中国への半導体製造装置の輸出規制強化 「日本の人材流出をどう防ぐか」がポイント

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が7月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。7月23日から強化された中国への先端半導体製造装置の輸出規制について解説した。

中国への半導体製造装置の輸出規制強化 「日本の人材流出をどう防ぐか」がポイント

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年6月19日 AFP=時事 写真提供:時事通信

先端半導体の製造装置、7月23日から輸出規制を強化

政府は7月23日から先端半導体の製造装置23品目について、輸出規制を強化する措置を始めた。政府が輸出管理の仕組みが整っていると認めたアメリカや韓国など42の国や地域への輸出よりも、中国などに輸出する際の手続きが厳しくなり、毎回、経済産業大臣の許可が必要となる。

飯田)先端半導体の規制が強化されます。

宮家)中国がかなり困り始めると思います。このニュースを聞いて、少し飛躍するかも知れませんが、太平洋戦争が始まる前に、日本はABCD包囲網で石油を禁輸されました。Aがアメリカ、Bがイギリス、Cが中国、Dがオランダで「ABCD包囲網」と世界史で習いました。いまはBもCもありませんが、ADが残っています。アメリカとオランダが中国に対して厳しい措置を取っています。

飯田)ABCD包囲網。

宮家)加工技術だけではなく、設計ソフトも含めて広範な輸出規制をしています。それに日本も入るので、ABCDではなく、AJD包囲網ということになります。

最先端の技術を中国に取られない ~真綿で首を絞められる思いをしている業界関係者も

宮家)これは中国を困らせるためにやっているのではなく、本来は「中国が持っていないものを出さない」ということです。中国が持っているものは仕方がありません。しかし、基本的にいまの中国の技術は、概ね1世代か2世代遅れています。

飯田)中国の技術は。

宮家)これで最先端のものを出してしまえば、それだけ中国の軍事技術や業界の優位が高まるので、このままにはしておけないのでしょう。

中国を暴発させないためにも米中で話し合いを続けることが大事

宮家)徐々にではありますが、こうした政策はボディーブローのように効いてくるでしょうし、当然中国も対抗措置を取るとは思います。特に業界関係には、真綿で首を絞められるような思いをしている人たちもいるでしょう。それを打開するために、米中で外務大臣レベルの人たちが、最近でも2回会っていますよね。しかし全然、成果がありません。

飯田)そうですね。

宮家)会うこと自体はいいと思います。相手が何をするかわからない状態は怖いので、相手が誤解しないよう信頼醸成措置を行い、きちんとコンタクトを取っておく。

飯田)信頼醸成措置。

宮家)そこまではいいのですが、これは戦前の日本でも何とか日米関係の維持のためやったわけですよね。しかし、それには限度があります。あけボディーブローを打たれると、日本も最後は暴発してしまいました。今の中国も同じだと言うつもりはありませんが、中国も巻き返しているとは思うけれど、やはりどこかで折れてしまうのではないかと心配しています。その意味では、全体として米中の話し合いが上手くつながっていくことが大事だと思います。

経済官僚が弱くなり、業界の現場やマーケットの実情を知る人の声が十分に伝わらない中国

飯田)習近平体制が3期目に入り、それまでアメリカと交渉してきた人たち、いわゆる知米派と呼ばれる人たちのなかで、経済安保に関わっていた劉鶴さんが一線の役職を退く形になった。その辺りの対話ルートが細っているのではないかという指摘もあります。

宮家)現在具体的に誰と誰が水面下でつながっているのかは知りませんが、全体を見てわかることは経済官僚、いわゆる中国のテクノクラートの地位が下がっているような気がします。政治側の人たちが強くなっているので、業界の現場やマーケットの実情を知っている人たちの声が共産党のトップに十分に伝わっていないのではないか、という恐れはあると思います。その意味では心配です。

飯田)ヘンリー・キッシンジャー氏が中国を訪問しましたが、100歳だそうですね。

宮家)長寿なのは素晴らしいことですが、「まだ中国は100歳のおじいちゃんに頼っているのか?」という気もします。ニクソン政権で「井戸を掘った人」だから、大事にするのはわかりますが、当時とは全然状況が違います。あのときはソ連が強力になり、米中が結ぶことで何とか新しい枠組みをつくろうとしたのですが、いまは中国が強大化しているので、キッシンジャーさんがやったようなことを繰り返せるはずはありません。

日本の人材流出を防ぐことは重要なポイント

宮家)これから先端半導体を規制するにあたり、私は「日本はどうなるのか」を見ていますが、ただ単に技術を規制するだけではなく人材流出、中国による日本人人材の引き抜きが大きなポイントになります。技術を使える人間を日中がどれだけ確保できるかということです。

飯田)流出しないように。

宮家)報道によれば中国では、アメリカが厳しい規制を行っているので、アメリカ人の技術者が中国から流出しているそうです。それに対して韓国はどうしようかと見ているのですが、日本の場合も、実は中国による日本人技術者の引き抜きが始まっているという話も聞きます。

飯田)引き抜きが始まっている。

宮家)かなり大きな話です。日本は給料も安く、待遇もよくないので、日本からの人材流出を防ぐためにも、いろいろ考えなければならない時代になっていると感じました。

飯田)かつては千人計画のようなものがあるのではないかと報道されましたね。

宮家)日本も半導体については途中から息切れしてしまい、人材が抜かれてしまったこともあるので、これは極めて大事なポイントだと思います。

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