)官僚組織による激甚災害指定は、ある種の要件があるし、時間が掛かるのです。また、地方交付税交付金の1つの形態として、災害時に便利な特別交付金があります。
飯田)特交。
松井)それをできるだけ早く出すなどの判断をして、現地で復旧・救援に励んでおられる方々を、とにかくエンカレッジするということに尽きると思います。
飯田)そうですね。
松井)国会で閉会中審査を行うのは結構ですし、それが国会の仕事だと思いますが、足を引っ張るのではなく「お互いに何ができるか」を競い合い、被災地を支援するという姿勢で進めて欲しいです。どこでどんな災害が起こるかわかりませんから、支えられるような体制をつくるべきだと思います。
東日本大震災でいちばん機能したのは地方整備局
飯田)かつては、まず自治体からのニーズが上がってくるのを待ち、それから動くような傾向がありましたが、いまはプッシュ型支援が進んでいると言われます。
松井)やはり阪神・淡路大震災、東日本大震災などの巨大災害や、さまざまな集中豪雨などがあり、我々も教訓を学んでいます。できるだけ現地と情報網を結び、中央集権型ではない情報共有の仕方で、迅速に対応して欲しいと思います。
飯田)各省庁、地方の出張部局のようなものはそれぞれ持っていますものね。
松井)こういうときに頼りになるのは、地方整備局という国交省の出先です。道州制を議論しているときは、「国の出先はなくてもいいのではないか」と。道州のようなものがそれを担うべきだという考え方もありました。
飯田)広域インフラのような。
松井)都道府県をまたがるものですね。例えば、東日本大震災なら東北、特に太平洋側の各県が甚大な被害を受けたときに……。
飯田)岩手、宮城、福島など。
松井)道州があったらどういう役割を果たしていたのかわかりませんが、当時いちばん機能したのは、やはり整備局なのです。
国と自治体との協議体をつくり、いざというときには、まとめていろいろな資材を集中的に投下できるようにする
飯田)「くしの歯作戦」と言われました。東北自動車道と国道4号線から「くしの歯」のように沿岸部に伸びる国道を、救命・救援ルート確保に向けて切り開いていく。
松井)分権と集権において、どちらか一方の「白か黒か」ではなく、普段の日常は自治体主導でいいけれど、災害が起きたら協議体をつくるという考えが必要だと思います。
飯田)災害が起きたら。
松井)都道府県知事は一定期間、数ヵ月は国に返し、コントロールタワーを国につくるという必要があるかも知れません。
飯田)国主導で行う。
松井)コロナ禍のときも、そういう議論があったのです。問題は、コロナ禍において厚労省に大きな権限を与えたとしても、厚労省は実は手足を持っていないのです。保健所は厚労省の組織ではありません。
飯田)各自治体に紐づいている。
松井)かつて稲盛和夫さんが「アメーバ経営」とおっしゃっていたけれど、日本の行政組織も自治体との協議体をつくり、いざというときには、まとめていろいろな資材を集中的に投下する。そういう体制が必要だと思います。新たな指揮命令系統をつくり、各自治体レベルではできない判断を国が負う。
緊急時には消防や警察を機動的に配置できるような国と地方自治体の協議体をつくる
松井)しかし、それを恒久的に国が持ってしまうと、巨大な中央政府になってしまいます。伸縮自在に動けるような行政機構をどうつくっていくのかは、大事な課題だと思います。
飯田)恒久的に国が持つのではなく。
松井)首都直下地震が起きたときには、立川などに機能を分散していても、東京都庁が機能しなくなる可能性があるわけです。
飯田)そこすらも被災してしまう可能性が高いわけですよね。
松井)そういうときに、どんな体制で指揮命令系統を考え、全国からのいろいろな資源や救急救命要員を集約できるのか。消防は自治体消防、警察は各都道府県の行政が原則ですが、いざというときには機動的に配置できるような、国と地方の協議体をつくるべきだと思います。いまのような時期に、それを考えておくべきです。
今後20年~30年レベルで考えたときに、整備しておかなければいけない法制度や日本の今後の在り方をいまのうちに議論して欲しい
飯田)憲法改正の議論のなかで、緊急事態条項などにおいて、国会の機能も含め議論はしていますが、そういう憲法議論にもなっていきますか? それとも法律レベルでできるのでしょうか?
松井)緊急時に国と地方の役割分担をどうするのか、やり方はいろいろあると思います。1年~2年かけて、どういう法整備を行えば中央組織の肥大化にならず、地方の自主性の芽を摘まないような形で対応が可能なのか、研究するべきですね。
飯田)1年~2年かけて。
松井)最近は使わないけれど、安全パイの何年間という言い方をしていたではないですか。
飯田)しばらく選挙がないので、「3年ぐらい黄金の時間がある」というような。
松井)「黄金の3年」などと悠長なことを言うのではなく、こういうときにやっておく必要があります。今後20年~30年レベルで考えたとき、整備しておかなければいけない法制度や、日本の今後の在り方を議論して欲しいですね。
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